おセンチメン。
転んでもただでは起きないとは、まさにこのこと。
オルタンシアちゃん巨乳事件により逃走したアンディラートは、一心不乱の素振りの末に、なぜか身体強化を会得していた。
「元々特訓はしてたんだけど。汗とか悲鳴とか色々出たら、魔力も出たらしい」
なんか泣きそうな顔をしていたのが、とても印象的だった。
まだ大人っぽい刺繍ハンカチには手を付けていないんだけど、出来るだけ早く作成しておいたほうがいいのかな。この子、いつ泣いちゃうかわからないもの。
小さい頃はやけに頼りになるチビ紳士だと思っていたのだが、最近はよく泣きそうな顔を見かける気がして心配である。
神童も成人する頃には唯の人、みたいな何かか…いや、紳士度は変わっていないな。
大人になると弱くなるとか?
確かに「最近涙脆くなって」などという大人台詞は存在する…でもそれ、もっと上の年齢層の話だよね。まだ早いと思うよ、アンディラート。
成人した私よりも1個上ということは、もうちょっとで16になるんだもんね。
シックスティーンはリメンバーされる側。
というか前世なら成人すらしていないし。
…あっ。えっ、アンディラートってもう16歳なんだ?
ヒェッ、わかったぞ。おセンチ男たるジャーニィだ!
なんてこった。
恐らく16歳を卒業するその日まで、彼の情緒不安定には手の打ちようがないのであろう。ハンカチを量産しよう。
しかし誕生日か。
去年とかの誕生日プレゼント…手元にあるよ。
あのときは「例え幾年分溜めようともアイテムボックスで保管しておける。渡せなくてもいい」とか悲壮な決意をしたような気になっていましたね。
あっさりとまとめ渡しが可能になりました現実よ。全くお恥ずかしい黒歴史です。
もちろん心に秘めたまま墓まで持っていくよ。
どんなにアホっぽくても、言わねばバレないからな。
いやだなぁ、これらのプレゼントは当然、再会したら渡す前提で用意していたのだ。当然じゃないか。
決して1人で彼の絵を飾って天使生誕祭など…おっと、前夜祭と後夜祭まで洒落込むなんてとんでもない。更にその都度、捧げ物が違っていたって? 何のことだい、どこかに私が怪しげな儀式を行っていたという証拠でもお有り?
心の中の裁判はつらりと無罪で閉廷だ。
ハンカチを誕生日プレゼントにしてもいいけど、せっかく刺繍図案の多い国に来たのだから、しばしデザインを思案したいな。
それまでは市販品を贈って急場を凌ぐか。それか、涙が零れると同時にアイテムボックスで回収して、物理的になかったことにする「残念だったな、それは残像だ」作戦。
顔だけは真剣さを取り繕って、しっかりと方向性を固める私。その傍らで、身体強化の会得を報告してきたアンディラートは、未だ複雑な表情を継続していた。
出来るようになったことだけ、素直に喜んでおけばいいのに。生真面目さんめ。
個人的には好ましく思うが、あまり彼が悩みを抱えたままだと、ひどく可哀想に感じてしまうよ。ほら、笑って笑って。
笑ってアンディ♪
勝手に飴玉娘の節が付いてしまい、脳内がアンディ・アンディしてニヤリ…って違う、笑わせたいのは自分ではない。腹筋に力を入れてニヤニヤを堪える。
「そ…そっか。じゃあ、身体強化は君とお揃いだね! 一緒に訓練しようね!」
私は相手のテンション上昇を図るべく、笑顔で魔法のワード「お揃い」を放った。
こうかは、ばつぐんだ!
