八節 忍者が味方になりました
「これ、勇者様に飲み物と着替えをご用意しろ」
リーダー覆面が侍女たちに指示を出す。
「さあ、腰を下ろしてください」
俺はお言葉に甘えて座らせてもらう。
「どうして魔族の領に人間がいるんです?」
クリスからは味方がいるなんて話は聞いていない。
「はい。順を追ってご説明致します」
リーダー覆面は顔を隠していた布を取りながら話す。
「初めまして。私は〈花月忍者〉の首領を務める霞と申します」
目の前の美人にてっきり男と思っていた俺は呆然としてしまった。
「あ、ごめんなさい」
つい見とれてしまい俺は慌てる。
「普通は男が首領になりますから、驚かれるのは無理もありません」
《それも驚いたけど、理由は別なんだよな》
自分の中の下心は口に出せない。
「で、どうしてあの場所に?」
俺は必死に平静を装いながら話を戻した。
「魔族の動きは常に探っていましたし、元々は魔族でなく我らが土地でしたから」
「え、そうなの?」
「はい。それを魔族たちが突如として侵略してきたのです」
俺は侍女が持ってきてくれたスープを飲みながら続きを促す。
「我らの祖先たちは立ち向かいましたが、魔族の前になす術なく」
一瞬沈んだ顔をしたが、霞はすぐに話し始めた。
「もう絶滅かと思ったところを救って頂いたのが先代勇者様だったのです」
《ほんと先代勇者ってすごかったのな》
【確かに優秀な男だった】
俺はちょっと劣等感を覚えた。
【だが、私はお前も大したものだと思うぞ】
《そりゃどうも》
そっけない態度を取ったが、俺は内心嬉しくなる。
「それで危機を脱した我々はここに里を作り、密かに力を蓄えてきたのです」
「なんでここに?魔族たちがいつ攻めてくるかわからないじゃないか」
もっと安全な場所にすればいいのにと不思議に思ったので訊いてみた。
「いつの日か新たな勇者様が戻ってこられたときのためです」
昔の武士みたいに義理堅い一族だなと感じる。
「でもさ、よく魔族に見つからないな」
「この里は東西南北に先代勇者様の聖なる結界を張っておりますから」
《どんだけ優秀なんだよ》
出来過ぎなご先祖様に皮肉を言いたくなった。
「そうなんだ。しかし本当に助かったよ」
俺は改めて礼を言う。
「いいえ。こういう日の為に修行してきたわけですから」
礼を言われるほどでもないという感じで霞は両手を左右に振った。
《とりあえずは助かったけど、あの兵器はどうするかな》
魔吸傘をどう攻略すればいいのか途方に暮れる。
「それでマルードの兵器についてなんですが」
俺の浮かない顔を察してか霞は提案をしてきた。
「え?なんか方法あるの?」
俺は見栄を張ることなく耳を傾ける。
「はい。我らが忍術なら通じるのではないかと」
「俺に出来るかな~」
忍術という未知のものに全く自信が出てこない。
「少し荒っぽくなるかもしれませんが大丈夫だと思います」
優しい言葉とは裏腹に霞の笑顔にちょっと背筋が冷たくなった。
「それならいいけど。お手柔らかにお願いします」
俺は軽く会釈程度に頭を下げる。
「ええ。とりあえず、今日はゆっくり休んでください」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
まさか魔族の土地で休めるとは思っていなかった俺は安心して寝床についた。




