男の嫉妬は殺意へ
さすがに適当に書き過ぎな気がしてきたから次からは頑張って趣向を凝らしてみます。たぶん……。
アルフォード王国の城下街では勇者が魔王を打ち倒したという、一つの話題で持ちきりになっていた。
街は喜びの盛況に包まれて、人々には笑顔と活気が満ち溢れていた。喧騒が一層に騒ぎ立てる状態へと変貌していた。
「号外、号外だー! 勇者が魔王を討ち取ったぞ! これから、祝祭のパレードが始まるぞ!」
城下街の広場で、情報屋の小太り男が叫んでいる。
「彼女達が城から出てくるのかな? さてと、愛しいイヴの姿をこの目で拝見しようかな!」
街の散策を一通り終えていたアダムはパレードの開始を待つと同時に、イヴが王城から出てくるのを待ち望んでいた。
兵士は祭事の為に城下街へと警備に当たり、パレード用の道順を立ち並ぶことで作り上げていた。
「ルートは城の城門から出て街の中央広場を一周してから戻る感じか……」
街の散策をしていた時に見ていた兵士の立ち並ぶ道順を頭の中に思い浮かべて、アダムはパレードの進行順路を確認していた。
考え事をしていると、王城のある方角が騒がしくなり始める。パレード隊が城門を通って行進を始めたのだろう。
それを合図にアダムは王城の方角へと駆け出して、パレード隊を見に行くことにしたのだった。
◇
「それで、どうして私は他の二人とは離れてショコラ王子と相席しているのですか?」
憮然とした態度でイヴはショコラに問いただした。
ウェルシュとエクレアは前方に位置する場所の隊列で馬に跨りながらパレードに加わっているのに対して、イヴとショコラは儀装馬車で一緒に揺られながら中央に位置する列でパレード隊の行進に加わっていた。
馬車自体には天蓋が付いてなく開放されていて、姿が良く見えて栄える仕様となっている。
「今は二人だ、礼儀は不要だよ。質問に答えるなら、それは君と大切な話をする為だ」
ショコラは儀礼馬車から笑顔で手を振り、国民の歓声に応えながらイヴの質問に答えた。
「大切な話? まさかと思うけど、あの時の話をまたするつもり?」
敬語を止めて普段の喋り口調でイヴは彼に問いただした。
「そうだ。君には僕の婚約者になって欲しい、その為に正式に君に交際を申し込みたいと思っている」
国民の歓声に応えて手を振っていたのを止めたショコラは、イヴの方へ向き直し真剣な表情を取っている。
そんな彼の表情を見て、イヴは呆れた様子で溜め息を吐いて言葉を続けた。
「ショコラ、その話は私が魔王討伐に旅立つ前にも話をしたよね? 私は恋人なんて物を作る気は無いの。それに、ただの冒険者の女に一国の王子が婚約を申し込むなんて馬鹿な話がある?」
イヴはショコラのプロポーズを一蹴した。
「君はただの冒険者じゃない、勇者だ。今や魔王を打ち倒したとされる最高のね。父上の反対も無い、それに民衆だって喜んで祝福してくれるだろう」
「誰が認めようと、誰が祝福しようと、私に恋人なんて物は必要ない。ましてや、結婚だなんてお断りさせて貰うわ」
イヴは拒絶の言葉を言い放ち、顔を背けてショコラに背を向けた。
「何故だ、イヴ。僕の何が不満なんだい?」
ショコラは焦燥に駆られつつ困惑が入り混じったような声を上げながら、イヴに触れて彼女の手を取った。
「手を離して。私は不満がどうとかじゃなくて、恋人は必要ないって言ってるの」
「そんな事を言わないでおくれ。僕は君が欲しい、君の為なら何でもする! だから、どうか僕の婚約者に――」
ショコラがイヴに言い迫った時だった。観客の群集の一部から悲鳴が聞こえ出した。
――うわああああ、魔物だ! 魔物が現れたぞ!