アンディラートは一瞬目を真ん丸くしてから、嬉しそうにニッコリと笑ったのだ。
ご機嫌、V字回復。
いいことをした気分になった私も、ムフーと満足げな息をついちゃう。
正直、私の身体強化は感覚実行されているから、訓練も何もあったものではない。何の苦労もなく持って生まれたチートなので。
しかし、ガッとしてバーン!みたいな何かでも役に立ててくれるかもしれない。役に立たなくても、一緒に訓練することによって、彼はご機嫌を保ってくれるはずだ。
大丈夫、世の中は持ちつ持たれつよ。私はどんなアンディラートでも、積極的にバックアップしていく所存。
ところでリスターは、夜が明けても帰宅しなかった。
アンディラートによると特に危機ではないそうなので、あえて小鳥戦隊での追跡なんかはしていない。
何でもギルドで依頼完了報告をしている際に知り合いを見つけたらしく、子供の口喧嘩みたいな暴言を山ほど放った後、仲良くご飯を食べに出かけたのだとか。
アンディラートは「気安い感じがしたから、友人なのだと思う」と付け足した。
うん。きっとリスターの態度を気にしない大らかな性格の人とならば、仲良く過ごせるのだろう。山賊貴族なんかがいい例だ。
アンディラートも一応誘われはしたが、社交辞令と判断してお断りしたのだそうだ。
魔法使いから珍しく「じゃあ夜遊びするから、気にすんなってチビに伝えとけ」と伝言を預かって、1人で帰宅したらしい。
そうね、伝言もなく2人に夜の街に繰り出されると、私がハラハラしちゃうね。ダンジョン探索はどうだったのってね。
だけどあの魔法使いは捻くれ者だ。
こちらは不調や変調の有無を聞きたいのに、「はぁ?」とか「ウゼェ」とか言って取り合ってくれない気がする。
片眉上げて鼻で笑われちゃったりするのだろうな。容易に想像できて困る。
果たしてダンジョンでのリスターの調子は、どうであったのか。
「リスターにどうだったか聞いても馬鹿にされるだけだろうし、本人がいないうちに君から様子を聞く方がいいのかもね」
…と思ったけどアンディラートは、リスターが不調な様しか知らないや。
調子がいいとどんな動きをするのか見たこともないのに、比べようがないよね。
そうだなぁ。
例えば調子がいいときの、戦闘中のリスターは…うん、全然動かないな。私も比べられん。
彼が悲壮な顔をしていない時点で結果はわかっているのだ。
どう答えてもらったらわかりやすく私が安心を得られるか思案する…ただのゲスの試みだ。
しかし幼馴染みは心得たもので、実にさっぱりと返答した。
「足を少し引き摺るので移動速度は遅めだ。しかし詠唱もなく、杖を構えることすらしないので、戦闘に問題はなかった。魔法耐性の高い魔物が出なければ十分に進めそうだ。どんな魔物が出るのかは、行く前にギルドで確認をすればいいだろう?」
つまり、ダンジョンに潜ったとしても割と大丈夫。冒険者として生きていける。
端的な報告を受けて、私は安堵した。
リスターは魔法使いだが、世に言う魔法使いのイメージと違って、カマイタチ派・首刈り流を修めているのだ。
多少動きに支障があっても、魔法の発動には関係がない。
一度の探索で安心して放り出すようなことは出来ないけれど、あまり心配しすぎて行動を制限しないほうがいいのかもしれない。
元々ひとりで流れ歩いていたのだから、閉じ込めるとストレスで却って弱っちゃうかもしれないよね。
野生動物の保護をしている気分で、ウンウンと頷く。
これならば私の養子にしなくても、慰謝料的な解決にもって行けるかもしれないな。
一応頑張って稼ぐつもりだけど、もし足りなかったらお父様に手紙を…え、書くか? お金の無心で? 「娘が他所の息子さんを傷物にしましたのでお金を下さい。オレオレ詐欺じゃないです」って? わぁ、酷い。
駄目だね。自力で稼ぐ、一択。
「リスターも、自身の戦闘に問題がないとわかって気分が軽くなったのだろうな。帰りは機嫌が良かったみたいだ。勘だけどな」
魔法使いの態度は平時と変わりなかったが、機嫌が良いことを表に出さないよう注意している…天使の勘ではそんな感じらしい。
