十節 大和流の最終奥義を会得しました
「どうした!腕が鈍ったんじゃないか!」
一刀が俺に活を入れてくる。
「まだまだ!」
道場に木刀がぶつかり合う音が響く。
「せい!せい!せい!」
「は!は!は!」
俺の反撃を一刀が完璧に打ち返す。
「ふんぬ~」
鍔迫り合いの押し合いで頭に血が上る。
「ちぇりゃーーーーー」
一瞬のスキをつかれ一刀が打ち上げた俺の木刀が天井に突き刺さった。
「それまで!」
大樹が終了の掛け声を叫ぶ。
「くっそ~」
俺は思いっきり悔しがりながら寝転んだ。
「あれから相当な修羅場を経験したのだな」
手拭いで汗を拭いた一刀が言った。
「まあそれなりに」
上半身だけ起こして俺は返事をする。
「あのときとは殺気が別人だ」
「そうか?」
自分では全く実感がなかった。
「命の重みを知っている者の眼をしている」
「お二人とも食事にしましょう」
大樹が明るい声で会話に入ってきた。
「飯、飯、腹減った」
俺は子供のようにはしゃいで腹を触る。
【品がない】
《素直と言ってくれ》
「今日はいい感じの獣が獲れましたから」
大樹が用意したのは石狩鍋に似た鍋料理だった。
「お前の料理の腕は武士にしておくの勿体ないな」
俺は口いっぱいに頬張りながら話す。
「戦うよりはこっちが得意ですね」
大樹はそう言うが、剣術の腕も決して悪くはない。
「こんな化物がいたら自信なくすわな」
俺は一刀を見て言った。
「誰が化物だ」
ちょっとふて腐れながら一刀も料理を口にする。
「少なふぁらず普通ではないと思ふぞ」
口の中に肉が残っていてゴニョゴニョとした発音になった。
「それを言うならお前もな」
一刀は目線をこちらに向けず汁を口に運ぶ。
「お二人とも化物ですね」
『あ?』
大樹の言葉に俺と一刀が睨みをきかせる。
「ははは」
大樹はちょっと気まずそうに苦笑いした。
「これから鬼神を超える大和流の最終奥義を教える」
一週間マンツーマンで稽古をした俺は朝から森に連れ出されていた。
《嫌な予感がすごいするんですけど》
一刀の真剣な佇まいに俺の緊張感が高まっていく。
「鬼神のエレルギーを心臓に打ち込む」
「いやいやいや」
俺は芸人みたいに手を振った。
「死ぬって」
「そうだ死ね」
「すごく堂々と言ったな」
俺と一刀はシュールなやり取りを交わす。
「筋肉と一緒だ」
「何その叩いて鍛えるみたいなノリ」
「グチグチ言ってないでやるぞ」
一刀は有無を言わさない感じで鬼神の状態になった。
「なるようになれだ!」
俺も開き直って鬼神になる。
「行くぞ!」
一刀は迷いなく心臓に拳を打ち込んだ。
「はぁーーーーー大和流奥義、龍神!」
鬼神の赤い気に青黒い稲妻のようなエレルギーが混じって一刀を包み込む。
「はぁ、はぁ、はぁ」
数秒間その状態になって元に戻った一刀は息を乱していた。
「よし、やってみろ」
「ふーーーーー」
俺は胸に拳をゆっくりあて深呼吸する。
「はぁーーーーー」
俺は鬼神の状態を最高潮まで高め、全力で心臓にエレルギーを打ち込んだ。
「おーーーーー〈大和流奥義、龍神〉!」
一刀と同じように凄まじいエレルギーが俺を包み込む。
「はぁ、はぁ、はぁ」
何とか奥義を会得出来た俺は膝をついて仰向けに倒れ込んだ。
「やったな」
一刀が向けた拳に横になったまま拳を当て返す。
「疲れた」
エレルギーが尽きた俺はそのまま意識を失った。




