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おるたんらいふ!  作者: 2991+


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正しい獣人とは。



 変装用も含めると、替えのマントは何枚あっても良い。

 そんなわけで、旅装店にて吟味中。


 投げ売りの「動力は魔石・シールドを発生させるマント」とか素敵だと思うんだけど、どうして見切り品になっているのかしら。


 私には宝の山にしか見えない見切り品コーナーだが、漁る私を鼻で笑って通りすぎる人が多いことから、実戦的じゃないんだなということだけは理解している。


 でも、鎧じゃないのよ、マント程度だよ?

 そりゃ実用よりロマンだよねぇ?


 なんて思いながら、ごちゃごちゃと抱えてレジカウンターへ持っていくと、お店の人にまで呆れられた。


「おまっ…売ってる側が言うのも何だが、装備はもっとちゃんと選べよ!」


 ホントだ、売ってるくせに何という理不尽だ。


 シールドが出せるマントはダンジョン産で、魔石の消耗が激しくて使い物にならない。小さな魔石なら雨を弾く程度しかできない。

 小型魔石灯もダンジョン産。魔石を入れると、時間経過で何色かにほんわりと色変わりする。ムーディーだけど、薄暗すぎて探索時のカンテラ的役割はできない。


 この国にはダンジョンがないから、他国で手に入れたけども使い道がなくて売れなかったものを、性能を隠して売る人なんかもたまにいるらしい。

 そういう売れ残り達が積もりに積もって、最終的にはこの見切りカートに放り込まれるわけだ。


 そんな説明を聞きながらも、財布を引っ込めない私。


「成程、有りだと思います」


「…人の話はちゃんと聞こう?」


「聞きました。ちゃんと魔石代で破産する心構えで買いますね」


 …叱られました。


 でもね、サポートで魔石出したら、破産しない。

 私にとってはリスクのない買い物だ。人に言えないだけッス。


「変わった奴だな。剣士か? この国で出る魔獣はたかが知れているが、冒険者なら少しでも怪我をしない防具を選ぶもんだぞ」


 いや、だってシールド出るんですよね?

 普通のマントより余程怪我しないのでは。


 しかし心配してくれているのは確かなようなので、私は無意味に「えっへん」と胸を張って冒険者証を出した。


「冒険絵師のフランです。腕に覚えはありますが、強靱な敵にも金銭的利益にも然したる興味はありません」


 私が欲しいのは、むしろロマンです。

 あの見切り品コーナー、もっと充実してくれてもいいのよ?


「…聞いたことねぇぞ、冒険絵師なんて」


 この世に新職が生まれたのならば喜ばしいことである。

 私が一番乗りだ!


