二節 飛んで興奮しました
ゴク、ゴク、ゴク、と栄養ドリンクに似た物を飲みベッドに横になる。
「はあ~つえ~。これで眠ればいいんだよな」
【何だそれは?】
《クリスに頼んだ二日酔い剤だよ。これで二日酔いと同じ状態になれるはずだ》
【楽ばかり考えおって】
《要領がいいと言ってくれ》
リベラルからのお小言を頂戴しながら瞼を閉じ、俺は眠りについた。
《来たのはいいけど。どうしたものかな》
頭を掻きながら考え込む。
《お~い、リベラルさん。怒っているの?》
異世界に来れたものの、目覚めてからリベラルとは会話出来ていなかった。
《仕方ない。情報収集にでも行きますか》
俺はとりあえず歩き出す。
「お、鳥?いや、あれは人か?」
街らしきものが見えた所で頭上の異変に気付いた。
見た目は普通の人間が空を自在に飛んでいる。
「どうやって飛んでいるんだろう」
軽い疑問を口にしたら、近くの草むらが音を立てた。
「誰だ!」
音の先から問いかける声が聞こえる。
「貴様、何者だ!」
現れたのは、これぞ魔法使いという感じの格好をした小柄な女性だった。
「どうも、初めまして普田一郎と申します」
いつもの営業挨拶で自己紹介をする。
「お前、人間か?」
「いや、どう見ても人間でしょ」
思っていなかった返答についツッコミをしてしまう。
「お前のような体つきの者は見たことがないぞ」
魔法使いは変質者をみるような目でジ~っとこちらを見つめている。
「ゴーーー」
突然、熊のような獣が襲ってきた。
「危ない!」
俺は反応が遅れた魔法使いを押し倒す形で庇う。
「神器一体!着装!」
振り向き様にお決まりのセリフを叫ぶが、声が虚しく響くだけだった。
《おい、リベラル!拗ねている場合じゃないだろう》
【……】
必死に呼びかけたがリベラルからの返答はない。
「くそ。生身かよ」
俺は愚痴をこぼしながら獣との間合いを詰める。
「闘神拳!」
俺は獣の胸に必殺の一撃を打ち込んだ。
「ぐお~」
獣は唸りながら息絶えて倒れる。
「はぁ~。何とかなったか」
ついこの前までは生身でこんなことが出来ることになるとは思っていなかった。
「何なんだお前は?」
いつの間にか起き上がっていた魔法使いは驚きの声を上げながら近づいてくる。
「勇者ってやつかな?」
「勇者だ?ふざけた奴だ」
魔法使いは、さっきより警戒心が和らいだ笑顔を見せた。
「私はハルだ」
ハルは手を差し出しながら自己紹介をする。
「ああ、よろしく」
俺もハルの手を掴み握手を返した。
「助けてもらった礼に飯でも食わせてやるから、ついてこい」
そう言うと、ハルはふわっと空中に浮かぶ。
「何をしている?さっさと飛べ」
「すみません。飛べないんですけど」
俺は情けない感じで説明する。
「何だと。面倒な奴だな」
ぶつぶつ言いながらもハルはこちらに降りてきた。
「しっかりとつかまれ。バカ!どこを触っている!」
「あ、ごめん」
「行くぞ」
バタバタしながらも何とかハルは俺を背負いながら空中に浮かんだ。
「お~飛んでいるよ」
俺は小学生みたいにはしゃいでしまう。
「こら!じっとしていろ」
「ごめんさない」




