九節 スパルタが始まりました
俺は強烈な打撃を胸に喰らい膝をついていた。
「う、ゴホゴホ」
大和流や異世界に来て日々鍛えてきた自信はあっけなく崩される。
「オラ!立てボケ!」
昨日の女神のような顔ではなく、般若のような顔で霞は仁王立ちしていた。
「ふ~」
俺は息を漏らしながらゆらりと立つ。
「それでも勇者か!」
三十代半ばで年下の女性にここまで言われるのはなかなか辛いものがある。
「あの兵器を壊すことなんて出来るのか!」
魔吸傘を破壊する為の特訓は全く上手くいっていなかった。
《これで大丈夫か?》
【生体エレルギーが吸収されるのなら、強化した肉体で攻撃するしかあるまい】
リベラルなりの激励がかけられる。
その肉体を得る為に花月忍者特製メニューをコーチされていた。
「生体エレルギーを出すのではなく溜めるイメージでやるんだ!」
フラフラになっていても霞のしごきは弱ることはない。
大和流とは逆の発想に苦労していた。
《これもさ、霞の話だと先代が術を開発したって言ってたよな》
【ああ。大和流の生体エレルギーを忍術に合わせた】
特訓を始める前に霞はそう話してくれていた。
「理屈はわかるんだけど上手く出来ないな」
「ほら!口でなく体を動かせ」
「しゃーーー」
結局、日が暮れても成果は出なかった。
「一郎様、お体は大丈夫ですか?」
スパルタ顔とは真逆の女神顔で霞が心配して訊いてくる。
「ああ。すぐに治るよ」
俺はちょっと引き気味に答えた。
「体術の理屈は出来たけど、大和流との合わせ技となるとな~」
「我々のように人並みなら難しくはないのでしょうけど」
「鎧のエレルギーが大きすぎて外に放出されてしまう」
外に出てしまっては魔吸傘に吸収されるだけでダメージは与えられない。
「かと言って、私の打撃では破壊するほどのパワーはないですし」
霞たちの調査で得た魔吸傘の耐久度はかなりの攻撃力を与える必要があった。
「くそ。あと少しでコツが掴めそうなんだが」
肝心な何かが足りないせいでドン詰まりの状態だ。
「一つ方法があります」
霞の顔は若干引きつっている。
「いいよ。命の危険は覚悟出来ているから」
大和流のときで勇者の技を得るのにつきものだと覚悟は出来ていた。
「わかりました」
霞も覚悟を決めた顔になっている。
「よし、じゃあ今日はゆっくり寝させてもうおうかな」
俺は湿っぽくなるのが嫌で空元気を全開させた。
「では、その前に自慢の露天風呂でごつくろぎくださいませ」
「うん。ありがとう」
「ここが先代勇者様が開発した修行の場となります」
霞に連れて来られた場所は自然豊かな森に囲まれた洞窟の前だった。
「ああ。それで俺はどうしたらいい」
「この洞窟に入って頂きます」
「それだけ?」
俺はちょっと拍子抜けしてしまう。
「中に入ればわかります」
「そうなの?」
「私が言うよりも実際やった方が早いと思います」
霞の口調は重かったが、特に危険は感じられなかった。
「じゃあ、行こうか」
俺は霞を促して洞窟に歩みを進めた。




