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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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呪いがポンコツ。



 思ったよりも快適に過ごしている。

 というのも原因は如月さんの、無理に無理を無理矢理乗せて無理をデコレーションした挙げ句無理までトッピングしたようなあの命令だ。


 滂沱の血涙状態の中、緞帳(どんちょう)を引き裂く勢いで決死の抵抗をしたら、こうなりました。

 具体的には、前世より持ち越した役柄達という残弾が尽きそうになるほど、大量に偽フランに吸収させた。


 …なんて言ってはみたけれど、実は狙って吸収させたわけではない。

 下されたトンデモ命令に対し、偽フランがつらっと勝手な了承を返す前に、何とか止めたかっただけだ。


 だが表に出ている人格に近付きすぎると、吸引力の変わらない呪いにキューッと吸い込まれて逝ってしまうのだから仕方がない。

 奪われる度に間髪入れず、ぼんぼこ次のロールを発進させました。そりゃもう必死に、何とかしようとしたんですよ。無策で。戦いは数なんだね、アニキ!


 しかし、呪いって謎過ぎるよ。

 馴染み深いロールほど持っていかれた時のご臨終感が凄いの。ぽっかり胸に穴の空くような喪失感。

何だい、あれ。ドーナツの気分なんて味わったの初めて。


 それに、偽フランは上っ面に居座っているのに、その後に奪われたロール達は今のところ勝手な発言や動きをしたりはしていない。


 2匹目以降は一体どこへ行ってしまうのか。ブラックホールの彼方? それとも偽フランの中に統廃合?

 今生では使えないような役柄もあったとはいえ、何も考えなくても完璧に演じられるほど熟成した彼女らとまさかのお別れをしたのは、何となく不安だ。急激な手札の減少に心がついていけない。


 多重人格でもないのだから、吸収されたからってどうってことないと思っていたじゃない?

 だけど、いざ演じようとしたら前のようにスムーズには動かないのだから実に不思議だ。

 切り離されたあのロール達は、もはや私のものではないのだ。

 いわば経験値がゼロになったようなもの。再び演じたければ、同じだけのやり込みが必要となるのだろう。


 しかし通常は1人分の人格を取り込むだけだろう呪いに、大量のロールをぶちかましたことにより、偽フランは処理落ちを起こしている模様。

 メールボムかF5アタックか。いいえ、椀子蕎麦ならぬワンタンシアです。…ワンタン…?


