十節 国家機関が接触してきました
気絶した夕を抱えまま、町の高台に人がいないことを確認して着地した。
《さて、どうしたものかな》
ベンチに夕を寝かせ、腰を降ろした俺は現状を整理していく。
《化物を倒した攻撃力、空中を飛んだ魔力。鎧以外の力は使える》
俺は試しに手の平に炎を灯した。
「一郎?」
慌てて炎を消す。
「夕……」
俺は目覚めた幼馴染に何と言えばいいのかわからず黙ってしまう。
「ねえ、本当に一郎なのよね?」
ほんのちょっと前までと違い、夕の声に見えない壁を感じた。
「ああ。俺は普田一郎だよ」
幼馴染を安心させる為にゆっくりと言い聞かせる。
「あの化物は何なの?何で倒せるの?空も飛んでたし」
俺の言葉は意味がなかったらしく、夕は次々と疑問を口にしていく。
「化物は俺もわからない。他は異世界で身に付けた力だ」
「異世界?」
夕の顔は有り得ないと言いたげな表情をしていた。
「俺も夢だと思っていたんだ。あの化物が現れるまでは」
「じゃあ、記憶がないって言ったのは嘘だったの?」
「だって信じられないと思ったから」
自分でも信じられないことを他人に言えるわけがない。
「体は大丈夫なのよね?」
「と思う」
「何よそれ」
「自分でもよくわからない」
「もう居なくならないわよね?」
「行こうと思っても行けないよ」
最後に見たリベラルの顔を思い出し、憂鬱になってしまう。
「家まで送る」
俺は返事を聞かず先を歩き出す。
「……」
夕は黙ったまま後ろをついてきた。
『本日午前十時頃、○○駅にて正体不明の生物が暴れ、利用者、周囲の店舗を……」
家に帰ると、テレビは正体不明の生物騒動でどのチャンネルも特別番組をやっていた。
「はあ~」
俺はソファーで横になり、目に右の手の平をのせる。
《リベラル、俺はどうしたらいいんだよ》
自分が何をすべきなのかわからず、居ない精霊に答えを求めてしまう。
《一体どうなっているんだ?》
ブーブーブーとテーブルに載せていた携帯が振動する。
「知らない番号だな」
手にとって見た画面の登録されていない番号に面倒くささを感じる。
「もしもし?」
「普田一郎様のご連絡先でお間違いないですか?」
女らしいが、知らない声だ。
「そうですけど」
「私、防衛省の美島と申します」
「防衛省?」
自分の人生で関わることがないと思っていた名称に戸惑う。
「今回の○○駅でのことでお話ししたいことがありまして」
「何で僕に?」
面倒事を避けたく、とぼけてみる。
「あなたが正体不明生物を倒された映像が残っていたんです」
たったそれだけで自分に辿り着く国家機関に寒気を感じた。
「逮捕でもしますか?」
「いえいえ、すこしお時間を頂きたいだけです」
子供じみた挑発も軽くかわされてしまう。
「別に構いませんけど」
逃げることは出来ないと感じたので、会うことにした。
「明日はいかがでしょう?」
「仕事が終わった後なら」
「わかりました。場所は後ほどメール致しますので。では、失礼致します」
そう言い、美島は電話を切った。
《アドレスも知っているのかよ》
「何で埠頭なんだ?」
美島からメールされてきたのは最寄駅からもタクシーで一時間程の埠頭だった。
「普田様でございますね?」
声を掛けられ振り返ると、ピシッとスーツを身に纏った美人が立っていた。
「はい」
俺は警戒心丸出しで返事をする。
「昨晩は失礼致しました。美島です」
「どうも」
「ご案内致します」
俺は美島に案内されるまま地面に隠されていた階段を下りた。




