三節 何か勇者になっちゃいました
辺りは朝日に照らされ始めていたが、技術兵たちはまだ壁を修理していた。
「おい急げ!また奇襲がいつ来るかわからないからな」
兵長の号令で兵士たちはさらに手を速める。
「がんばるな~みんな」
俺はのんきに壁にもたれ掛かって作業を眺めていた。
「緊張感がない男だ」
カミシアが厳しい口調でツッコミを入れる。
《ベッドに包帯だらけで横たわっているくせに気が強いのは変わらずだ》
「ずっと緊張していても仕方ないでしょ」
《俺もこの状況に慣れてきてしまっている》
《夢ではないことは身に染みたからな》
「お前の力、なぜ隠していた?」
カミシアは鎧のことを聞いてきた。
「いや、別に隠していたわけじゃないよ」
俺は素直に話した。
「では、黒騎士を倒した力は何だというのだ」
《ごもっともな疑問です》
《使った本人もまだ理解出来ていません》
「牢屋で聞こえた声に従っただけだしな」
「声だと?」
「ああ。気づいたら鎧を着て戦っていたよ」
俺はありのままに答える。
鎧の呼びかけに応え、リベラルと叫んで気づいたら閃光に包まれた。
それからは鎧の指示に従うままに戦ったというわけだ。
コンコン。
ドアがノックされ、松葉杖をしたキーアが入ってきた。
「族長。う!」
「無理をするな」
カミシアが起き上がろうとするのを手の平で止める。
「すみません」
そう言いながらカミシアはベッドに戻った。
「一郎。本当にお前は異世界から来たのだな」
こちらに向き直って話し掛けてきた。
「信じてくれるんですか?」
「ああ。伝説の鎧を着られたら信じるしかあるまい」
「伝説の鎧?」
《たぶん今、綺麗に俺の頭にビックリマークが浮かんでいる》
「あの、話がさっぱりなんですが」
素直に疑問を言葉にした。
「あの白銀の鎧は、この城に厳重に保管されていた」
ゆっくり話しながら近くの椅子にキーアは腰を落とす。
「というか、保管する為に城を建てた」
俺も近くの椅子に座ってキーアの方に体を向けた。
「はるか昔、代々言い伝えられてきた戦の話」
《おお~何かRPGっぽい語り始まった》
「我々の祖先はアマゾネス族という戦闘民族でいつも戦をしていた」
キーアの顔は気のせいか物悲しげに見えた。
「長い戦いの末、祖先はこの国を勝ち取った」
俺は言葉の続きを待つ。
「だが、それはある戦士が力を貸したからと聞いている」
「もしかして、それが白銀の戦士?」
「ああ。貴様と同じ異世界から来たと」
《マジか!先輩がいたわけか》
「その戦士はどうなったんですか?」
キーアは言いづらそうだったが、そのまま続ける。
「最後の戦で重症を負ってしまい、この城で命を落としたらしい」
《そうだよな。不死になるわけじゃないもんな》
「白銀の戦士は亡くなる前に最後の力を振り絞って鎧を封印した」
「どうして?誰かに譲れば国の役に立っただろうに」
俺は合理的考えを口にした。
「誰もが着れるわけじゃない。鎧に選ばれなければいけないのだ」
「じゃあ、俺も選ばれたというわけですか?」
「そういうことだ」
「でも、わざわざ封印しなくても」
「戦の原因が鎧だったからだ」
「どうして戦う必要がある?選ばれなければ着れないんだろう?」
「グルス帝国の魔術があれば可能なんだ。鎧に宿っている精霊を思うがままに操る術を編み出したらしい」
「精霊?」
「白銀の鎧は、精霊が自分の力を与える為に姿を変えたものだそうだ」
「なんで精霊が?」
「それは知らん。そこまでは言い伝えでは語られていない」
《じゃあ、本人に聞いてみるか》
【誰が答えると言った】
《答えないのかよ》
【今のお前には聞く資格はない】
《何じゃそりゃ》
「どうかしたか?」
キーアが心配して聞いてきた。
「別に。ちょっと考え込んでしまっただけです」
《まあ、とりあえず昔のことは置いておこう》
「それで、君さえよければだが、我々に力を貸してほしい」
「俺の力?」
「今日の戦いでわかった。我々には勇者が必要だと」
「ちょっと待って。誰が勇者ですって?」
俺はつい慌ててしまう。
「君だ。白銀の鎧は勇者の証だからな」
「勇者の証ねえ~」
《突然現れた男を信じるのか?》
「調子がいいとは思うだろうが、頼む!」
キーアは深々と頭を下げた。
俺はその姿を見て心を決めた。
「わかった。何が出来るかわからないがやってみるよ」
《本当に手にした力が何なのか、自分でも全くわかっていないけどな》
「ありがとう。よろしく頼む」
キーアが手を差し出す。
俺も手を出し握手を交わした。
こうして俺は異世界で勇者をやることになった。
《やると言ったものの、大丈夫かな俺》




