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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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従士隊舎の変。



 従士隊舎の陰を、騎士達が駆けていく。

 周囲を窺い、ハンドサインを出しながら進むのを、右目を細めて視界に映した。


 自分が留守にならず、かつ酔わずにサポートアイズを使うため編み出した、片目を薄目にしつつ切り替えるチラ見方式だ。


 もちろん今は部屋で一人きりでいるわけではないから、確認だけをしたら、すぐに視界を元に戻す。


「平穏とは地位とお金だけでは買えないものだよね」


 もしも穏やかを司る神様がいるならば、生け贄を捧げてでも加護を受けたい私がいる。

 いや、生け贄が適切な神様ではなさそうだし、現実にはそんな鬼の所業、無理なんだけども。

 気分的な話。結構、切実。


「なんかお前、悪役っぽい」


「失敬な。しみじみと現実を噛み締めただけのことだよ」


 グリューベル特殊部隊が収集した情報によれば、どうやら本日はお偉いさんが従士隊の視察に来ていたらしい。

 つらっと見て帰るコースだったので、従士達には事前に知らされてはいなかった。

 よいよい、構うな、という奴だ。


 しかしお偉いさんはなぜか護衛騎士の目を盗んで脱走。チャンスを嗅ぎ付けた悪者がそれを捕獲…したものの逃げ切れず従士隊舎の一画に立て籠もり。


 …ちなみに逃げたお偉いさんとは、この国の王子様とお姫様らしかった。

 社会科見学的な感じで来てみたらしいよ。


 騎士がすぐ駆けつける従士隊舎でそんなことするから逃げられない悪者も、子供が多いからテンションでも上がったのか逃走を計った王子と姫も、本当にどうかと思います。

 迷惑でございます。


 簡単に我が小鳥部隊のプリティ・アイズを逃れることはできないので、やきもきする騎士達には悪いが、今彼らが無事であることを私だけは知っている。


「居残る理由はあるんだろうな?」


 そう問われて、小さく頷きを返す。


 異変が確認された際に、私達は騎士の指示のもと速やかに建物外に脱出。既に本日、従士達には解散命令が出されていた。

 つまり「野次馬していて邪魔になると困るから、はよ帰れ」ということだ。


 級友達はとうに捌けた。だというのに一人だけなかなか帰らない私に、噛みついてくるのは左横を陣取るイルステン。

 何だろうね。様式美か何かかな?


「アンディラート待ちだ。遠征時以外は共に帰る約束をしている」


「…ちっ、仕方ない。俺もいてやる」


 いや、なんでだい。


「用事のないものは速やかに帰宅するように言われたはずだけど」


「複数人で行動するべき状況だ」


 …まぁ、私が何を言ったところで納得しないんだろう。好きにするがいい。


 サポートアイズを使っていることだけ気取られないよう、注意しなくては。片目チラ見をマスターしておいて良かった。


「ねぇ。どうしてアンディラートだけ騎士に同行させられたのか、知っている?」


 期待もせずに問いかけた。


 私が帰れないのは、アンディラートが帰れないからだ。従士は速やかに解散と言いながら、彼だけを連れて行った騎士隊。

 他は、上級生で専属従士であっても帰されているようなのに。


「…お前、知らないのか。本人から教えてもらえなかったのか?」


 くっ。

 な、何よ。アンディラートが何かの事情を私に隠したとでも言うつもりかね?

 かつ、自分は知ってるアピールか?


 ククク、随分上手に私を煽るなぁ。


 ラーニングしたての新技を披露するときが来たようだ。

 食らえ、お父様直伝ブラック・スマイル!


「お、怒るなよ。そういう意味じゃなくてっ、ホラその…あいつは特別従士候補になってるって話だぞ」


 さらりと出てきた謎の言葉に、私は首を傾げる。


「…特別従士?」


「年齢こそ足りないけど、騎士と同等に戦えるって見做されたんだよ」


 いや、成人前の子供を戦力に加えちゃダメでしょうよ。

 特別従士って何だ?

 初めて聞いたけど…と考え込みかけるところに、見張らせていたグリューベルからの新情報が右耳着信。


「あ、まずい」


「え? あっ、オルタンシア、待てっ」


 待てと言われて待つヤツぁいねぇっ!


 というか構っていられない事態なので割と本気のダッシュ。ついてこられても困るので小道加えた撒きダッシュ!