父親譲りの野性の勘だ。ヴィスダード様は戦闘や危機回避にしか使っていないらしいが、息子は対人関係でも役立てている様子。
空気の読める子、アンディラート。
頭を撫でてあげたいのに、背が高くなってしまったため、本人に屈んでもらわねばそんなことは出来ない。そして頭撫でたいから屈めって言うと断られてしまうジレンマ。
「夜遊びからの帰宅なら、リスターはそのまま寝ちゃうかもね。今日はダンジョンに行かないだろうし、どうしようか?」
私はアンディラートに問いかけた。
必要な消耗品もアイテムボックス内に大体整っているし、家置きにしている食料やらも在庫はある。
というか、冷蔵庫はあっても基本は都度買い出しの世界なのだ。庶民は自分で、貴族は使用人が毎日のように買い物に行く。
こちらの庶民は不良在庫など抱えず使い切るし、貴族だって余らせるなら使用人に払い下げるから、無駄にご飯捨てたりしない。
前世なら1週間分買い溜めし、ついでにそのまま腐らせて捨てるようなこともあったと思うが、贅沢なことだったよなぁ。
「…今日は、暇、なのか?」
どこか期待を含んだような目で、アンディラートが言った。
リスターの戦闘についても確認し終わり、呪いのほうも私のドレスが出来上がるまでは打つ手なしだ。つまり全くのヒマ日。
「そうだね。何しよう?」
私の予定を重ねて伺うということは、何かしてほしいことがあるのだろうか。
…だけど彼のことだ、恐らく私にしてほしいというよりは、一緒に…なのかな。
そう思って問いかければ、アンディラートは少し躊躇ったあとに口を開いた。
「…作って、ほしい」
「うん?」
「ミルクティークッキーを、作ってほしい。ずっと食べたかった。…駄目だろうか?」
小さな驚きだ。
そう感じたのに、こみ上げる膨大な嬉しさに息が止まるかと思った。
それは私にとって、時折、無性に食べたくなるもの。
貴族令嬢が、異端の作り方で手作りするクッキー。どこにも売っておらず、レシピは私と彼が共有するのみ。
今生で唯一共有できる相手が、しっかりと染まってくれていたなんて。
「いいよ。材料を買いに行こう」
久し振りだし、多めに作ろうね!
瓶に密封して酸素だけアイテムボックスにしまったら、ちょっと長持ちするかしら。
いや、生地の段階で冷凍すれば次に食べたいときに焼くだけで…って、勝手に1人で焼いて食べるわけにはいかないのね。それなら、やっぱり食べたいときにアンディラートと一緒に作るほうが喜ぶか。
はしゃいだ私は、がしっとアンディラートの手を取った。驚いた顔をした彼も、すぐに笑顔で頷く。
銀の杖商会の食品部ならば、大抵のものが揃うはずだ。
庶民家庭に常備はされていない牛乳も、きっと置いているだろう。
売っているかは知らないが、流石に牛乳を露店で買うのは怖い、無理。保冷必須。
促されて、アイテムボックスから出した外套を羽織る。
アンディラートは休日仕様の服装のまま。
剣こそ手放さないものの、鎧は置いていくらしい。
街中で剣を振り回すこともないだろうけど、ダンジョン大国の首都では、珍しくも物騒でもない普通の姿だ。
…でも、うん。何というか…オブラートに包んで言うと、ラフなのよね。
オブラートを剥がしますと、なんでそんなヨレた古着くさい服なのよってこと。
変だな、貴族のお坊ちゃんだよね、君?
「ついでに、君の服、買おうか」
訓練中は作業着みたいなもんだからそれでも仕方ないと思えるけど、何かちょっと、もうちょっと、きっちりしたもの着せたい。
「…いい。まだ背が伸びているから、すぐ着られなくなってしまうんだ」
そういえば、この世界にはS、M、Lみたいな既製服はない。
大量生産体勢がないから、服が欲しい人はその都度、仕立てる。
私の言う既製品とは、本来は仕立て見本なのだ。
しかし普通、大抵、一般庶民にはそうそう店で仕立て続けるだけのお金がない。
普段着はママンが縫ってくれるか、お高めの既製品屋か、お安めの古着屋を利用する。あとはママ友でお下がり交換とか?
