十一節 命懸けで技を覚えました
今、生死をさ迷っている。
血だらけとなり、俺は横たわっていた。
《やべ~もうダメかも》
【そんなことを言えているなら大丈夫そうだな】
心では気楽に会話していても、体は全く言うことをきいてくれない。
《くそ!マジで動けよ!》
俺は必死にもがく。
だが、心臓の鼓動はむなしくも静かに動きを止めた。
俺の視界は暗闇に包まれる。
瀕死状態になる数十分前。
朝日に気持ち良く目覚めていた。
「おい。早く用意をしろ」
相変わらずの仏頂面で一刀が声を掛けてくる。
「もう修行?飯前に?」
異世界に来ても朝食は食べたい。
「ああ。食べても中身を出すなら意味がないだろう?」
一刀は平然と厳しい発言をしてくる。
「はい。わかりましたよ」
俺はげんなりしながら返事をした。
「よし、上着を脱いで裸になれ」
いつもの修行場所に着いてすぐに一刀が言う。
「いや、修行でもそれはね~」
ちょっと冗談で体を両腕で掴み守るフリをしてみる。
「馬鹿なことを言っていないで早くしろ」
呆れ顔であっさり流される。
「わかりましたよ。始まる前の軽いジョークでしょうが」
俺はいじけた子供みたいに口を尖らせた。
「先代勇者が使っていた流派は大和流というものだった」
一刀はこちらに木刀を投げながら話し始める。
「俺の世界では聞いたことないな」
歴史が好きで戦国とか幕末の本はよく読んだが、大和流という名は聞いたことがない。
「では、始めるぞ」
いつの間にか自分も上着を脱いだ一刀が構えていた。
「おう」
俺も真剣な表情になる。
「さあ!」
するどい一撃が襲ってきた。
「とりゃあ!」
修行の成果か、生身でも何とかついていけるようになっている。
「まだまだ!」
一刀が徐々に本気を出していく。
「このクソ!」
俺も何とか返す。
「甘い!」
じわりじわりと体に攻撃が当たっていく。
《やっぱり平成のサラリーマンにはきついぜ》
【そんなザマでは技の一つも会得できんぞ!】
リベラルからゲキが飛ぶ。
《そうは言ってもな》
五分もすると、俺の体は木刀なのに血だらけにされていた。
「ふ~。やべえ、腕が上がらない」
「では、これで終いとしよう」
その一言を聞いた瞬間に俺の意識はなくなった。
気付くと俺は暗闇の空間にいた。
意識はあるものの、肉体の感覚は全くなかった。
《俺って、生きているよな?》
心で訊いても、リベラルの返事はない。
《どうすればいいんだ》
誰の力も借りれない状況に行き詰ってしまう。
《死にたくねえ》
人生の中で初めて死を感じた瞬間、何とも言えない気持ちになる。
だが、あせっても視界が明るくなることはなかった。
《おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお》
どうすることも出来ない状況に心で発狂してしまう。
《生きたい、生きたい、生きたい!》
俺はひたすら念じ続けた。
《俺はまだ死ねない。異世界を救って、日本に帰るんだ》
誰が聞いているわけでもないが、感情を高ぶらせて叫ぶ。
《絶対に死ぬもんか!》
俺の願いが通じたのか、暗闇の中に光が射す。
《おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお》
藁にもすがるように光を求め、もう一度心で叫ぶ。
すると、俺の意識は少しずつ光に包まれた。




