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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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197/303

止められなければ、縄は収納していた


 私達はセレンツィオの所持する別邸に連行されたようだ。

 出迎えた使用人がおり、セレンツィオを旦那様と呼び、私達を客だと思って応対している。何とも普通のお屋敷である。

 地下に強固な座敷牢でもあるのでなければ、このチート娘を閉じ込めることなどできなさそうだけど…むしろウクスツクヌブレードで壁を斬れると思えば負ける気がしない。


 まずはゆっくり過ごすといいよ、というようなことを言ってセレンツィオはどこかへ行ってしまった。


 ガチガチに拘束して如月さんにすぐ引き渡そうとはしていないところを見ると、もしかして相手を見限って、「忘れられた姫君」を自分の駒にしようと企んでいるのかもしれないな。


 正直、セレンツィオとレッサノールが相手ならば楽だ。

 なんせ変な植物も出さなければ、心も読まない。魔法使いでも凄腕冒険者でもない。有象無象が何人いようが、のチートが絶対的優位を誇るよ。


 セレンツィオ一派が何人いるかはわからないが、組織自体は多分、上の方の有能そうな人間だけ潰して回れば瓦解するはずだ。

 セレンツィオが暁の目の情報を秘匿しているように、全員が忘れられた姫君を認識しているかというと、怪しいものだからだ。

 そもそも皆が足並み揃えてて有能なら、もっと早く事を成し遂げているものね…。


 クーデターを起こす力のない愚痴っ子集団なんて、飲み屋で管を巻くオッサンと同じである。脅威にあらず。

 よぅし、上手く如月さんと仲間割れしてもらって、セレンツィオ派の重要人物を紹介してもらわねば。そして速やかに殺らねば。


 とはいえ、やはりテヴェル&如月ペアも倒さねばならない。蔓延る悪をこの世から取り除くまで、油断してはならぬ!

 いや、まぁ…こっちも正義ではないけど。

 ふ、ふふん、独善の使徒オルタンシア様だぜ。ゲージが溜まったら出る必殺技とかあればいいのにな。紫陽花乱舞!とかさ。

 舞い散る花びらに触ったら鋭利に斬れるとか毒になるとか…え、ちょっと待って、これ頑張ればサポートエフェクトで可能なのでは…でもエフェクトは燃費悪い子だ。

 うーん。失敗すると黒モヤ祭り勃発で禍々しくなるな。ますます正義は名乗れないね。


 私の見張り兼案内は、引き続きレッサノールのままだ。早く主の元に戻りたいのだろう彼は、お屋敷内でもイマイチ引っ立て気味の態度を隠しきれていない。

 お客様にする態度ではないので、他の使用人に怪しまれそう。いいの?


 階段を上がって客間に案内される私と、唐突に離されて、階下で別の男にどこかへ連れ去られそうになっているラッシュさん。

 私は慌てて声をかけようと、…え。待て、いつの間に天使の手に縄をかけた。

 違う馬車だからって雑に扱ったか?


 許さん。

 レッサノール絶対許さん。


 急に青ざめる私に気付いて、レッサノールとラッシュさんが私を見た。

 それを理解していても、誤魔化すのは難しい。沸々と、怒りが。


「あ。フラン、落ち着け。これは、あれ、あれだから、その…何でもないから。俺も状況が知りたいんだ、このまま大人しくしているよ」


 そりゃあ隠す必要はないだろうけど、本音が全部出ちゃってるじゃないの。

 私の顔色が縄のせいだと理解したらしいラッシュさんは、慌ててその手を隠そうとするのだが…身体の前で縛られた腕は後ろに隠せないのだよ。


 左右に捻る運動みたいになってるからやめて。こんな時に笑っちゃうからやめて。

 その動きで、元気なのだけはわかったから。


 お陰で正気は取り戻したけどもさぁ。

 さっと確認するが、目立った怪我などはなさそうだ。

 でも、服の下はわかんないよね。お腹に青アザとかあるかもわかんないよ。ギリギリ。(歯軋り)


