六節 神器に拒否られました
「キーア!」
俺はベッドの上で上半身だけ起き上がり目覚める。
「くそ」
汗だくになった体をタオルで拭きながらベランダに出た。
「この部屋も解約しないとな」
次の異世界に行く前に俺は自分の世界に戻っていた。
【いつまでものんびりは出来ないぞ】
《わかっているよ。戦いに集中する為に戻ってきたんだ》
俺はタオルを頭から被り体に風を感じる。
《なあ、キーアを救う方法はないのか?》
【私が知る限りないだろうな】
俺はしばらく何も考えず景色を眺めた。
その静寂を携帯の着信音が断ち切る。
「もしもし?」
「帰って来たら連絡しなさいって言ったじゃない!」
電話に出た瞬間、俺の耳に怒鳴り声が響く。
「ごめん」
その迫力に言い返さず素直に謝る。
「どうして俺が帰ったのがわかった?」
「毎朝あんたの携帯に電話していただけよ」
夕はまだ少し怒り気味で言った。
「お前らしいな」
「反省しているの?」
つい微笑んでしまった俺の声で夕の怒りにまた火が点いてしまう。
「反省しているって」
「で、どれくらいいられるの?」
「そんなに長くはいられないかな」
「もうこの世界に戻ってこないつもりなの?」
夕の声は怒りではなく、寂しさを含んだ声になっていた。
「いや、決着がついたら帰るよ」
「嘘だったらわかっているでしょうね」
「ああ。約束は守るよ」
俺は夕に別れを告げ電話を切った。
《まさか日本に神器があるとは思っていなかったな》
俺は夜の琵琶湖に来ていた。
【勇者を生み出した世界だからな】
《よくこんなファンタジーのかけらもない世界に勇者が生まれたな》
【この世界だからこそだな】
《そういうもんかね》
【ほら、無駄口叩いていないでさっさと行くぞ】
《わかりましたよ》
俺は満月が綺麗に映った水面の上を真ん中辺りまで飛んで行く。
「この辺りか」
ゴッドパスが反応した場所で俺は止まった。
「〈ウォータードーム〉!」
呪文を唱えた俺の周りをシャボン玉のような膜が包む。
「探検みたいでワクワクするな」
海中探検のように沈んでいきながら見る琵琶湖の水中の景色に興奮してしまう。
「あれか」
水底についた所で洞窟の入り口を見つける。
「動きづらいな」
普段と違い、魔法のみで移動することに疲れてしまう。
【そろそろだぞ】
リベラルの言葉を聞いてすぐに青白い輝きに満ちた場所に出た。
「何か出てきそうだな」
俺は警戒しつつ輝きに近づいて行く。
「何だ?水晶?」
輝きを放っていたのは青色の球体だった。
「今回は早く終わりそうだな」
特に問題もなく神器を手に入れられそうだと安心した瞬間、琵琶湖に地鳴りが響いた。
「な、何だ?」
球体の輝きが増していき、光りが眩しすぎて俺は目を瞑ってしまう。
「くそ~何だよ。今回は楽勝だと思ったのに」
光りの影響で目は完全に開けられなかった。
【ほら来るぞ】
リベラルの言葉で構えたが、間に合わず敵の攻撃をまともに喰らってしまった。
「がはっ」
衝撃でウォータードームが破壊されてしまう。
《息が出来ない》
【早くもう一度魔法を唱えろ】
リベラルに言われた通り魔法を唱えようとしたが、またも攻撃を喰らってしまった。
水中ではっきりしない視界の中、必死に敵を探る。
「プギャーーーーー」
正体不明の敵が吹き出した水流で俺はあっという間に地上へと打ち上げられた。
「ぐっ」
俺は受身を取ったものの、背中から地面に叩きつけられてしまう。
《何だったんだ?》
【神器の自己防衛魔法が発動してしまったようだ】
《今まではそんなことなかったじゃないか》
【今回の神器はより強力な力を持っているからな】
《そういうことは最初に言えよ》
俺は消耗のあまり寝たまま愚痴った。
【それは悪かったな】
リベラルは完全に開き直って謝る。
《どうするかな》




