全力で参ります!~決闘:先鋒~
また、怒られるかもしれないな。
観客の中に、唖然とした幼馴染の顔を見つけて、私は苦笑する。
先に知らせたら、やめろって説教どころか、代闘士になるって聞かなさそうなんだもん…。
「オルタンシア・エーゼレット。母の葬儀の当日に、新たな母親候補の肖像画を持ち込んだ貴族3名の侮辱行為に対し、名誉をかけた決闘を申し込んだものである。相違ないか」
代闘士を立てては、話題性が半減。
これは、私がやらなければいけないことなのだ。
「ございません」
なんとこの場には王様も来ております。見届け人は代官だと思っていたのに。
一貴族の決闘に、なんで王様しゃしゃり出てきたんだ。
見習い隊のときに見かけた決闘ではいなかったから、いつでも出てくるわけではないと思うんだけど。
お父様が宰相だからか?
ちなみに、お父様は「見ていられないと思う」とのことで、来ておりません。
すっかり気弱になってしまわれて…おいたわしい。
でも、詳細を見聞きするよう指示された部下かなんかが、どっかにいるはず。
「ゲイリー・ゼヴァン、ジルドレイド・ヒッタール、ゴルドー・マグオス。オルタンシア・エーゼレットの訴えに異論はないか」
「馬鹿な思い込みです! 我々は貴族としての義務を果たすために必要であろうと、わざわざ出向いて差し上げたのですぞ」
異議あり、とばかりにこちらを指差して、決闘相手達が自己弁護を図る。
「そうですとも! 本来なら感謝こそすれ…無謀な決闘を申し込むなど!」
「淑女としての自覚が足りないのではないですかな! これは早急に新しい母親も必要でしょう!」
なにせあの格好だ、などと言われて、観客の視線が私に向いた。
視線、いらっしゃいませ。
私はばさりと真っ赤なマントを払って見せる。
この日のために、貴公子然とした衣装をご用意致しました。
採寸の際の使用人達のドン引きっぷりったるや、もう。
元々変わり者のお嬢様が、トチ狂ったと評判だよ。
旦那様もお嬢様も、奥様が亡くなられてから人が変わられたよう…とモショモショ噂しまくってる。
遠回しに聞こえるように言うのは、諌めているつもりなのかね。何なのだね。
それにしても、こんな小柄な美少女(男装)である。
甲冑を纏う彼らとの対比は凄まじい。
「貴族の義務とは片腹痛い。葬儀の最中に押しかけ、「辛気臭い」だの「後妻なら自分達くらいの家格でなければ」だのと口にした輩を、下衆以外の何と評すればよろしいか。貴殿らに勧められた女性が、品行方正だとは到底思えませんな。かような女性を母親として認めろなど…この私に対して何という侮辱か?」
意識して低めに腹からの発声。
こちらの言い分は周囲にきちんと届けて見せる。
アンディラートの家だってそうだから、喪が明けてすぐ後妻を娶ることは、珍しくないのかもしれない。
それでも、妻の葬式中に後妻の見合い写真持って来るのはクズの所業だよ。
お父様を殺しかけたヤツらの世間体に、配慮なんて必要ない。
「抜かせ。小娘が! 後妻は取らぬとでも申すつもりか!」
一人がいきり立つ。その姿には、思わず笑ってしまった。
どうして彼らはこうも自信満々に在れるのだろう。
「娶る女性は、いずれ父が自分で決める。もちろん私の母としても相応しい女性をだ。貴殿らに押し付けられるものではない。ごく普通のことだと思うがね?」
「我々は親切で…」
ひゅん、と抜いた剣を手の内で回す。
ピタリと剣先が相手を定める。
相手の言葉が途切れた。
「親切で葬儀を穢したか? 親切で、嘆く遺族に嘲笑を浴びせたのか? 御託はもう結構。正当な主張がどちらのものか…さあ、天意を問おう」
女だとわかっていても、カッコイイ。コンセプトはこれである。目指せ、ヅカっ子。
立ち振る舞いには細心の注意を払って。
殿方より紳士的に。王子様よりも、王子様らしく。
さぁ、オスカルンシアとお呼び!
…あれ、なんか語呂が悪い…?
「鎧もなしに、正気ですかな。まずは小手調べ…と言いたいところですが、私一人で終わってしまっても恨まないで下さいよ」
あんまり目立たないクズが一番手を申し出た。
あの日お父様に猛攻をかけてはいなかったが、こいつも、あわよくばとうちに入り込んできたことは確かだ。
許さんです。お覚悟です。
「ゲイリー・ゼヴァンが代闘士、傭兵・豪腕のグロックだ! 子供を苛めるのは趣味じゃないが、決闘に手加減はせんぞ」
…と思ったら、角の付いた兜とトゲトゲ鎧の、山賊みたいなオッサンが出てきた。
ガントレットを打ち鳴らしながらのご入場だ。剣を腰に差しているのに、格闘タイプなのだろうか。
私はうっすらと笑みを浮かべて、礼をして見せる。
「オルタンシア・エーゼレット。…全力で参ります」
私一人で終わる、とか言っていたくせに戦うのは代闘士である。
あの人、甲冑着てるのに戦わないのか…何のためにあの格好してきたんだ。
「始め!」
審判である騎士の合図で、私は地を蹴った。
ピュンと小さな風切り音。
傭兵は私の剣を避けた。
「小娘、速いな!」
残念。やはり腕の立つ大人ならば、このくらいの速度だと対応できてしまうらしい。
私の剣は、デカいはずの的を捉えられなかった。
続いて二度、剣をかわされる。お返しのような張り手をかわし返して一旦下がる。
けれど、これは全力の、私自身の速度だ。
未熟さを理解こそすれ、絶望には程遠い。
こんなデカブツ、敵ではない。
一瞬で目の前に飛び込んできた私に目を瞠り、オッサンは重い音を立てて腕を振るった。
さすがの豪腕さん。多分、私くらいの体格の一般人ならドピョーンと吹っ飛ばされること請け合い。もちろんベッキベキに色々折れるだろう。
だけど、私は一般人ではないので。
「…なにっ!?」
右の拳は一歩引いて躱した。
2撃目の左は地面すれすれまで沈んで躱し、間髪入れずに伸び上がる。
相手の顎を、振り抜いた剣の柄で一撃。
身体強化様の御加護付きだ。
自分が捕まっては意味がないから、慌てずヒット&アウェイ。
決闘開始時の位置まで素早く戻る。
後方宙返りはサービスです。
ええ、練習しました。
アンディラート先生の教えのもと、いっぱい練習しましたよ!
油断せずに、剣を構え直す私。
ゆらりと揺れる傭兵。
静まり返る観衆。
けれど、ずしん、と音を立てて傭兵が沈んだ。
…そのまま、動かない。
周囲が呆然とする中、審判だけが気を取り直したようで、相手に駆け寄る。
審判、偉い。ちゃんと仕事してる。
「…グロックの昏倒を確認。勝者、オルタンシア!」
歓声が上がった。
剣を鞘に戻し、担架で運ばれる傭兵に向かって、優雅に一礼しておく。
貴公子たるもの、始めと終わりは無駄に余裕を見せなくては。




