十一節 脱出しました
気付いたときには霞の屋敷で横になっていた。
危うく死に掛けたが、今回も何とか生き延びている。
「いや、一郎様が戻られたときはどうなるかと思いました」
血だらけで戻った俺を霞が背負って運んでくれたのだ。
「ああ。俺も死んだと思ったよ」
狼男に心臓を貫かれたときには本当に終わったと思った。
「何はともあれ、ご無事で何よりでした」
霞はほっと一息という感じで胸に手を当てている。
「では私は失礼します。ゆっくりお休みくださいませ」
スッと立ち上がり霞は部屋から出て行った。
《ふ~。俺も少しは運があるのかな?》
【私がついているのだ。勇者を簡単に死なせてたまるか】
安心してつぶやいた心の声にリベラルが反応してくる。
《それはどうも》
素直に礼を言えず軽口を叩いてしまう。
【そんな口がきけるなら心配はいらんな】
リベラルもいつもの小言口調に戻る。
《ああ。早くカミシアたちの所に戻らないとな》
【なら早く傷を治せ】
《言われなくてもわかっているよ》
お決まりのような言い合いをして俺はゆっくりと瞼を閉じた。
命がけの修行から三日後の朝、花月忍者の里を発っていた。
「何から何まで悪いな」
「いえ、我が一族の役目ですから」
安全な場所まで見送ると霞たちもついてきていた。
「頭領。そろそろ」
部下の忍が霞に声を掛ける。
「ああ。一郎様。申し訳ありません。私共はこちらで失礼致します」
「いや、十分だよ。世話になったな」
俺は霞に別れを告げ、鎧に身を包み足を急がせた。
もう少しで魔族の土地を抜けようとしたとき、魔術の攻撃が飛んできた。
「やっぱり何もなしに帰らせてくれないよな」
咄嗟に攻撃を避けながら体勢を整える。
「いや~さすがですわ。相変わらず避けるのはお上手ですこと」
このムカつく口調の女魔人は、グルス三大将軍のマルードだ。
「そっちも相変わらずそうで」
俺も嫌味を返す。
「さあ、今日こそ死んで頂きしょう!」
マルードは声高らかに叫び右手を振り下ろす。
「ぎゃあああ」
合図が出た瞬間に魔族たちが一斉に襲い掛かってきた。
「こんの野郎!」
俺は覇道砲を繰り出す。
「無駄ですわ」
前回同様、魔吸傘に吸収されてしまう。
「学習能力がないのかしら?」
マルードの馬鹿にした口調にカチンとする。
「無いなら無きゃいいと思っただけだよ」
俺は苛立ちを抑えて集中した。
「何者も魔吸傘はやぶれませんわ!ホホホ」
癇に障るマルードの笑い声が一帯に響く。
「それはどうかな」
リベンジを果たすべく空手もどきの構えをつくる。
「何のつもりです?」
「見ていればわかるさ」
俺はす~と深呼吸した。
「神器!《闘神の怒号》」
叫びに応じて鎧はゲームの武道家風の服装に一部防具をつけたものに変わる。
《この鎧って本当に何でもありだよな》
【バリエーション豊富と言え】
《だから精霊がバリエーションって》
妙にリアルというか夢がないというか思わずツッコミをしてしまう。
「よ~し、ちゃちゃっと倒しますか!」
俺は気を取り直してブンブンと腕を振り回す。
「ふん!外見が変わっただけじゃないの」
マルードは完全に油断していた。
「まずは邪魔な機械を破壊してやる」
一気に守りの魔族を蹴散らし、魔吸傘に詰め寄る。
「くらえ!花月流体術〈闘神拳〉!」
溜まりに溜まった怒りがのった拳が魔吸傘を粉々にした。
「そんな、私の、私の発明品が……」
自信に満ちていたマルードの顔がワナワナと震えている。
その顔を見て、ついついニヤついてしまった。
「さあ!こっからが本番だぜ!」
難関を突破したことによって俺のテンションは上がりまくる。
「魔吸傘を破壊しただけで調子に乗りおって。ええい!何をしている!」
ヒステリックに叫ぶマルードの声に急かされ魔族たちが迫ってきた。
「一気にやらせてもうらよ」
生体エレルギーを内に込めた拳が猛っているのを感じる。
「はあぁぁぁぁ!」
魔吸傘を失ったマルード軍はあっけなく壊滅した。
「そんなバカな」
未だに目の前の事実を受け止めきれないという表情でマルードは立ち尽くしている。
「覚悟しろよ」
俺は拳をゴキゴキと鳴らしながら近づく。
「覚えておきなさい!」
捨て台詞を吐き、マルードは隠し持っていた装置を使い姿をくらました。
「あ!この野郎~」
あと少しのところで逃がしてしまい思わず舌打ちする。
【かまうな。今は戦うのが目的じゃない】
《そうだな》
俺はリベラルの一言で冷静を取り戻し、辻風の舞で駆け出した。