 建物の隙間を通って、騎士達の死角を縫って、誰にも見つからないように…。


「オルタンシア…! こっちだ!」


 あれ、見つかったわ。


 きょろりと首を巡らすと、木の陰で手招きをしている幼馴染みの姿が。

 あと、騎士いるわ、騎士。ヤバイ。


 互いに「お静かに」サインを出しつつ、私が相手の元へと駆け寄る。

 不審者でないことを伝えようと、すぐにアンディラートが私を紹介した。


「幼馴染みの従士です。怪しいものではありません。一緒に帰る約束をしていたので待たせていたのですが…」


「従士証は…2回生か。なぜここへ?」


 アンディラートは二人一組で行動していたようで、幸い騎士は一人だけだった。


「申し訳ありません。私の手の者から、情報を得ています。王子の捕らわれた部屋の位置がわかりましたので急ぎ参りました」


「何。どこだ。どうやって突き止めた」


 まだ中に入れていないから、建物の周囲で騎士達が探索している段階だ。そこにそんな情報を持ち込むのは確かに怪しい。


「王子がこの建物の三階左から二つ目のあの部屋ですね。姫は今、移動させられているようです。行き先はまだわかりません」


「まさか、建物の中に人を潜り込ませたのか? 勝手なことは…」


「いいえ。外での監視です。目の良い者が、木の上のほうに隠れています。簡単には見つかりません」


 嘘じゃないです。鳥なだけです。


 アンディラートは気がついたようだ。騎士にコクリに頷き、「確かです。情報は信用できると思います」と伝えている。


 右目を細めて確認する。

 残念、王子様は殴られてしまったようだ。まぁ、流石に間に合わないよね。


 しかし何か継続して誘拐犯の気に障ることでも言っているのだろうか、相手の形相がかなり危険だ。

 窓から離れているのでグリューベルを近くまではやれない。音は拾えない。


「王子が、危険かもしれません」


 呟くと騎士が反応した。


「よし、ではお前もついて来い」


「やめておきます。一階は誰もいないようですが、二階の階段には見張りがいます。三階廊下に三人。部屋には王子と一人だけ。姫が実習棟のほうに連れて行かれているので早めに戻って下さい」


「なっ…」


 お断りも新情報入手も突然ですみません。

 でも、普通はただの従士は突入についていかないよね?


「騎士トリステル。話をするので、ちょっとだけ待って下さい」


 アンディラートが私の腕を引いて、騎士から少し離れる。


「グリューベルで見たのか?」


「そう。王子様、何か誘拐犯を煽ってるみたいで殴られてる。相手がだいぶ怒ってるから、あんまり放っておけない感じがする」


「オルタンシアはどうする」


「必要なら外から援護する。見られていなければ木を登って行けるし、王子様があんまり危なさそうなら、窓に石を投げても気を引けるから」


「わかった」


 簡単にわかっちゃうのね。

 微塵も疑われていない。そんな場合じゃないのに、つい口許が緩んでしまう。


「木の上にいる監視者への指示などがあるようです。場合によっては外から援護するそうなので、彼女はこのままここに残していただけませんか」


「…わかった。くれぐれも勝手に手を出したりして、早まったことをするな。殿下の安全に関わる」


「お邪魔にならないようにします」


 気をつけてね、とアンディラートに小さく声をかけ、私は木々の陰に引っ込んだ。

 困惑げな騎士はしかし、アンディラートに声をかけて建物に向かっていく。


 グリューベルの目だけだと、完全に騎士達の死角は取れないんだなぁ。

 でも高い警戒が可能とはいえグリューベルの気配察知力まで共有してしまうと、私の本体が完全にお留守になってしまうからな。


 見つかってしまったことを反省しながら、右目に薄く小鳥の視界を映した。


 と、別のグリューベルから最新情報。


 姫を連れた誘拐犯は実習棟へと移動しようとしたらしいが、渡り廊下でばったりと騎士と出くわした。

 実戦経験の差なのか、立ち直りの早い騎士達が優勢。あっさりと捕縛された。


 お姫様も無傷のようだ。

 無事に保護されたので、私はこちらに集中しよう。


 右耳で建物内に放っているグリューベルの聴覚を共有し、アンディラート達の様子を探る。私本体の右側がだいぶ無防備なので、木に凭れておく。


 おお、一緒にいた騎士は強いみたいだ。二階の見張りを一瞬で叩き伏せた。アンディラートも素早く犯人の手足を縄で縛っている。


 静かに、素早く進む様は頼もしい。


 三階の一人も物陰に引きずり込んで倒していたが、流石に全員に気付かれずにというのは無理だった。次の一人は対峙するしかなく、相手が騒ぎ立てたのだ。

 すぐにもう一人も参戦する。


 部屋の中の男も異変に気付いた。王子がヤバイ。


 視覚と聴覚を引き戻し、すぐさま近くの木に登った。

 枝の上を駆けて、建物近くの木に向かう。

 どうしよう。なんか、いよいよメスゴリラを否定できなくなってきた気がする。猿人系令嬢はイヤアァ。


 心とは裏腹にスルスルと高い位置まで木登り。






 ばっちりと誘拐犯と目が合う私。







 うわぁ! 窓に向いて立つなー!


「女は度胸! オルタンキーック!」


 枝を蹴って、窓に飛び込む。割れずにビタンとなって落ちたら格好悪いので、つま先強めの身体強化様でガラスをぶち破る。

 顔に切り傷なんて作ったらお父様が泣いちゃうから、マントでガードも忘れない。


 降り注ぐガラスから身をかばう誘拐犯を放置して、鼻血まみれの王子を素早く背に確保。


 派手な音を立てたせいか、廊下の戦闘を終えたらしいアンディラート達も、すぐに駆け込んできた。


 挟み撃ちの誘拐犯。

 舌打ちして、難敵と思われる騎士一択で斬りかかっていったが、残念! ここで卑怯にもオルタンシア様が後ろから足払い!


 体勢を崩した誘拐犯はあっという間に討ち取られた。



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