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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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隣でギルド長が見ていた



 トランサーグも解呪薬を売る薬屋については心当たりがないとのことではあったが、詳しい人間に心当たりがあるという。

 ちょっと。初めての手がかりじゃない?


「偉い、さすが凄腕冒険者!」


 拍手しつつ褒めてみたが、苦虫を噛み潰したような顔をされただけであった。

 変だな。なぜだ。

 客観的に見ると…これは美少女が「やだぁ、○○君すごぉい☆」ってヨイショしてくれてる場面だよね。


 それって、嬉しくないもの?

 昔、雑誌か何かの特集で「男子は褒められたり頼られたりするのが好き。大袈裟なくらいで丁度いい」みたいなことが書いてあった気がするのに。


 でも冷静に考えたら、私もわりとそれムカつく派だった。

 軽薄な賛辞って、どうせ2秒後には褒めたことすら忘れてるんだろって感じだもんね…って私は今、本気で褒めてたよ! ひょっとして同レベルで嘘くさかったのか?


 うーん。だとしたら多分、トランサーグとの接し方がよくわからないからだろう。

 まぁ、誰との距離間であっても、よくわかりませんけどね。ハハッ。(裏声)


 ちょっぴり真顔になってしまった顔をそっとフードで隠しつつ、是非とも貴重な情報源へのアクセス許可を願う。脇目も振らず、直ぐ様馳せ参じたい次第でございます。


 しかし私からの訪問という案に対し、なぜか色良いお返事はいただけなかった。

 もし先方にその気があるならば、向こうから会いに来るというのだ。


「伝えてはみるが、学者肌の男だ、会ってくれるかはわからん。それに、俺は忙しい。何度もは同席できない可能性が高い」


 えっと。気難しい方なのかな? それって、ご足労いただいていい感じなの?

 こちらとしては掴みかけたチャンスを逃したい気はしないし。いつ会いに来るかわからないものを待つより、むしろ何か急用を作って今からでも会いに行こうよ。


 というか「俺は忙しい」って。保護者じゃあるまいし、仲介だけしてくれれば、側にいなくてもいいと思うんだけどな。


「少し難しい相手だ。実家で客に対応するようにとは言わんが、丁寧に接しろ」


「えっ」


 つまり相手は気難しい学者肌の…貴族?

 冒険者として行く気満々だったのに、貴族的な態度をお求めなのですか?


 しかしこんな態度のトランサーグだって、冒険者だ。

 さすがに貴族の代闘士をしたりするくらいなのだから、依頼人への態度は私に対するものと同じではないのだろう。


 それとも丁重さの例というだけで、そうしてほしいくらい、トランサーグにとっても貴重な相手、ということなのだろうか。

 そんなことを考えた途端に、盛大な釘を刺された。


「くれぐれも、俺がいない時に会うことになったからといって失礼な態度をとるなよ」


 トランサーグがいないと失礼な態度を取る子だと思われている模様。

 相手が失礼な態度を取らなければ、私だっておかしな態度を取ったりしないと思う。

 表します、遺憾の意。


「なんでそんな心配をされたのかはわからないけど…じゃあ、実家にいたときのように対応するね?」


 もちろんおもてなしだってちゃんとできるさ。どうしてもちょっとヅカっぽくなっちゃうんだけど、そこは仕方ないよね。

 態度軽々の冒険者ライフを送っていたから、貴族対応は久し振りだわ。


「…念のために言っておくが、男装時の態度で行えという意味ではないからな」


「えーと。でもこのフードの冒険者スタイルで淑女モードの男は、ちょっと変だよね」


 貴公子モードは駄目なのかい。

 むしろ私が女であることをバラす必要性は全く感じないのだが。


「また男のふりをする気か。ならば絶対に偉そうにするな。正直、女らしくしているほうが会える確率も上がるし、多少馴れ馴れしくても喜ぶだろう。お前がどういう態度ができるのかは知らないが、見た目だけならかなり態度の軟化を狙えるはずだ」


