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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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フラン≠フロン



 ダンジョンには1人で行く。

 それは珍しいことではないようで、固まっているパーティ以外にも、休憩スペースたる広場には数人の単身者がいる。


「あっ。…あの…すまないが、火をお借りできないか」


 掛けられた声に振り向けば、着火具を握りしめた男が困った顔でこちらを見ている。


 何もこんな怪しいフードの奴に声をかけなくても良いのに…と思ったが、パラパラいたソロ冒険者達は顔見知りなのか、ほのかな距離を開けて談笑している様子。


 孤立無援組はこの男と私だけなのか。

 ならば空気を読まねばなるまい。そして早急に対応を終えるのだ。


「どうぞ」


「ありがたい」


 男はペコリと頭を下げて、私の焚き火から、そっと自分の薪に火を移した。

 特に話す必要は感じなかったのだが、相手は言い訳するように着火具を見せてくる。


「魔石が切れたみたいだ。冒険者として、あんまりお粗末だな」


 そう言って自嘲気味に笑う。

 着火具用の魔石って、そんなに持ちの悪いものじゃなかった気がするんだけどな。

 質の悪いハズレ魔石でも掴まされたのかしら。


 アイテムボックスを確認すれば、無駄に魔石の予備がある。

 一応各種ストックはするけど、実際に使うとなるとサポート魔石が楽だ。

 エネルギー残量を考えなくていいから。


 ポーチから出すふりで、魔石を取り出した。


「それは大変でしょう。予備を持っているから、良かったらこれを使って」


 魔石がなかったとしても、私には身体強化様で原始的摩擦着火を試みる手もある。多分すぐ付く。しかし、彼にはできない。

 便利グッズは人類の叡知。


 男は目を丸くした。

 予備を持つって、そんなに意外なことか?


 嬉しそうに礼を言って、店売りよりちょっと高めの銅貨を差し出してきたので、それは固辞する。

 だって魔石、まだまだありますもの。


 私は必要なものもそうでもないものも、わりと捨てずに溜め込むタイプなのだ。

 我が溜めっぷり、リスの頬袋の如しよ。

 消費できるときには、するべきだよね。


 アイテムボックスがなければ、もう少しは選別して取っておくのだろうけれど。

 いや、幼少時に隠し場所に困るほど絵を溜めたな。


 根がゴミ屋敷型なのかしら。いやん。

 さすがにゴミは適切に埋めてます。

 もりっとアイテムボックスに土をしまうと穴が掘れることに気付いてからは、埋めるのも断然楽なのです。


「お金はいいよ。困ったときはお互い様って言うでしょう?」


 いい人ぶってそう言うと、更に感動された。

 すまない、単に君とのやり取りがもう面倒になっているだけです。早くお帰り下さい。


 だというのに、なんで隣に座る。


 自己紹介とか要らないって。

 名乗られたら名乗り返さなきゃいけないじゃないの。


 …そして男はフロンと名乗った。


 名前が被ってる。やめて。そんなとこから親近感を持たないで。

 何だ、どうして懐かれた。


 フードの下で遠い目になっている私に、フロンは元いたパーティから追い出されてソロとなった悲しい話をし始めた。


 あのぅ、それ、初対面の人にする世間話としては重たいと思うの。

 本当に世間話になると思っているのか、愚痴るわけでもなく普通の顔をしてくるので、余計に切り上げづらい。


 しかも聞いていると姫プレイなパーティである。

 1人の女子を筆頭にした、複数の男子が尽くすタイプの。

 メッチャ引く…。


 醸し出した雰囲気に気付いたか、フロンはちょっと慌てて弁明した。


「別に彼女に対する下心があったわけじゃないんだ。ただ、怪我したところを彼女のパーティに助けられて、1人だと大変だろうから一緒に行動しようって言われてさ…」


 そのままズルズルと半年くらいいたのだが、戦闘時に姫を庇いきれずにちょっぴりの怪我をさせ、彼女が寝込んでいる間に男達総出で追い出されたのだとか。


 怪我は、大型の草原ネズミが飛びかかったことによるショックで転んだせいだって。

 姫、冒険者だよね?