「私に供も付けず置いておく気かしら」


 天使を我が元に引き留めるべく咄嗟に口にしてはみたが、自分でもわかる。理由が弱い。

 案の定、レッサノールは肩を竦めた。


「これか。随分気にかけるのだな。一体どこで拾った供なのだか?」


「…ずっと前から一緒でしたわ」


「一度も見たことはないがな」


 そうなのよね、丁度ラッシュさんと別行動の時に君らと会ったからね。

 だが、どこまで話そうとも今すぐ幼馴染が私の元に戻されることはないだろう。

 諦めきれないので粘ってしまうが、それを宥めたのは他ならぬラッシュさんだった。


「大丈夫だよ、フラン。少なくとも今すぐ俺をどうこうしようというわけではない。多分俺からも状況を知りたいだけじゃないかな。正直、何も知らないけどな」


「…それについては本当に申し訳なく」


 何を伝えて何を伝えていないのか、ラッシュさんにとって何が疑問なのか。正直私にもわかりません。

 隠し事をするつもりじゃないのだけれど、やっぱりこう、私はコミュニケーション能力が低いのだろうね。そしてまた君も、説明不足の私を許しちゃうから。

 でもさ、それで現状、君に危害が加えられないかなんてわかんないじゃん!?

 言いそうになったが、レッサノールの前だ。


「くれぐれも丁重に扱って下さいね、レッサノール。私は、歴代後継者の中でも、恐らく最もお転婆だと自負しております」


 グッと堪えて、表情も半ベソしないように取り繕う。

 下がり眉になっちゃうのは許してほしい。


「彼は簡単に害せるほど弱い人ではありませんが。もしラッシュさんに何かあれば…この屋敷が大破するほどの大暴れも辞さない」


 ダメだ、結局真顔になってしまった。


 精進が足りない。

 むしろ足りないのは、ロールの練度よりも自身の堪え性なのかしら。

 カルシウム不足かな。ヒステリー女子には、なりたくないものであるな。


 引いた様子のレッサノールとは対照的な幼馴染よ。なんで笑いを堪えているのだい。

 訝しむ私に、彼は捕らえられているとは思えない朗らかな笑顔を見せた。


「何か今の、リ…お前のお父上に似てた。やっぱり親子だなって思って」


 何だと。お父様似!


 それは誉め言葉ですね!

