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七節 ピンチを向かえました

【一郎、そろそろ起きろ】


「う~。痛!」


 リベラルに起こされ目覚めると脇腹にピリっと痛みが走る。


《はぁ~ゴルザに喰らったボディブローのせいで痛いな》


 しかめっ面をしながら俺は起き上がり外の様子を伺った。


《すっかり敵に囲まれたな》


 見渡す限り空にも地上にも魔族がウジャウジャとうろついている。 


【仕方ない。突破するしかなかろう】


《まあ、そうなりますよね》


 結界を解いて変身した俺は敵の真っ只中に飛び込んだ。


 魔族の中を辻風の舞でどんどん駆け抜ける。




 大きな平原に出た所で五万を超える魔族が待ち構えていた。


「やべえ」


 俺は大軍の前に思わず立ち止まる。


【馬鹿な。魔族のエレルギーは感知できなかった】


 リベラルも完全に裏をつかれたという感じだ。


「どうも初めまして。私はグルス帝国第二将軍のマルードです」


 鳥の魔族が四方から糸で吊るした椅子に座った女魔族が現れた。


「初めまして勇者の一郎です」


 営業時代のくせか丁寧に礼を返してしまう。


「ふふふ。ビックリされていますね。我が技術によって気配を消した甲斐がありました」


 マルードはどっかの貴婦人のように手を口元に当てながら高笑いした。


「それと私はあまり戦うのが好みませんので、手下がお相手しますわ」


 ワインのようなものを飲みながらマルードは話す。


《でも、これぐらいの数なら覇道砲で一発やれば》


【必殺技はなるべく控えろ】


《え?ダメなの?》


【逃げ切る為には節約だ】


《勇者が節約って》


 何となくカッコ悪い気分になる。


「では、やっておしまい」


《おお~テレビ以外で初めて聞いたわ》


 現実世界で聞くと思わなかった言葉にちょっと苦笑いしてしまう。


「しゃあ~」


「ぎゃーーー」


「ぐおおお」


 ちょっと気を緩めていたら様々な雄叫びを上げながら魔族が迫ってきていた。


「もうなるようになれだ!」


 俺はヤケクソな気持ちで敵に突っ込む。


「このくそ~」


 俺は戦国の侍のように次々と魔族を斬りまくった。


「そりゃ!そりゃ!そりゃ!」


 魔族たちの血しぶきが飛び散る。


「どんどん行きなさい!」


 マルードは高みの見物で指示を出している。




「はぁ…はぁ…」


「さすが勇者。ねばりますね」


《さすがに技なしではきついぜ》


 省エネ作戦のせいで完全に俺は追い込まれていた。


《やっぱり一発かまして突破口を開かないと無理じゃないか》


【仕方ないか】


 リベラルも渋々だがOKを出す。


「神器!完全開放!」


「おお!これが噂の黄金の勇者ですか!」


 マルードは完全開放を見ても動揺せず興奮しだした。


「くらえ!覇道砲!」


 細かいことは気にせず俺は必殺技を繰り出す。


「……どういうことだ」


 放ったはずの必殺技は敵を蹴散らす前に姿を消していた。


「驚きました?私の発明〈魔吸傘〉は素晴らしいでしょう!」


 どうやら巨大なソーラーパネルみたいなものがすっぽり覇道砲を吸収したらしい。


「これならどうだ、烈風閃空斬!」


 渾身の一撃を放つが、これもあっさり吸収されてしまう。


「形状は関係ありませんよ。あらゆる生体エレルギーを吸収するように作りましたから」


 余裕の笑みでマルードは説明してきた。


「打つ手なしか」


 俺は人生で初めて死を覚悟する。


「さあ、そろそろ死んでください」


 マルードの合図で一斉に魔族たちがこちらに向かってきた。


「くそ」


 もうそこまで敵の刃が迫ったときに何かの集団が割って来る。


「何者だ!」


 さすがにこの事態にはマルードも動揺している。


「魔人などに名乗るものか!」


 馬に跨っている人物は忍者のような装いで顔は隠れていた。


「さあ、勇者様。どうぞお乗りくださいませ」


 リーダーらしき覆面がこちらに手を差し伸べる。


「ああ」


 俺は戸惑いつつも手を取り馬に跨った。


「よし、目的は達成した。皆の者、散れ!」


「おお!」


 リーダー覆面の号令で忍者集団はあっという間に魔族の囲みを突破していく。


「綺麗だ……」


 あまりの鮮やかさに口が開きぱなっしになる。


「勇者様、しっかりつかまってくださいね」


「ああ」


《さっきから俺、同じことしか言ってない》


【はぁ~情けない】


 戦場に俺にしか聞こえないリベラルの溜息が響いた。



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