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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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31/303

全力で参ります!~決闘:先鋒~



 また、怒られるかもしれないな。

 観客の中に、唖然とした幼馴染の顔を見つけて、私は苦笑する。

 先に知らせたら、やめろって説教どころか、代闘士になるって聞かなさそうなんだもん…。


「オルタンシア・エーゼレット。母の葬儀の当日に、新たな母親候補の肖像画を持ち込んだ貴族3名の侮辱行為に対し、名誉をかけた決闘を申し込んだものである。相違ないか」


 代闘士を立てては、話題性が半減。

 これは、私がやらなければいけないことなのだ。


「ございません」


 なんとこの場には王様も来ております。見届け人は代官だと思っていたのに。

 一貴族の決闘に、なんで王様しゃしゃり出てきたんだ。

 見習い隊のときに見かけた決闘ではいなかったから、いつでも出てくるわけではないと思うんだけど。

 お父様が宰相だからか?


 ちなみに、お父様は「見ていられないと思う」とのことで、来ておりません。

 すっかり気弱になってしまわれて…おいたわしい。

 でも、詳細を見聞きするよう指示された部下かなんかが、どっかにいるはず。


「ゲイリー・ゼヴァン、ジルドレイド・ヒッタール、ゴルドー・マグオス。オルタンシア・エーゼレットの訴えに異論はないか」


「馬鹿な思い込みです! 我々は貴族としての義務を果たすために必要であろうと、わざわざ出向いて差し上げたのですぞ」


 異議あり、とばかりにこちらを指差して、決闘相手達が自己弁護を図る。


「そうですとも! 本来なら感謝こそすれ…無謀な決闘を申し込むなど!」


「淑女としての自覚が足りないのではないですかな! これは早急に新しい母親も必要でしょう!」


 なにせあの格好だ、などと言われて、観客の視線が私に向いた。


 視線、いらっしゃいませ。

 私はばさりと真っ赤なマントを払って見せる。

 この日のために、貴公子然とした衣装をご用意致しました。


 採寸の際の使用人達のドン引きっぷりったるや、もう。

 元々変わり者のお嬢様が、トチ狂ったと評判だよ。

 旦那様もお嬢様も、奥様が亡くなられてから人が変わられたよう…とモショモショ噂しまくってる。

 遠回しに聞こえるように言うのは、諌めているつもりなのかね。何なのだね。


 それにしても、こんな小柄な美少女(男装)である。

 甲冑を纏う彼らとの対比は凄まじい。 


「貴族の義務とは片腹痛い。葬儀の最中に押しかけ、「辛気臭い」だの「後妻なら自分達くらいの家格でなければ」だのと口にした輩を、下衆以外の何と評すればよろしいか。貴殿らに勧められた女性が、品行方正だとは到底思えませんな。かような女性を母親として認めろなど…この私に対して何という侮辱か?」


 意識して低めに腹からの発声。

 こちらの言い分は周囲にきちんと届けて見せる。


 アンディラートの家だってそうだから、喪が明けてすぐ後妻を娶ることは、珍しくないのかもしれない。

 それでも、妻の葬式中に後妻の見合い写真持って来るのはクズの所業だよ。

 お父様を殺しかけたヤツらの世間体に、配慮なんて必要ない。


「抜かせ。小娘が! 後妻は取らぬとでも申すつもりか!」


 一人がいきり立つ。その姿には、思わず笑ってしまった。

 どうして彼らはこうも自信満々に在れるのだろう。


「娶る女性は、いずれ父が自分で決める。もちろん私の母としても相応しい女性をだ。貴殿らに押し付けられるものではない。ごく普通のことだと思うがね?」


「我々は親切で…」


 ひゅん、と抜いた剣を手の内で回す。

 ピタリと剣先が相手を定める。

 相手の言葉が途切れた。


「親切で葬儀を穢したか? 親切で、嘆く遺族に嘲笑を浴びせたのか? 御託はもう結構。正当な主張がどちらのものか…さあ、天意を問おう」


 女だとわかっていても、カッコイイ。コンセプトはこれである。目指せ、ヅカっ子。

 立ち振る舞いには細心の注意を払って。

 殿方より紳士的に。王子様よりも、王子様らしく。


 さぁ、オスカルンシアとお呼び!

 …あれ、なんか語呂が悪い…?


「鎧もなしに、正気ですかな。まずは小手調べ…と言いたいところですが、私一人で終わってしまっても恨まないで下さいよ」


 あんまり目立たないクズが一番手を申し出た。

 あの日お父様に猛攻をかけてはいなかったが、こいつも、あわよくばとうちに入り込んできたことは確かだ。

 許さんです。お覚悟です。


「ゲイリー・ゼヴァンが代闘士、傭兵・豪腕のグロックだ! 子供を苛めるのは趣味じゃないが、決闘に手加減はせんぞ」


 …と思ったら、角の付いた兜とトゲトゲ鎧の、山賊みたいなオッサンが出てきた。

 ガントレットを打ち鳴らしながらのご入場だ。剣を腰に差しているのに、格闘タイプなのだろうか。


 私はうっすらと笑みを浮かべて、礼をして見せる。


「オルタンシア・エーゼレット。…全力で参ります」


 私一人で終わる、とか言っていたくせに戦うのは代闘士である。

 あの人、甲冑着てるのに戦わないのか…何のためにあの格好してきたんだ。


「始め!」


 審判である騎士の合図で、私は地を蹴った。


 ピュンと小さな風切り音。

 傭兵は私の剣を避けた。


「小娘、速いな!」


 残念。やはり腕の立つ大人ならば、このくらいの速度だと対応できてしまうらしい。

 私の剣は、デカいはずの的を捉えられなかった。

 続いて二度、剣をかわされる。お返しのような張り手をかわし返して一旦下がる。


 けれど、これは全力の、私自身の速度だ。

 未熟さを理解こそすれ、絶望には程遠い。


 こんなデカブツ、敵ではない。


 一瞬で目の前に飛び込んできた私に目を瞠り、オッサンは重い音を立てて腕を振るった。

 さすがの豪腕さん。多分、私くらいの体格の一般人ならドピョーンと吹っ飛ばされること請け合い。もちろんベッキベキに色々折れるだろう。


 だけど、私は一般人ではないので。


「…なにっ!?」


 右の拳は一歩引いて躱した。

 2撃目の左は地面すれすれまで沈んで躱し、間髪入れずに伸び上がる。

 相手の顎を、振り抜いた剣の柄で一撃。


 身体強化様の御加護付きだ。


 自分が捕まっては意味がないから、慌てずヒット&アウェイ。

 決闘開始時の位置まで素早く戻る。


 後方宙返りはサービスです。

 ええ、練習しました。

 アンディラート先生の教えのもと、いっぱい練習しましたよ!


 油断せずに、剣を構え直す私。

 ゆらりと揺れる傭兵。

 静まり返る観衆。

 

 けれど、ずしん、と音を立てて傭兵が沈んだ。

 …そのまま、動かない。


 周囲が呆然とする中、審判だけが気を取り直したようで、相手に駆け寄る。

 審判、偉い。ちゃんと仕事してる。


「…グロックの昏倒を確認。勝者、オルタンシア!」


 歓声が上がった。

 剣を鞘に戻し、担架で運ばれる傭兵に向かって、優雅に一礼しておく。

 貴公子たるもの、始めと終わりは無駄に余裕を見せなくては。



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