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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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天使の上方修正能力



宝物庫の奥には、王家の至宝がたっくさん。

聞くところによると、そんなお話だったのですが。


「…使えそうにないなぁ」


思わず呟いた私を、王様が驚いた顔で振り向いていた。やべ。

至宝を奪い取って帰ろうとか、欠片も考えていないので、安心してほしい。

でもさ、至宝とか言われたらイヤでも期待するでしょう。

中には王家に伝わる武器防具もあるっていうんだもの、すごい魔道具かもしれないって思ったのよ。


本物が貰えなくても、説明を受けて理解し、スケッチしまくれば再現できるはず。

ラッシュさんの身を守るのに適した素材とか、あればいいなと思うじゃない。

思ったよ私は。


でもね…使えない。実用品じゃなく、装飾用のものがほとんどのようだからだ。一応着れるよ~ってなもんなのだろう。

あれよ、よくある、鎧の置物。洋館の廊下とかに居そうなヤツ。しかも例によって金ピカで、宝石も付いてるよ。

…着たいヤツいないだろうよ。成金かな?

防具を資産として守らなければならないなんて本末転倒ではないか。


「何か欲しいものでもあったのか?」


「いや、参考になるものがあればな、と…思っていたんだけど」


今のところないわ。皆無ですわ。

ボソボソと内緒話をしていると、ツカツカと王様が近付いてくる。

えー、やだ、なんか近寄ってきたよ。

何となく会話をやめてそれを見守った。


「何を考えている。狙いは何か、申せ」


王様はピシャリとした口調で言った。

多分、普通の臣下はここで「ははぁっ!」となるのであろう。

いや、私は申さんよね。王様には関係ない。


私の感想は、この人あんまり迫力ないな、であった。すまん。

前世の記憶が、身分制度に対する無闇なひれ伏しを拒むのだ。そう、我こそが無礼者だ!

…なんて高らかに名乗る訳にはいかない。

しかも今は淑女モードなので、意味ありげな微笑を浮かべるに留まるのでした。


睨まれても怖くないぜ。

文句の付けようのない姿勢できちんと立ち、両手をお腹の前で組んでニコニコし続けた。

王様は苦々しい表情をしている。


「何が使えぬ? 何に、使えぬ?」


「あぁ、違うのです。とても個人的なことですわ。そちらに害のあることでもなければ、良からぬ企みでもございません」


しかし王様は納得しない。

本当に王様にとっては、ちっとも大したことじゃないんだけど。

仕方ないな。

まぁ、いい防具がほしいだけだ、話して駄目ということもない。

何なら、お勧めの防具をお聞きして差し上げもよろしくてよ。(ふんぞり返り)


「宝物庫で特定のものを探しているわけではありませんの。個人的に、できるだけ強力な防具を探しているだけなのですわ」


防具?と王様とラッシュさんが同時に同じ方向へ首を傾げた。


お、お揃いすんなし! 天使のお好みは私とのお揃いなんだからなっ!

ポッと出の王様なんかに、ラッシュさんの親友の座は渡さんぞ。

私は謎の嫉妬心を王様に抱く羽目になった。


「フランが装備するのか?」


王様が訝しげに辺りを見回した。

今日はタンスと机のゾーンではなかったので、わりと武器防具は置いてある。


しかしここの武器防具は男物です。

サイズも合わないだろうから、それを私が使う気なのかと訝しがられた様子。


統治したのは女王のはずなのに、置かれているのは、明らかに女物などではないのだよ。どういうことなのだろうね。


ゴツくてピカピカの防具達に目を遣って、王様は眉を寄せている。

いや、男物のブカブカ鎧を着てたこともあるけれど、今は私の分を求めてはいない。


「いえ、ラッシュさんに…なのですが」


「俺? 防具はあるけど」


ラッシュさんはキョトンとした。

城内だから今は軽装だが、部屋にはいつもの鎧が置いてある。


「そうだな。確かに初めて顔をあわせたときには、彼は鎧を着ていたと記憶している」


私だってそれは知っているよ。むしろラッシュさんについては、私の方が知ってるよ!