 女好きだと…いや、男嫌いの可能性も残っている。男嫌いの男ってか。


 もしかして偉そうな男が嫌い、かな? それなら有り得る話。

 だったら貴公子じゃないほうが良いか。


「…そう。じゃあ、リスターのためだし、久し振りにお嬢様しようか。ドレスは既製でもいいの?」


 時間的に、仕立てるよりはセミオーダーで許してほしいものだが。

 フルオーダーでないといけないというなら…いっそ自分で縫ったほうが早いかも。

 採寸から型紙作りくらいまではプロに任せたほうがいいだろうが、縫製についてはもはや私がミシンみたいなものだからな。


「…既製では何かいけないのか?」


 逆に問いかけられて、肩透かしを食らった気になる。

 貴族対応をお求めになったのはそっちじゃないですか。


「貴族らしい貴族相手なら、鼻で笑われちゃう。私は気にしないけれど、貴族にとって、服はオーダーメイドが当たり前だからね」


 貴族女性達はいつだって、洗練されたドレスを求めているものさ。

 かといって流行を追いすぎて、他人とドレスがかぶったりしたら大惨事だけどね。


 しかし気に入らない相手への意地悪に、わざとそういうことをする人はいる。

 だが当然、悪評はそれを行った人物だけではなく、仕立てた店にもついて回ることになるのだ。


 そうまでして嫌がらせしたいかって?

 したいのでしょうな。上手に保身しつつ、体よく相手だけを蹴落とすための根回しも抜かりなく。

 頭が良くて美しく華やかな女性がイイ女だなんて誰が決めた。大体、毒婦だよ。


 かつて家庭教師が呟いていたのだが、「夜会は伏魔殿」とはよく言ったものだよ。

 全然行きたくないですね、夜会。


 でもどこかに嫁いだら、私も家のためにやらなくちゃいけないんだろうなぁ。

 場合によっては邪魔な家の悪い噂を撒いたり、自分は良く出来る子ですよアピールしたりとかさ。


 …嫌だなぁ。貴族に嫁ぐの嫌だなぁ。

 奇跡的に大らかな家に嫁げて、他人を貶めず済んだとしても、貴族に夜会やお茶会は付き物。相手からの悪意を巧く躱して身を守り続けねばならない。お母様のように。


 最近、前世ほどの忍耐力がなくなったような気がするのよね。キレるほうが早い予感。

 しかしそこで下手を打てば、不利益を嫌って嫁ぎ先からも追い出されかねない。


 そもそも嫁ぎたい願望はゼロだ。

 お父様が貴族的思考として私が未婚のままでいることを許すかどうか…うん、正直許される気がしている。だが新しいお母様が来た以上、ずっと家にいることは許されまい。


 修道院がマシなのかな、やっぱり。信仰心もゼロだけどな。

 うんざりと女性の仄暗い争いに思いを馳せていると唐突にトランサーグが言った。


「恐らく服の見分けなどつかないだろう」


 思考が遠くまで流れすぎてて「え、貴方が?」って返しそうになったけど、学者肌の人の話だったね。慌てて口を噤む。

 誤ってそんなこと言おうものなら、ヘソ曲げて貴重な情報源を紹介してもらえなくなってしまうかもしれない。


「布地の善し悪しもわかるかどうか。その辺はお前の裁量で良いようにすればいい」


 貴族特有の暗黙のルールやらが面倒に感じられたのだろうか。嫌そうな顔をされた。


「その人は貴族なの、貴族じゃないの」


「貴族ではない」


 改めて公開される先方の情報。学者肌ではあるが学者ではなく、貴族でもない。

 …うむ。既製服にしよう。何ならお手製レースでもつければいいだろう。


「じゃあとりあえず、服を用意してからトランサーグに連絡をすればいい?」


 会えるにしろ会えないにしろ、準備はしておかねば。


 …会わぬと言うのなら、身体能力を駆使してそやつの屋敷に忍び込むのもやぶさかではないがな。

 逃がすもんか。美少女に窓から忍び込まれたくなくば、おとなしく出頭せよ。


 ドレスでなくレオタードにしておけば、ちょっとしたキャッツ☆瞳だね。

 え、でも何を盗めばいいの。貴方の心? …心底、要らぬ…。


「ああ。ギルドに言付けておいてくれれば俺から先方に連絡を入れよう」


 ハッ。また思考が遠くへ行っていた。


「とびきりの美少女が会いたがってるって言ってくれていいよ!」


 学者肌君のテンションが上がるように、もりもりに期待値を上げてやっておくれ。

 私は既にフードで顔が見えないことも忘れてウインクした。残念、空振りだい!


「…まぁ、それくらい言わないと会えるかわからないしな」


 見た目だけなら間違いではない、などと呟くトランサーグ。

 デレ期が来たのか、単に客観的な意見を申しているだけなのか判断がつかない。

 客観的に見ても間違いなくお母様似の美少女だから、後者かもしれないな。


 そしてこの会話の間中、無言のギルド長は室内にいたのです。

 …なんでずっといたの、この人?



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