三節 強敵にテンションが上がりました
「勇者殿、手加減無用ですぞ」
「そのつもりです。あと、一郎でいいですから」
「では、私もガークと呼んでくれ」
俺は将軍の名が似合う巨体の男と相対していた。
「では、時間無制限の一本勝負を始めます」
いつもと違い、正装に身を包むキーアが審判をしている。
「ホホホ、これで勇者が本物かはっきりしますわね」
王の隣で貴婦人のような姿をした王族の一人が薄ら笑いを浮かべた。
「そうだなミラーノ。一郎がどう戦うか楽しみだ」
サルマは無邪気に戦いを楽しむように笑っている。
「王、顔がだらしなくなっています」
ギールが咳をしながら注意した。
「まあいいじゃないか。ワハハハ」
サルマの豪快な笑いが見物席に響く。
「互いに礼!」
キーアの掛け声で俺もガークも礼をして武器を構えた。
「始め!」
号令と同時に激しい攻防が始まる。
「どりゃ!どりゃ!どりゃ!」
ガークは唸りながら大剣を振り回す。
「せい!は!は!」
俺も負けじと剣を弾き返していく。
【全力でないとは言え、人間にしてはなかなかやるな】
珍しくリベラルが感心する。
《そうだな。さすが戦闘民族だ》
俺も不謹慎だがワクワクする高揚感に体が熱くなっていた。
「さすが勇者ですな。全力で戦えるのは久しぶりだ」
ガークも同じようにテンションが上がっているらしい。
「じゃあ遠慮なく行かせてもらいます」
俺は連続での突きを繰り出す。
「何のこれしき」
常人では目で追えないスピードにも余裕でついてくる。
「マジですげえ」
一刀以来の強者に驚きの声を上げてしまう。
【品がない】
勝負中だからかリベラルの小言もコンパクトになる。
「武神流大剣術〈豪覇斬〉!」
ちょっと気を緩めてしまった瞬間、ガークの容赦ない一撃が襲う。
「大和流〈竜昇斬〉!」
俺はギリギリで上に剣を斬り返した。
「あぶねぇ~」
後ろに距離を取ってホッと一息つく。
「この技を凌がれたのは王以外で初めてだ」
ガークの表情はますます興奮していた。
《王様も強いのか》
サルマの体格の良さに納得する。
「よ~し、あれを試してみますかね」
俺は右肩を回して入りすぎた力みを取った。
「とーりゃーーーーー」
俺は雄叫びを上げながら走り出す。
「おおーーーーー」
ガークも張り合うように駆け出した。
「合体奥義〈闘神閃空斬〉!」
内と外に満ちた生体エレルギーがガークに炸裂する。
「がはぁ!」
凄まじい衝撃で闘技場の壁にガークがめり込んだ。
「ガークがやられるとは信じられません」
目の前の光景にミラーノは愕然としている。
「ハハハ。これほどとは」
サルマは一郎の戦いぶりに愉快そうに笑う。
「一郎、完敗だ」
ガークは足を引きずりつつも一郎の側に歩み寄ってきていた。
「いや~ガークも強いよ」
《頑丈さなら一刀より上かな》
互いに握手を交わそうとした手を差し出したら、俺の視界に暗闇から出てくる人が写る。
「何者だ」
突然現れた男にガークが問いかけた。
「邪魔だ」
男は一言呟くと、ガークを片手で床に叩きつけた。
「とりゃ!」
「鬱陶しい」
一瞬で間合いを詰めたキーアの拳はあっさり避けられ、身動きを封じられてしまう。
「くそ。この!」
右腕を後ろに固められたキーアは必死にもがく。
「お前が勇者だな?」
口元だけ出た黒兜で顔が隠れた男が一郎に問いかける。
「そうだ」
「この女を解放して欲しければ、グルス帝国へと来い」
そう告げると、黒兜の男はキーアを連れて闇へと姿を消してしまった。