 とにもかくにも抜け穴はあった。

 何事にも許容量というものはあるのだから、多分、偽フランの吸収可能な人格量(?)を越えたのだろう。


 この言い方が正しいかはわからないが、呪いは故障した。

 外郭たる偽フランこそ維持されているが、私への圧迫が機能していない。

 完全に壊れきったのか、それともひっそりと自動修復中なのかは、継続して様子を見るしかないな。


 もしも一時的なダウンなら、今後に再びの拘束が待っているはずだ。

 対抗するためにも、再度ブチ当てるための大量のロール達の生成が必要になる。


 とはいえ今までは、現実を遣り過ごすために必要だから演じていたわけで…。

 偽フランにモグモグさせるためにとりあえず演じとくみたいな、捨て駒っぽいのは…ぬぅ、抵抗があるけれども背に腹は代えられないか。


 私自身が捕まれば、手の打ちようがなくなる。

 薄ぼんやりとした意識で、慰み物として生かされ続けるなんて、ゾッとする。


 まだ表にこそ出られないが、拘束はかなり緩んでいる体感があった。この好機を棒に振ることだけは避けたい。

 全力を注ぎ込んでも一言喋れるかどうか。その程度であっても、呪いには確かに自分で自分を動かせる程度の穴が空いていた。


 お陰で視界にも変化がありまして、景色がわりとクリアに見えるようになったよ。

 意識もはっきりしてきたし、音もしっかり聞こえる。

 そうして私は、偽フランがチートを行使できないことに気が付いた。


  身体強化様は自動で、私をある程度頑丈な生き物にしてくれてはいる。

 だが、意識して発動するような「それ以上の身体強化」や、「便利すぎるアイテムボックス」を使う気配が全くないのだ。


 如月さんにもチートの存在がバレないところから、それらはあくまでオルタンシアのものであり、疑似人格たるフランは共用に出来ないのだと知る。

 自分は正気なつもりでいたというのに、この有り様。

 実際は自分では気付けないような弊害だって起きていたのかもしれないよね。


 しかし…生理的嫌悪は何をどうしたって越えられないってことを学んだ。

 いや、だって無理でしょ、テヴェルとどうこうなるとか。それはもう死と同義でしょ。

 如月さんは人外の能力をお持ちのせいか、たまに発想まで人外で困るぜ。鬼畜か。


 ぱっちり目が覚めたような気持ちで状況把握に努めれば、どうやらテヴェル陣営は数日のうちに、この森からの移動を考えているらしいことがわかった。

 国へ戻る、と。セレンツィオがそう言ったのだ。


 国と聞いて脳裏には懐かしきトリティニアが浮かんだ。

 温暖な我が故郷…お父様、元気かしら。

 うっかり思いを馳せちゃったけど、行き先は全然違いますよね。


 彼らが帰ると言うのなら、トリティニアでは有り得ない。

 そして、それは「忘れられた姫君」の故郷でもあるはず。


 どなたか存じませんが、かつて花も恥じ入る美少女であった頃のお母様を監禁した、クズどもの本拠地ということである。

 正直、敵でしかないですね。

 だって、お父様に助け出されるまで閉じ込められていたのは確かなのだ。

 信じられないよ、何を己の良いように使おうとしているのか。私のお母様だぞ、崇めてひれ伏せよ。プンスコ。


 もしも国民達が虐げられているというのなら、彼らは自力で頑張るべきです。まずはユーがレボリューションしてみちゃいなよ。

 私は見知らぬ国の人達のために身を尽くすなど出来ないよ、聖女じゃあるまいし。

 むしろ対極にいるクズだ。他人を救うなんぞ烏滸がましい。


 そんなわけで、かの国を目指すというのなら、それはそれで良し。

 私の目的もブレることはない。

 誰かの救済でも、継承やら統治なんて政治臭いものでもなく、ただ「忘れられた姫君」が完全に忘れ去られることのみ。それ一択。


 簒奪された王位を取り戻すべく、正当な継承権を振りかざし…しかし実際には傀儡の女王を立てて権力を手にしようとした何かの勢力。

 それが、お母様とおばあ様を捕らえていた奴らだ。怨敵ですわ。滅殺ですわ。


 女王を手駒に持とうとする勢力が幾つも被るとは思えないし、多分そやつらとセレンツィオはお仲間なのではないだろうか。

 現在その勢力がどうなっているか…きちんと確認せねばならないな。


 確認してどうするかって?

 無論、根切りじゃ。

 この決闘従士より以前の姫君達が、如何に温厚で優しかったのか、とくと思い知るがよい。令嬢ながらも戦闘力を併せ持つこの私は、一切の容赦などしませんぞ。


 …殺らないと帰れないし。結構、帰りたいしな。

 前世で故郷から飛び出したことがあるかどうかは知らないが、今生で元気に飛び出してみた結果、わりとトリティニアが好きだったことを思い知りました。


 新しいお母様への配慮でおうちを出るとしても、王都かその周辺に住んでいたいなぁ。たまにお父様の顔を見るくらいの我儘は許されていいと思うの。

 ほぅら、帰宅のためにメスゴリラがアップを始めましたよー。


 私の人生、思えばわりと始めのほうから死と隣り合わせだった。

 それでもここまで生き延びてきたんだわ。

 4玉という数のチートが示す通り、運命とやらは随分と過酷な方向へと転がりたがるらしい。けれどもサトリさんは、与えられたチートを駆使すれば乗り切っていけるはずだと言ったのだから。


 今出来ることは身体の主導権を取り返せるよう、呪いを貫通したこの細いトンネルを掘り進めるだけ。

オルタンシア様にかかれば、呪いなんて大したことないぜ、フフン!


 しかしそんな調子こいた内心とは裏腹に、私の身体は強制的にマヨネーズを作らされていた。


 ええ、その、まだ命令には逆らえないんで。

 心の声が漏れないためか、私が本当は同じものを知っているだなんて誰も疑わない。


 テヴェル陣営には、フランは微かな情報を糧に味の再現ができる料理人だと思われているよ。

 そもそも料理不得手宣言のテヴェルを筆頭に、地位高そうなセレンツィオ、お付きだが明らかに貴族の気配漂うレッサノールと軒並み外食必須チーム。


 紅一点は、手料理なんて所帯染みたことなどしなさそうな如月さんだ。

 肉じゃが作らなくても、狙った男がフルコースを差し出して落とされに来る感じだもんね。


 皆食べるほうの専門家ばかりで、あんまり自ら料理はしないみたいなんです。

 くそぅ、私だってシェフじゃない、絵師ですよ!

 特にそこのテヴェル。わぁ、完璧なマヨネーズだぁ☆じゃないよ。

 電動のハンドミキサーもないのに女の子に泡立て重労働を強いるとか。だからモテないんだよ、お前は…。(身体強化様の加護付きのため、平気な顔をしながら)


 他の人が顔を引きつらせる中、テヴェルはモリモリと魔物化した野菜を食べていた。

 うん、ヘドバンしてたヤツ。

 あれね、鮮度が落ちてからは時折微かにピクピクしていたので、一層食べたくなさが増してた。


 でも私もさ、サラダにしてよねって命令を出されちゃあ、簡単には抵抗できないわけよね? 

 自分が食べることは「むり」と拒否したが、それは他の人も同様だったので特に不審には思われなかった。


 私とテヴェルにはちょっと馴染みのないリスクだから軽く考えがちだけど…魔力過多の食品って、この世界の人間にとっては、やはり本能レベルで避けるべき危険物なのだろうな。

 まぁ、何回か食べたところで問題ないでしょう。

 私だってサポートで作ったブドウ食べてたしね!


 拗ねながら喜ぶという謎の態度で、テヴェルは念願のサラダをモグモグしている。

 他の人はマヨネーズ自体も扱いかねていた。なんせメニューがパンとスープと切った果物なので。サラダ以外はマヨる要素がない。


 周囲とテヴェルの溝は深まっていく一方だ。

 如月さんはもっと緩衝材になってやるべきなのではないか。保護者として。


 しかし下手なこと言ってまた鬼畜命令出されてもやってられないので、特に頑張りません。

 君らの関係は君らが構築していくがよい。私、全く関係ない。


 いいだけ下っ端として酷使されるフランさんは、調理に後片付けと命じられるがゆえに、却って放置される時間が出来てます。

 特訓の時間が取れて助かるわ。


 オルタンシア、決して簡単に屈したりは致しませんよ!




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