十一節 トラブル発生しました
「我々が一郎様を観察し始めたのは約一ヶ月前になります」
長く続く階段を下りつつ美島が話す。
《俺がこっちに戻ってきてすぐじゃないか》
「凄まじいエレルギー反応が観測されたんです」
「エレルギー反応?」
「ええ。それで駆けつけた現場にいたのが一郎様でした」
「じゃあ、美島さんたちが病院へ運んでくれたんですか?」
「病院側に圧力をかけて情報は伏せましたが」
国家機関の底知れないものを感じ、少しぞっとしてしまう。
「ようこそ、防衛省異世界研究機構へ」
やっと着いた扉の中へ美島が手招きする。
「すげえ」
見たこともない広大な施設に思わず呟いてしまった。
「未知の物体、事象を研究、保護、または拘束するのが主な目的です」
「拘束?」
「いえいえ、危険と判断した場合はです」
「ああね」
一瞬身構えてしまったが、美島の笑顔に安心する。
「それで、まずは見て頂きたいものがありまして」
ツカツカと靴音を鳴らしながら美島が奥へ進む。
「課長、その方が?」
「普田一郎様よ」
「あ!私は研究員の時田です。よろしくお願いします」
かなりフランクで、どことなくクリスを思い出す容姿の女性が握手を求めてきた。
「どうも」
俺は押され気味の苦笑いで対応する。
「時田、例の物をお見せして」
「了解です」
美島に言われ、時田は持っていたタブレット画面を操作した。
「これはもしかして」
シューと音をさせながら透明な容器が出てくる。
「例の現場であなたの側にこれが落ちていました」
日本刀は特殊な装置に頑丈に保管されていた。
「やっぱり草薙の剣か」
俺と一緒にこの世界へ来ていたらしい。
「私たちが触ろうとすると異常なエレルギーを発して持ってくるの大変だったんですよ」
時田は肩をほぐして大変さをアピールしてきた。
「はあ」
俺はまた雑に返事をする。
「本来はお返しすべきなんでしょうが」
美島は先の言葉を話しづらそうな顔をしていた。
「俺に持たせるのは危険だというわけですか」
代わりに先の言葉を口にする。
「そういうわけです」
「別に構いません。あいつに奪われるよりは」
どういう経緯かはわからないが、黒兜の手から逃れてきたのは嬉しいことだ。
ウィーウィーと突然に音が鳴り、赤いサイレンがそこかしこで点滅し出す。
「高エレルギー反応!異空間が開きます」
モニターを見ていた研究員が警告してくる。
「研究員は退避、警備隊は戦闘準備だ!」
美島は冷静に指示を出す。
「時田、お前は一郎様と共に退避しろ」
「私は残ります。こんな体験は出来ませんから」
時田のワクワクした顔は本当にクリスと似ていた。
「まったくお前は。では、一郎様は退避してください」
「俺も残りますよ」
「ですが一般市民の方を危険にさらすわけには」
美島の言葉を遮るように現れた異空間の裂け目がエレルギーで周囲を破壊していく。
「きゃーーーーー」
「おーーーーー」
「これはすごい。貴重なデータがとれます」
他の研究員は叫ぶ中、時田はタブレット画面を興奮して見ている。
ガシャーンと地面にヒビを走らせ、異空間から巨大機械兵が現れた。
「ああ~異空間が」
機械兵を送り出しあっさり閉じた異空間を見て時田は残念という表情になる。
「警備隊、攻撃開始!」
美島の号令で一斉射撃が機械兵に浴びせられた。
「対象の損傷なし」
警備隊の隊長が美島に報告する。
「美島さん、刀を俺に!」
「時田、装置を解除しなさい」
俺の呼び掛けに美島は迷わず指示を出す。
「了解!」
時田も瞬時に対応して装置を解除した。
「俺に任せて皆下がってください」
容器に入った草薙の剣を手に取り俺は走る。
「ギュルルルルル」
機械兵は電動ノコギリ型の手で警備隊の武器を破壊した。
「総員退避!」
それを見て美島はすぐに警備隊を下がらせる。
「とりゃーーーーー」
寸前の所で機械兵の攻撃を刀で受け止めた。
「勇者を舐めるなよ!」
俺の連続で繰り出された斬撃で機械兵は壁に叩きつけられる。
「ありえない」
「人間なのか?」
「嘘だろ」
警備隊は駅にいた人間たちと同じことを口にした。
「一郎さん、まだエレルギー反応があります」
時田が俺に警告する。
「はぁーーーーー」
高く飛び上がり機械兵を真っ二つにする。
「やった!」
時田は驚きもせず、子供みたいにはしゃいだ。
《本当にどうなっているんだよ》