定住しない庶民が既製服を手に入れるなら、試作や型落ちの払い下げを集めた新品屋か、素人作りや着古しの中古屋ということだ。
服としてはどうしても「型となった誰かの体型」のものでしかない。
仕立屋によって型にした人が違うので、若干大きめを探し歩けば、まぁ着れる服もあるということなのだろう。
アンディラートはダボついた大きめなんて着る選択を持たない。
身体に合わない服をダボダボ着ることはみっともないという、貴族の育てられ方ゆえだ。
いや、ヨレ服とダボ服どっちが格好悪いかってのはあるよ。
だが、彼は剣士だ。身体に合うなら戦闘時の動きに支障がないし、その方がいいと見るだろう。
それにね…庶民は大きめだって着ると思うのよ。でも貴族の着る服の形って、きちっとしてないと格好悪い服ばかりなのは確か。
世間慣れしているように見えても、やっぱり根はボンボン。みっともなく見えない大きめの服というものが、わからないのだ。だからそもそも選べないのだろう。
お財布に余裕はあるだろうから新品を買えばいいのに、節約でもしているのか古着を買っては小さくなってきたら売る、と。
理解はできる。気には入らんが。
「あー。成長期ねぇ」
一方、体型に合わなかろうが身体強化で動きに無理を通してきたのが私です。
しかも性別偽って大きめにしたつもりが、チビ扱いってどういうことなの?
というか私、あんまり伸びていない気がするのですが…もしかしてもう成長期終わっちゃったのでしょうか。女子にはヒールで上げ底という手段はありますけれども。
「私の背も伸びてくれないと困るなぁ。…目線が遠くなっちゃう。話すたびに、君に屈んでもらわないといけなくなるよ」
高身長、羨ましい。一度くらいうっかり鴨居に額をぶつけてみたい。
ふと頭上が陰った。
「そうしたほうがいいのなら、するけど」
少し身を屈めたせいで、以前のように顔が程近い位置に来たアンディラート。頬がほんのりと赤く染まっている。
今回は何に照れちゃったのかな。わからん。わからんが可愛い生き物め。
つい、よしよしとその頬を両手で挟んで撫でてしまった。
結果、ビャッと勢いよく飛び退かれた。
長い脚が無駄な活躍を見せているな。すんごい距離開いたよ。悲しい。
「ごめん。馬が寄ってきたみたいで可愛かったものだから、つい」
「俺は馬じゃない」
存じております、天使ですよね。
警戒されたらしく、なんかメッチャ離れた位置に立たれてしまった。
おてて繋いで仲良くお買物の予定が、これでは1人買い物と護衛の立ち位置である。
「エスコートして下さいませんの?」
怪しいフードでも、中身は令嬢なんだぜ。
衣装に見合わぬ優雅さで手を差し出して見せれば、相手もヨレヨレ服でも是、貴族の子弟。反射のようにスッと手を取った。
そう、身に染みついた習慣を利用する「悲しいけど私達、貴族なの」作戦だ。
「かかったな!」
「何っ!?」
ふははは、捕獲完了! そう簡単に逃がしはしないぜ!
