七節 神馬の力を手に入れました
「そうじゃありません!」
クロウの怒声が訓練場に響く。
「難しいな」
俺はいまいち要領がつかめず首を傾げる。
「フェニックスと馬では全く違います」
厳しい目つきでクロウは言う。
「馬は馬だろうが」
壁に寄り掛かっているハルが呟く。
「大賢者のくせにフェニックスの美しさがわからいとは」
そんなハルにクロウは額を右手で押さえ呆れる。
「まあまあ」
『どうして変身魔法ができないのよ!』
なだめようとしたら二人に怒鳴られた。
俺は神器対策の為に変身魔法を覚えようと魔法使いの世界に来ていた。
「伝説の生き物がまさか神器だったとは」
意外だという顔でクロウは言う。
「完全に拒否られたけど」
俺は思い出して苦笑いになる。
「だから変身して近づくというわけか」
ハルが確認した。
「そういうこと」
「ですが一郎さん」
クロウは気まずそうな顔をしている。
「どうした?」
「絶望的に下手くそです」
「下手くそって!」
クロウが言うと思っていなかったセリフについツッコミを入れてしまう。
「まあ何とかなるだろ」
「お前は何もしていないだろ」
ハルとクロウの夫婦漫才みたいなやり取りに俺は笑った。
「さあ、もう一度」
クロウが仕切り直す。
《と言っても、フェニックスなんて見たことないからな》
【本などで見たことぐらいあるだろ】
《手伝ってくれよ》
呆れた声を出すリベラルに強請った。
【仕方ない奴だ】
そう言ってリベラルが俺の脳裏にフェニックスの映像を流し込む。
《お~本物初めて見た》
【昔行ったフェニックスの世界のものだ。神馬はさらに美しいけどな】
《ありがとうな。これで出来そうだよ》
【ふん。いいからさっさとやれ】
リベラルはツンデレ女子みたいに怒った。
《わかりましたよ》
俺はそんなリベラルを可愛らしく思いつつ集中する。
「〈チェンジ〉!」
具体的なイメージを持てた俺はバッチリにフェニックスに変身した。
『おお~』
美しいフェニックスに変身した俺を見てハル達が感心した声を出す。
「これで神馬も気を許してくれるかな」
俺はぐるぐると回りフェニックスになった自分を眺めた。
「神馬ちゃんに会えますように」
俺は琵琶湖深くに沈みながら神頼みする。
【そろそろだぞ】
《じゃあ変身しますか》
俺はフェニックスに変身し、神器である神馬が眠る場所に近づいて行く。
神器は前のときと同じように防衛魔法を発動しようと光ったが、すぐに止んだ。
《作戦成功》
変身作戦が功を奏し、神馬は警戒を解いてくれたらしい。
[何者だ]
静かだが迫力ある声が頭に直接伝わってきた。
《神器をパワーアップさせる為に協力して欲しいんです》
[帰れ]
気を許してくれたかと思ったが、神馬は気難しいようだ。
《敵はあらゆる異世界を滅亡させようとしているんです》
俺は誠意を示すために変身を解いて説明する。
[我には関係ない]
神馬は聞く耳を持たない姿勢を貫く。
《どれだけの命が消えると思っているんだ!》
分らず屋の神馬に俺はつい苛立ち叫ぶ。
[勇者と言えど巨大な闇にはのみ込まれる]
《だからって何もせずに諦められるかよ》
[・・・・・・]
神馬はじっと黙ったままこちらを見つめる。
【こいつは先代とは違う。頼む、信じてやってくれ】
リベラルが人型で現れ神馬に言った。
[よかろう。力は貸してやる]
神馬から出た光りが俺に向かって伸び、それは手の平で青いクリスタルになった。
《これは?》
[力が必要なときにそれで我を呼べ]
《わかった。ありがとう》
[では帰れ]
そう言って神馬はまた沈黙した。