悲鳴を聞きつけた者達が一斉に叫びがする方面を振り向いた。
人々は何かを避けるように円形に囲いを作り出していると、その中心には黒い体毛に覆われた狼の様な魔物が数体いた。赤い双眸を光らせ、鋭い牙を剥き出しにして唸りを上げている。
◇
王城の門前付近に辿り着いたアダムは、城から出てきたばかりのパレード隊を眺めていた。
先頭辺りにはイヴの仲間である戦士と賢者が乗馬しながらパレードに加わっているのが見えたが、イヴの姿が見当たらないのに気が付く。
「あれ、イヴが見当たらないな? あの二人とは別の方に配置されてるのかな」
暫くもしない内に中央の列に配置していた儀装馬車が通過するのを見え始めると、そこにイヴの姿が目視できた。
それと同時に、見知らぬ青年が彼女の隣に座っているのが見えた。
「だ、誰だ、あの男は!? イヴの隣に居座るなんて、何て妬ましい奴だ。許せない……」
羨望の眼差しで二人を見詰めるアダムは冷静になり、魔族の聴覚を最大限に生かしてイヴと青年の会話を自身の耳で拾いあげて盗み聞き出していた。
「へぇー、あのショコラって男は王子様って訳か。それにしても、どうして一国の王子様がイヴの隣に座ってるんだ?」
聞き耳を立てて、二人の話を盗み聞き続ける。
「えーっと、『君には僕の婚約者になって欲しい』だって? あはは、この国の王子様は冗談が上手だなー」
王子の言葉にアダムは笑顔を引き攣らせて破顔させていた。
二人を静観していると、王子はイヴに対して言い迫りながら彼女の手を取って触れた。その瞬間にアダムが彼に抱いていた感情が妬みから怒りへと変貌した。
――あの野郎、イヴに触れるなんて……。殺してやる!
殺意を覚えた時にはすでに行動を起こしていた。自身の髪の毛を数本抜き去ると、目の前に払い落として呪文を唱えた。
「仮初の器に宿り、魔の姿を現せ、僕が望むは生命を喰らう獣、サモンビースト!」
空気の抵抗に揺られながら地に落ちる数本の髪は魔力を吸収して膨れ上がり黒い球体となった。
黒の球体は徐々に形状を変えて行き、狼の姿を造り出すと魔獣が現れた。
その場に魔獣が現れると周囲から悲鳴が上がり、現場から逃げ離れるように人々は退き始める。
「さてと、僕も身を隠さないとな」
自身が術者だと露呈しない様にと、アダムは退避する民衆に合わせて姿を隠すように紛れ込む事にした。
そして、アダムは魔獣に思念を送り付けて命令をする。あの男を食い殺せと――。
指示を受けるや否や、魔獣は地を駆け抜け、人混みの合間を縫って王子がいる下へと全力で疾走する。
「魔物!? ――ウェルシュ、エクレア、魔物が出たわ、急いで戦闘の準備を!」
イヴは儀装馬車から身を乗り出して、パレード隊の前方に位置する場所にいるウェルシュとエクレアに大声で呼び掛けた。
「イヴ、危険だ! ここは城の兵士に任せて僕達は下がろう!」
ショコラは、今にも馬車から飛び出しそうなイヴを制止させた。
「何を言っているのショコラ、勇者である私が皆を護らないでどうするの!」
イヴとショコラが口論をしている内に魔獣は段々と儀装馬車までに距離を詰めて行く。
魔獣達は途中で、パレードの護衛をする為に立ち並んでいた兵士達と衝突していた。
数人の兵士が先行していた一匹の魔獣へと目掛けて、盾で叩き付ける様に押し潰して囲むと見事に取り押さえた。
抑えられた一匹の魔獣は暴れつつも上手い具合に無力化される事となった。その状態で兵士達は槍で魔獣の身体を何度も突き刺し、息の根を止めようと必死になっていた。