確保した!と素早く相手の腕を抱き込んでニンマリする私と、反射的にそれを振り解こうとするアンディラート。
おのれー、解かれてなるものかー。
ぎゃー、勢いが予想以上だー。
ぶんぶんされてちょっと楽しくなってきたけど、普通の令嬢なら吹っ飛ばされてると思いますよ、コレ。
つい対抗して、ぎゅぎゅーっと抱き込んだ腕が痛かったのだろうか。物理的抵抗は次第に控えめになってきたものの、アンディラートは声を裏返して抗議した。
「や、ちょっ…駄目だ、離れろってオルタンシア! お前は貴族令嬢なんだぞ!」
天使の捕獲は令嬢らしからぬ行いらしい。
いやいや、大丈夫、今は冒険者だから。
「なんと今だけスッポンシアです!」
「スッポンシア!?」
こっちの世界にスッポンっているのかしら。
理解できなかったのか、呆気に取られた相手を更に強固に捕縛します。
何か言いたげながらも目を逸らし、口許をモショモショさせたアンディラートだが、やがて諦めたように力を抜いた。
勝利の予感。
だが、彼の言いたいことは発言を中止されたのではなく、適正な距離を取ったあとに回されただけであった。
「…オルタンシアは、もっと気をつけた方がいいと思う」
「え、何に?」
「近付いた男の顔をいきなり、な、撫でたり、そのすぐ後に…、必要、以上にくっついたりとかっ…。そういうことを簡単にしちゃ駄目だ、相手が悪い人間だったらどうする」
道中が説教タイムになってしまった。
だが顔が真っ赤なシャイボーイに「悪人」だのと言われても説得力がない。
第一、アンディラートへのちょっかいかけは、私が懐いているという証だ。
「どうもこうも。君にしかしないからね。…そして物語の騎士様みたいに誠実な君が悪い人間なら、この世にはいい人なんて存在しないのよ」
いつものことだが、私は見知らぬ男子の顔を突然撫でるような痴女ではないのだよ。
他人への懐かなさ、つまり野性度は普通よりも高いほうだと自負している。
山や森で遭難しても死なないなど、行動的にも割と野性の令嬢だ。
むしろこの野性味溢るる私を、出会い頭の一瞬にして手懐けたという、己の天使っぷりこそを顧みるべきである。
成長した今も大天使ではあるが、幼少時のアンディラートは、本当にプリティ・エンジェルだった。
そう、その可愛さは確か…世界がひれ伏すレベル?(思い出補正)
「いや…俺だって、そうありたいとは思うけれど…物語の騎士みたいに清廉潔白じゃない。オルタンシアはもう少し警戒していい」
一瞬、「そうありたい」を世界がひれ伏す可愛さのことかと錯覚を起こしたが、自分は物語の騎士のようではないというアピールのほうであった。
まぁ、物語の騎士とは巨悪に立ち向かって、伝説の怪物に腕力で勝つ生き物だ。多分、現実化したら皆、怯えて近寄らない。
物語の怪物とて、現実の政治や理不尽のデフォルメなのだろう。だから、そんな現実的かどうかの話はいいんだよ。
そうありたいも何も、既に君は誠実さが浮世離れしているってことよ、この2.5次元め。褒め言葉だよ。
「そりゃ君も生身の人間なんだから。でも警戒はしないかな。だって君は特別だもの。何か頼まれたんなら、他人から見て無理みたいなことでも大体了承すると思うよ」
返事がない。
訝しく思って隣を見れば、なぜかアンディラートは無言で百面相をしていた。
何があったのだ。
あ、頼み事を無理難題って言ったから、複雑な気分になってしまったのか。
無理難題だと解決方法を考慮はするけど、結局は引き受けると思うし…うん、私の言い回しがおかしかったんだな。
「ちょっと訂正するね。君のお願いなら、何でも聞くよ。ちっちゃいお願いでもいいし、君自身がこれは無理だと思うようなものでもいい。…事によって準備に時間がかかったとしても、最後にはきっと叶えるからね」
正しく言い直す。これでオルタンシアさんの本気が齟齬なく伝わったであろう。
…伝わったはずなんですけど。
「あの、本当に何でも聞くからね?」
一応、念押ししてみる。
喜ぶかと思ったのに、アンディラートの顔は赤面の驚愕で固定されていた。
お疑いなのか? 目線は外さぬぞ。
ニッコリ笑って見せたのだが、最終的には口許を覆い隠してソッポを向かれてしまった。
この交渉決裂感は一体…。
そもそも今の私の宣言の中、一体どこに赤面と驚愕の要素があったというのか。
…不安定16歳期間のせいで、彼の赤面境界はさらに複雑化している気がする。