「結局のところロマン職ですから、芸術家枠で問題ありません。芸術家って、少しばかり変わった人が多いものですよ」


 だから気にすることないよー、とニコニコとアピールしてみる。

 あ、フードで表情は見えていないんだった。ここは友好オーラを全開だ。


「…芸術家…絵師、ねぇ…。ふん。絵が下手でも、名乗るだけなら何とでも言える」


 突然、職業を疑われ出した。

 なぜだ。吟遊詩人だっているのだから、描遊絵師がいてもいいじゃない。


「えぇと…つまり絵師には見えないと?」


「ああ、見えない」


 ふむぅ…絵師の証明か…。

 所詮は色物枠。武器のパレットナイフです、とシャンビータでプレゼントされた物を真顔で出してもいいのだけれど、ここは自分の腕で勝負しよう。


 リュック内に手を入れる。

 アイテムボックスからスケッチブックを引き寄せ、カウンターに出して数枚ページを捲った。


「では、見本を。こんな感じですね。何か絵に関するご依頼があれば是非。目玉品の売りたい剣の絵でも、探し物のビラでも、ご家族の肖像でも」


 お偉いさんに売るのは儲かるが、別に金持ち専門にお仕事をしたいわけではない。

 ビラは枚数いるけど、同じ絵を何枚手描きしても身体強化様のお陰かあまり苦にならないし、版画でざかざか作るのも楽しい。


 前のを使いきって新しいスケブになったから、もううっかり猫耳アンディラートのページを見せることもないぜ。


 油断しきって、私はスケッチブックをまるごと相手に預けた。

 好きに見てくれろ。


「…へぇ。綺麗なもんだな。どこだ?」


 シャンビータの町並みの絵を見ながら、店員さんが目を見開く。


「隣国の侯爵領ですね」


 むしろゼランディでは、街、そこしか行ってないね。本格派の山ガール。

 おかしいな…私、王都育ちなのにな…。


 人物はエルミーミィやセディエ君のスケッチくらいだが、あとは薬草や短剣や、野の獣の絵なんかも取り入れている。


 旅装屋さんの目玉商品を描くのなら、見本としては悪くないはず。

 大体の絵には、水彩で色も付いてるしね。


 風景画の多い私としては今回、珍しいタイプのスケッチブックですね。

 …うん。ズバリ、景色の変わらぬ山中で、描くものがなかっただけなんだけどね。


 おお、と声を上げてページを捲っていた店員さんが、後半の数ページで急に訝しげに眉を寄せた。


「…なんでこの辺は飯の絵なんだ?」


「え。あー…その辺はアレです、山歩き中に食料がなくなった頃だね…」


「そ、遭難?」


「あ、いや、言い過ぎです。まだ限界なんかじゃなかった、もう少しいけた!」


 レスキューを求めてはいなかったのだから、遭難ではないよねっ。

 そう強気に思いながらも、ちらりと頭の片隅では認めている自分もいる。

 食料乏しく大まかな方位だけを頼りに山の中を歩き続ける日々は、やっぱり一言で言うと遭難なんじゃないかなって。


「まぁ、つまり、お腹空いてたんです」


 スケブに猫耳はなかったが、妄想ご飯が山盛りであったという。

 おお、女子力よ…死んでしまうとは情けない。

 いや、今後作成予定の料理の完成図と考えれば、むしろ経験値よね、彩りとかの。


「見たことのない料理が多いが…なんか知らんがやけに美味そうだ…」


 綺麗に彩色されたお子様ランチプレートへの視線釘付け、ありがとうございます。

 私が切に求めた肉詰めピーマンはスルーされている。悲しい。茶色多いから?

 でも焦げ目に拘ったのよ。美味しそうじゃない?


 店員さんは少し考え込んだあと、見切り品コーナーから連れ出した私の買い物達を、布袋へと詰め込んだ。

 …なぜに? 売ってくれないのか?


「お前、この後は暇か」


「えっと…宿がまだなんで日が暮れる前には取らないと…お風呂のついてるところがいいので、探すのが大変かもしれなくて」


 相手は胡乱げな顔でこちらを見た。

 何。まさか、ないとは言うまいな。

 村じゃなくて街なんだし、お風呂くらいあるよね? あってよ。


 お風呂あれ!

 オルタンシアが唱えると、お風呂があった。

 …そのようにしてアイテムボックス内にもお風呂が出来るといいのに。

 神などおらぬな。


 妄想している間に布袋への詰め放題が終了していた。


「宿は紹介してやる。ついてこい」


 店員さんはカウンター奥の誰かに声をかけると、私を連れて店を出た。

 布袋は店員さんが背負っていて、私に渡してくれる様子はない。


 お金もまだ払っていない。

 うーん。売ってくれるのか、くれないのか。

 馬の目の前にニンジン、のような。


 マントとカンテラと地図と…妙にクッション性のあるぷにぷにした謎の布2巻(ダンジョン産)と、銅のカップと専用五徳とマドラーの3点セット(鍛冶屋の試作品らしい)と、綺麗な水色で魔力空っぽの魔石(投擲用に!と書かれている)1袋分。


 アイテムボックス内の寝室は土足厳禁だし、謎ぷに布でお座布団作りたい。成功したら、枕を作るのもいいな。固形燃料をサポートで出せば銅コップ達は焚き火が面倒なときにも温かいものが飲めるし、魔石は砕いて色粉にするのだ!