 思わずニッコリ微笑んでしまう。


「あら嬉しい、本当? 容姿はほとんどお母様だと思っていたのだけれど、実はお父様似なのかしら」


「やはり女性であるから母君の色は濃いが、今は、そうだな。どちらにもよく似ているような気がするよ」


 やだ、さすが幼馴染。よくわかってる。

 両方によく似ていると言われた私はご満悦だ。私の側に立つレッサノールのことなんか、すっかり忘れるくらいニッコニコ。

 いっけね、姫君ロールが吹っ飛んでた。


 どこか呆然としたようにこちらを見ていたレッサノールは、ラッシュさんを今一度見詰め直して小さく「成程」と呟いた。


「丁重に持てなそう。だが、フランがこちらなのは変わらない。従者は下だ」


 階下のラッシュさんは結局一階のどこかへ連れていかれてしまった。

 状況は変わらず、私はレッサノールに連れられて二階のどこかだ。納得いかぬ。


 予知夢の分析はじわじわと進めている。

 時期と場所の特定はまだだが、少なくともこんなお屋敷の中ではない。


 確かに今のところ、すぐ何かされることはないのだろう。だが、いつ屋敷からの移動を命じられるかわからないのだから油断はできない。


 案内されたのは普通の客間だった。

 鉄格子も拘束具も見当たらない。私はお客様扱いで間違いないようだ。

 これなら、自重を捨てたらいつでも窓を蹴破って逃げられる。相手にも、窓を破って済まないという気持ちもわかない。よしよし、ラッシュさんを回収して逃げるのは余裕だな。


「あの従者は、いつからお前に付いている」


 レッサノールがチラリと肩越しにこちらを見て問いかけた。

 え、従者じゃないし。

 あぁ、でも、さっき咄嗟にお供だって言っちゃったんだ。


 正直に何を打ち明けようと、彼らも信じたいものしか信じないだろう。

 彼らに情報として必要なのは、「姫君」を懐柔する上で必要な「従者」という駒を、如月さんが取りこぼしているという事実。


「質問の意図がわかりませんけれど、彼とは幼少時から共におりますの」


「…キサラギよりも先か」


「そうですね、彼女には出会って1年も経ったかどうか…。ラッシュさんとは森の魔物のせいではぐれていました。キサラギさんは、私のみを仲間に引き込みたいようでしたね。ラッシュさんはどうしたって私を探しますから、到底、無理な話なのですけれど」


 思わず素で笑ってしまう。どんだけ自信満々なの、私。

 でも、成人すると同時に追いかけてきた幼馴染だ。幼少時から「守る」とか言ってたものね。

 こんなクズにも注がれる天使の慈愛(神より神々しい)を侮るなよ、なんて思う。

 そして、出奔をちゃんと成人まで待つとこがまた、真面目可愛い。


 だが、これでセレンツィオが優位になる…とレッサノールは考えるだろう。


 私が如何にも大切そうに扱うラッシュさん。

 逆鱗に触れたくなければ上手く確保しなければならないそれの価値を、如月さんは見誤っている。そう思ったはずだ。


 実際は、呪ったり他に害せる手段があるからラッシュさんを切り捨てられるのだろうが、そんなことはレッサノールにはわからない。

 ラッシュさんを確保することでフランが従順になり、如月さんを出し抜ける…そんな風に考えたはずた。


 実際には、サトリーヌな彼女を出し抜くことはできない。

 如月さんはセレンツィオを呪うだろうか。

 操ってしまえば彼女の某かの計画も問題なく進む。それを、良しとするのか。


 御守完備の私達は、もはや呪いにはかからないはず。実際に効果を確かめていないから不安はあるけど、そこはオタ者の目を信じよう。


「ラッシュさんはどこへ?」


 私の問いに、レッサノールはほんの少し考え込んだ。


「まずは彼から話を聞くことになるだろう。正直に答えねば、多少痛い目を見る可能性もあるが…」


「怪我をさせたら、私は貴方達には従いませんよ。お忘れかもしれませんが、私がテヴェルの護衛をした冒険者であるのは事実なのですから」


 だろうな、と嘆息する相手に、私はじっと睨みをきかせる。

 大暴れだぞ、コルァ。

 お屋敷の壁を切り刻むぞ。

 色々アレだ、なんかソレなんだからな。えっと、例えば、そう…。


「テヴェルの護衛は剣だけで事足りましたが、私には魔法もありますので」


 ゴリゴリの身体強化よりも、魔法の方が姫君らしいよね。

 本当は魔法ではなくチートだが、区別はつくまい。

 それに、アイテムボックスに足元の土をゴソッと仕舞うだけで、まるで土魔法による落とし穴のようなんだぜ。アイテムボックスから水をぶちまけて、氷竜印の魔道具で急速冷凍もできるのだぜ。

 タネがわからなければ、奇術(マジックトリック)魔法(マジック)で通じるのだ。


「…強いのだと、キサラギも言っていたな」


「グレンシアで一目置かれている冒険者と決闘したこともありましてよ。勝ちました」


 事実だ。胸を張って強さをアピールする。

 レッサノールの表情はちょっぴり苦虫を噛み潰したようになっている。

 凄腕冒険者さんもグレンシアで一目置かれているのは間違いない。何でも言っとけば箔がつくだろう。


「まぁ、少し大人しくしていろ。セレンツィオ様も、…恐らくはそう悪いようにはしないだろう」


「違えたら、物理的にお屋敷が半壊します。あら、この部屋なら、全壊も狙えますわね」


 マジかよって顔をされた。

 この部屋は実は関係ない。どの部屋からであっても窓から飛び出てウクスツヌブレードをロングにし、左右に何度も振ったら全壊すると思います。

 何なら未だアイテムボックスにある大木を、屋根の上からブチ落としてやっても良いのだぞ。



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