でも、そういうことじゃないんだな。


再び首を傾げかけたラッシュさんは、しかしハッと目を見開いて私を見た。


わ。気付かれた。


纏まらないままに弁明の口を開くより先に、彼は、完全に理解した顔をした。

私の態度がおかしかったこと。私が、ラッシュさんの防具を求めたこと。たったそれだけで。


けれど私が青ざめるよりも先に、やっぱり彼は言うのだ。


「…そうか。わかった。大丈夫だよ、フラン。何とかしよう。言ってくれて良かった」


言えてません。

一言も、私にはちゃんとしたことが言えてませんぜ。決心しかしてない。

何だよもー、なんで詳細を問い詰めようとしないの。

怖いでしょう、嫌でしょう? だって、当事者はいつも私で、私はいつだってとても頑張って自分を奮い立たせていたのよ。

こんなの、簡単に理解できるはずないのに。


わかったことなんて何もないはずだ。

大丈夫なわけが、ないはずだ。

不安に表情を歪めた私の頭を撫でながら、彼は王様へ向き直る。


「申し訳ないが、急ぎで防具を探しに行かねばならなくなりました。ここに入れることはわかったのだから、改めて機会を設けていただくことは?」


意外なのは、有無を言わさぬ目とその言葉の強さ。

王様も、彼が突然自己主張してくるとは思わなかったのだろう。状況が飲み込めない顔をしている。


「何ゆえ、防具を?」


「この国には本当に関係のないことで、それは私にとって必要であるはずだからです。なるべく早い方が良い。今すぐにでも」


まっすぐな目で言う彼は、多分その態度の誠実さで相手を納得させるのだろう。

私の取り繕えなかった表情も、王様の態度を緩めた要因だったのかもしれない。

お許しは出て、私とラッシュさんはこの後に城下へ行くことになった。

出掛けるなら冒険者ルックだから、慌ててお着替えしてからの再集合だ。


「…あの…、あのね…」


フードを深く被った私は、言葉を探す。

まだ言葉を選べていなかったけど、こうなった以上は言えることから言わないと。

部屋の前で待っていたラッシュさんは、無言で手を差し出した。


エスコートではないやつだ。

シャイボーイが自ら接触をを許すなど、何だかとても珍しい気がする。


「無理しなくていい。やることがわかれば、動けるから」


彼が微笑んでいるから、少しだけ怯えは収まる。本当は、彼が…、そこまで、ばれてしまったのだとわかっているけれど。


アンディラートは、何も言わない。

いつも、そう。


だけど、それに甘えてばかりいては良くないよね。話すと決めたのだから。


「夢を。見たよ」


うん、と彼は小さく相槌を打つ。

震えそうになる声を、何度も遣り過ごして。


「君が、私を、庇ってしまうのよ」


握り締めた手。

必死に手汗をアイテムボックスへとしまう。緊張しすぎている。

どうか私を庇わないでほしい。

そう伝えたら、君は怒るのだろうか。


だけど言わねば。あれだけは、どうしても現実にしたくない。

…それで未来が形を変えて、私が身を守る時を見極められなくなっても。


「…危険なら、庇ってしまうと思うよ。庇わなければ、オルタンシアが危険に曝されるということなんだろう?」


「私は、何とかなるから」


「…そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない」


アンディラートは私の予知夢を知っている。

現実になる前に変えようとあがく、私を知っている。


「例えここで庇わないと約束しても、嘘になるかもしれない。そう出来るか、自分でもわからないから。嘘になるなら、約束したくない。守らないと言ったところで、きっと、その場になれば俺の身体は勝手に動いてしまうと思うんだ」


それは…そうかもしれない。

そんなに器用に冷静に、使い分けて生きられる君ならば…こうも私が懐いただろうか。

私が懐かなければ、君も私を守るほどに、側に居続けることもなかったのだろうか。

騎士になって、家を継いで、お嫁さんを貰って…ヴィスダード様だって、君にはそうしてほしかったはずなんだ。


「大丈夫だ」


彼はまた、そんなことを言った。

私のせいで、死ぬ。

そう言われているのに。


「一緒に帰ろう?」


いつの間にか足を止めていた私と、困ったように笑うアンディラート。

もう一度、彼は言う。


「ねぇ、オルタンシア。一緒に帰ろう? 俺は、お前と一緒に帰りたいよ。小さい頃にお前の家の裏庭で過ごしたみたいにして、ずっと一緒にいたいんだ」


なんだかんだ随分と遠い昔のことみたい。あの穏やかで緩やかな、優しい時間を。

私だって、君と過ごしていたい。


「大丈夫」


繰り返す声には、気負いもない。


「だいじょうぶ、かな…?」


つられたように、私の口からそんな言葉が零れる。大丈夫なわけないのに。

だけど私も繰り返す。


「大丈夫かなぁ…?」


アンディラートは力強く頷いた。

大丈夫。

君がそう言うのなら、いつだって大丈夫だったのだから。


「大丈夫」


「大丈夫…」


「一緒に帰るよ」


「一緒に。うん。一緒に、帰る」


君は嘘を付かないから。

嘘になることは言いたくないと、そう言った君だから。

私は、もう、君を信じているから。


「お願いよ、アンディラート。絶対に死なないでね。君が死んだら、私も死ぬかもしれない…」


アンディラートはこの世の癒しを司っているのだよ。

それが失われるとなると…癒しを失った世の中で人はどうやって生きていくのか。

それは精神の死だ。それ以外の未来など見えない。

間違いのないディストピア。


「えっ」


えっ? 目を真ん丸にしてこっちを見られたのですが。

な、何それ。幼馴染が私を庇って殺されたとしても、フーンとか言っちゃうと?

何も感じないような薄情なヤツだと思われていたのですか?

それは…それは、さすがにちょっとないんじゃありません!?


「どういうこと? 私が「えっ」だよ! さすがにそこまで強くないと思うよ、私のメンタル!」


「あ、うん」


あ、うん!?

そんだけー??

何だい、その気のない返事は!

思わずこちらも目を見開いて相手を見つめてしまう。

君が如何に天使であっても、私は怒りますよ!


…なんでちょっと赤くなってきたの?

訳のわからないタイミングで赤面するんじゃない、私は怒ってるんだぞ!

ええい、照れ笑いするんじゃない、可愛い。


…くそぅ…、…許した!



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[一言] もう何もかも放り捨てて帰郷して結婚しよう
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