残りの魔獣達は人々や兵士達を素通りして、ショコラとイヴが乗っている儀装馬車に目掛けて疾走して跳躍していた。
「人々を襲わない? そう、私が狙いなのね。ショコラ、貴方は下がってて」
イヴはショコラに言い放つと、自身は馬車から飛び出した。
「イヴッ!!」
制止を呼び掛けるショコラの声が背後からするが、気にも留めずに腰に下げていた天剣を鞘から抜き出す。
そして、人々を踏み台に宙を飛び交っている一匹の魔獣へ向かって、イヴは跳躍すると魔獣の喉下に向けて天剣を突き上げて喉を貫いた。
そして剣の握りを両手で持ち、跳躍の勢いを剣に込め、魔獣の喉下から腹下まで斬り裂く。
剣の斬り口からは血は溢れずに魔力の証である紫色の煙が噴出して大気に霧散していた。
「こいつら、普通の魔物じゃない。召喚獣? 何処かに術者がいるのね」
一匹を屠った事で得られた情報で、即座に術者がいるという事を判断したイヴは魔獣だけに向けていた警戒を周囲に張り巡らした。
体勢を整えると、再び迫り来る魔獣に対してイヴは構えを取った。
だが、予想とは裏腹に魔獣達は彼女を襲うことは無かった。そのまま、彼女の真上や横を跳躍して通り越した。
「えっ!?」
魔獣の行動にイヴは驚きを隠せずにいた。全ての魔獣が彼女の後ろにいるショコラの方へと向かって行ったのだった。
「狙いは私じゃない!? ショコラッ!!」
「うわぁあああああああああああっ!?」
イヴは咄嗟に背後へ振り向き、ショコラの名を叫ぶが、すでに魔獣達は今にもショコラに襲い掛かろうとしていた。
「――氷塊よ、盾となりてその姿を現せ、アイスウォール!」
呪文の叫びと共に儀装馬車が氷の壁に囲まれた。ショコラに届こうとしていた魔獣の牙は氷壁に弾かれる様に遮られた。
「全く、イヴは詰めが甘いんだから。私達がいないと駄目だね」
エクレアが魔道書を持って儀装馬車の近くで佇んでいる。
「遅ればせながら、私も登場だぜ! うぉおりゃああ、魔物共喰らえぇ!」
エクレアに続いてウェルシュが現れると、氷壁の前で群れていた魔獣の集団へと向かって走り出した。
そして、両手で斧を思い切って振り回す事で魔獣達を斬り上げると宙に打ち上げた。斧の刃と衝撃で全ての魔獣は宙で体は四散して、魔力の煙となり霧散していった。
二人の援軍にイヴは安堵をして吐息を漏らす。天剣を鞘に納めると、イヴは二人の下に駆け寄った。
「エクレア、ウェルシュ! ありがとう。二人のお陰で、誰一人も傷つく事無く魔物を倒せたわ」
「この程度の魔物、敵じゃないよ」
「へへ、私達は仲間だろ? 戦いってのは、助け合いが肝心だぜ!」
三人は寄り添いながら魔物を撃退できた事を喜び合った。
幸いな事に死傷者は一人も出る事無く魔物を撃退できたお陰か、次第に民衆は歓声を上げて拍手喝采した。
――さすが、勇者様達だ! あの魔物達を退治したぞ!
――きゃー、イヴ様素敵! ウェルシュ様もエクレア様も最高ー!
魔物達の出現でパレードは台無しになるかと思われたが、勇者達の功績によって一種の催しになった様だった。
彼女達は民衆の声に応えて、笑顔で手を振り返していた。
「彼女達が護ったか、あの男は運が良い。少しは怖い思いもしただろうから許してやるか、はぁ」
遠目からアダムはショコラ王子の様子を見てみると彼は恐怖で蹲っているようだった。
それを見て、アダムは満足をして怒りを抑えた。同時に騒ぎを起こしすぎた自分を戒めた。
その後、パレードは引き続き続行されて昼の部であった祭事は無事に終了した。