 ちなみに魔石を砕く作業はファントムさんにやってもらうと、舞い散る粉にゲホゲホすることもなく、大変便利です。気に入る細かさになるまで、疲れもせずいつまででも擦り潰してくれるよ。


 ちびシャドウ達だと、長時間労働を頼むと、どうにも虐待してるような罪悪感があってイカンのよね。


 ぼんやりしている間に目的地に着いたようだ。

 何かの店の裏手らしい扉を、ココンと店員さんがノックする。


「アロクーク、俺だ。今日泊めてくれ」


 俺だ、じゃないよ。


 店員さんの態度が私を客と見なしていない。完全に営業時間外じゃないですか。もうプライベートタイムなのか。


 宿屋の紹介にしては裏口だし…しかも店員さんが友達んち泊まるみたいな言い方でしたよ。

 内心で口を尖らせていると、中から黒い犬が現れた。


 二足歩行の犬。即ち獣人。


 猫なのか人なのか…そんな不気味の谷の狭間に生きているエルミーミィ達とは違う。

 顔が完全に、これは犬だと判断できるタイプの獣人だ。


 マズル長い! 手指が人間ぽい! でも狼爪は…ある! 不思議!

 …一歩遅れて気づいた。女の子だ、スカート穿いてる!


 ぎゅんぎゅん上り調子となる私のテンションになどまるで気付かずに、2人はぼそぼそと何やら話し込んでいる。


 そのまま5分が経過した。

 正気に戻るには十分な時間である。


 そして更に10分が経過した。

 …あの…放置時間長いんだけど。私、ここに立っている意味はあるかね?


「貴方の気持ちはとても嬉しいわ、トーリオ。だけど、もう無理なのよ…」


「そんなことはない。どうかもう一度考え直してくれ、アロクーク」


「でも…」


 え、復縁迫ってる元彼にしか見えなくなってきたんだけど。何の修羅場ですか?

 コレますます私いらんやん。

 待つだけ無駄な気がしてきたので、ゴンゴンと開いたままだった扉を叩いた。


 2人は慌てたように私に目を向けた。

 連帯責任ですからね。お嬢さん、お詫びにモフらせてくれても良いのよ。


「宿をご紹介いただけるはずでは?」


「だ、だから今説得しているっ」


「嫌がる女性の家に無理やり押し入って? なんて非人道的な」


 私は本当は女だけれども。

 か弱きワンコ系女子に旅の男の世話を押しつけるとか酷くないの、旅装屋さん…。


「女の子相手に、見知らぬ男を急に泊めろだなんて、無茶ですよ。犯罪臭すらします」


「違っ、ここは宿なんだ! 本当だ!」


 私の白い目(雰囲気)にさらされた旅装屋さんは悲鳴を上げた。

 ジャッジ。

 ちろりとワンコ嬢を見遣ると、相手はちょっぴりまごついたものの、コクリと小さく頷いた。ここは宿屋なのらしい。


「え、本当に泊まれるの? じゃあ、お風呂ってありますか?」


 大事なことなので急いで聞く。

 目を丸くしたワンコ嬢は、口許に手を当てて、可愛らしく笑った。


「ええ。少し準備にお時間をいただいてもよろしければ」


「やった。泊まります、泊めて下さい」


「ふふ。わかりました。ご用意致します」


 ふさふさと相手のしっぽが揺れている。

 わぁい、ワンコ可愛い。

 まさに正しい獣人。


 あ、違うのよ、エルミーミィ、君は君で可愛かったよ。

 ちょっとその…一見さんお断りというか…上級者向けなだけで。


 誰も何も責めてないのに、脳内でプンプンするブチャカワ猫耳女子を作り出し、ペコペコと謝る私であった。



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