 護衛依頼出して街間移動してる途中なんじゃなくて。


 …二度言うけど、メッチャ引く…。

 この世界、本気で命かかってるんやで。


 ぶりっ子ちゃん守って死ぬのが本望な男達とか本当に引く。

 それを受け入れちゃってる姫には、もう狂気しか感じない。


 どうか、隠れて移動中のお偉いさんの娘と忠誠高い騎士達の偽装パーティであれ。

 見知らぬフロンをつらっと拾って、半年も冒険者してる時点で駄目っぽいけど。


 矜持のある騎士達なら、そもそもフロンを追い出したりしなかっただろうしな。

 後輩いびるより姫たんを守りたまえよ。

 つーか草原ネズミにくらい勝とう、姫。


「運が悪かったね。でも、半年で縁が切れて本当に良かったよ」


 キッパリとそう伝えると、相手は苦笑いして「そうだな」と答えた。

 半年もいて無事で良かったよ。

 本気で殺されるところだったかもわからないよ。


 パーティ離脱でもめて、ちょっと精神的に弱っていたところ、ダンジョンを前に魔石も切れてマジへこみ。泣きっ面に蜂状態。

 ソロのくせに野営で火も付けられないだなんて、きっと他の冒険者から馬鹿にされる、いいや、されても仕方がない!と思考が負のスパイラルにはまっていたらしい。


 相手にされないことも覚悟しつつ、勇気を出して隣に声をかけたのだとか。

 そうしたらお隣りさんは予備の魔石をくれただけでなく、「困ったときはお互い様サ☆」とか言ったわけよ。


 誰だ、そのイイ人ぶった奴。…私だよ!

 しかしながら、弱っている人間というのはどうも上手くあしらえない。


 私自身、弱っていた頃に優しくされたかったからな…わかってほしいのに適当にされるのもキツイけど、自分に原因があるんでしょって切り捨てられるの辛い。

 君は悪くないよ、悪かったのは姫パーティに拾われた時の運なんだよ! そう言ってあげたい私がいる。


 そんなにも、メッチャ強く慰めたわけではないと思う。

 けれども、結果、済し崩しに臨時パーティの出来上がりである。


 いや、強さに自信がなくなったとか言うからさぁ。

 自分は他の人より、そんなにも弱いのか気になるとか言うからさぁ。

 話の流れ的に、なんかさぁ。

 誰だ、フランをちょっと親切な設定にした奴。…私だよ!(2回目)


 でもここのところはリスターの陰に隠れていることが多かったし、そろそろ対人リハビリも始めなければならない頃合ではある。


 というか、防壁に使うのは良いのだが、その分リスターの私に対する保護度が上がってきている気がするのだ。

 同族意識みたいなものはあるけれど、別にリスターに甘えたいわけでも何でもない。

 万が一にも、俺様に依存する病的な子に見えてしまうのはノーサンキューよ。


 翌朝、私達はダンジョンへと突入した。

 ここはシャンビータでダンジョン経験済みのこの冒険絵師めが、先陣を切ってやろうじゃないのよ。


 砂埃を蹴立てて突進してくるのは…何だろ、これ。金髪のウォンバット?

 一見可愛いけど、牙が凶悪だ。猪みたいな?


 サポート製のパレットナイフでばったばったと敵を薙ぎ倒していく。

 解体係と化したフロン君はちょっとぬるい目をしていた。

 しまった。彼が余計、自信を喪失する。


「じゃ、じゃあ、そろそろ感覚も掴めただろうから、前衛交代しようかっ」


 なんせ、私は絵師だからね。前衛は剣士の役目だよねっ。

 そう言って後ろに下がるフランパイセン。

 言い訳ちげーし、殿だって立派な役割だし。2人しかいなくても魁と殿だし。


 剣士は時折攻撃を食らっているが、手伝わなければいけないほどでもない様子。

 彼にとっては鍛練に丁度いいくらいの相手なのかもしれない。

 だとしたら私が出しゃばって戦うのは、やっぱり駄目よね。


 敵を倒すフロン君を横目に、洞窟内を照らす光苔をむしってみたり、照らされた壁の一部がメタリックな輝きを反射するのを、無言でアイテムボックスに詰めたりしている。

 何かの素材になるかはわからん。だが物珍しいから、むしる。


 何組もダンジョンに来ていたはずなのに、意外と出会わないものだなぁ。

 別れ道で違う方向に行っているのかしら。

 ギルドでダンジョン内の地図が売っていたので、それより深く潜らなければ、迷って帰れなくなることもない。


「そろそろ荷物が辛そうだね」


 まだ時間は早いけれど、道幅が少し広くなった場所で休憩を取り、街に戻ることにした。

 フロン君のリュックがパンパンだ。

 金髪ウォンバットの毛皮と肉、牙が入っている。ガタイに似合わぬ立派な牙だ。嵩張る。


「…分けようか。俺が途中で狩るのを交代してしまったから…」


「いいよ。あんまり狩っても重くて持てないからね。言ったろう、私の目的はダンジョン見学であって、狩りじゃないんだ」


 殿として時折戦っていたので、フロン君が思っているよりはずっと収穫がある。

 もちろん全力でアイテムボックスだが。


「でも、それで生活していけるのか? 冒険絵師なんて職、聞いたことがないぞ」


「私1人ならどうにでも」


「…それもそうか。冒険者だもんな」


 冒険者の大半は、気ままなその日暮しみたいなものだ。

 ごめんね、本当はウハウハに稼いでいるよ。絵師は私の天職なのだ。


 とはいえ他の冒険者のように毎夜お酒を飲むでもない。

 武器は買う必要がない。サポートで作るし、『見本』もアイテムボックスにある。


 宝石やドレスに散財するわけでもない。服は布を買って自作しているから、既製服を買うよりリーズナブル。

 お安い中古服も売ってるけど…中古はなぁ。針子で生きて行けそうなくらい縫うの早いから苦にならないし、新品のほうがいいや。


 美味しいものを食べたい気持ちはあるけれど、それこそ贅沢なんてしてない。生まれは令嬢だけど、その前が庶民だからね。


 せいぜい街で絵の具を買ったり、お風呂付きの宿を希望するくらい。

 これが定住なら変わってくるのかもしれないけれど、ほとんど野宿の冒険者だ。街にいる期間が少ない。


 …あ、ちょっと嘘ついたか。滞在長いね。でも街につくまで野営なのは本当。

 収入に対して、支出が異様に少ないのだ。オルタンシア、貯蓄の鬼ですわぁ。


 そもそも、シャンビータでしばらく遊んで暮らせるくらい貰っちゃったからな。他にも冒険者したり絵を描いたりして稼いだから、今は本当に困ってない。

 一生食い繋ぐには到底足りないのだから、まだまだ稼がなければならないけどね。


 …あれ? 主目的がズレてるな?


 カップ一杯分のお茶セットでお茶の用意をしていると、水筒から水を飲む隣の男から、ちょっと羨ましそうな目で見られた。

 でも、欲しいって言われないから特に分け与えないぞ。


「お茶代を払ったら俺にも貰えないかな」


 あ、欲しいって言われてしまった。仕方ないな。カップは自分のを出したまえよ。

 お茶代は微量でもいただいておく。

 これは嗜好品だから、魔石のように困った人への親切ではないのだ。

 対人関係に、ある程度の距離間は必要。


 おやつの干し果物を取り出してモグモグすると、また物欲しそうな目が向けられる。

 遠足のおやつくらい自前で用意しなさいよ。仕方ないな、別料金ですよ。


 どうやら普通の冒険者は、休憩時にお茶とおやつなんて用意しないらしい。


 そんなことないよね。

 休憩とは身体と精神を休めるためのもの。

 一杯分だけお湯を沸かせるセットを手に入れてしまった今なら当然、水よりお茶を飲むでしょうが。お茶するなら、茶菓子のひとつくらいあって当たり前よ。


 …あっ、これ貴族感覚か!

 そもそも冒険者は歩く→戦う→帰って飲むって生き物だった。休憩なんて最低限。


 魔獣もちょっとしか狩らず、ダンジョンへは見学だと言う。

 休憩には温かいお茶を用意して、金に困っている様子はない。

 もしや、あんまりその辺の冒険者と組んではいけないタイプなのじゃないかな、私。


 上を目指すような、それこそリスターに声をかける「テッペン獲ろうぜ」組とはトラブルの予感しかしない。必死さの差で。


 お茶と干し果物で元気になったフロン君にも「フランはちょっと優雅だよな」って言われてしまったね。

 そうね、育ちの良さが隠しきれませんの。(金髪ウォンバットを解体しながら)



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