十節 徹底的にしごかれました
「まだまだ!ラスト三十回!」
「このやろ~」
中年同士の暑苦しい掛け声が木霊する。
一刀と出会った日から十日経っていた。
「まず肉体をもっと鍛えないとな」
その一言から徹底的に基礎訓練の毎日だ。
「なあ、技の稽古とかはしないの?」
「今のお前では技にも鎧にも振り回されるだけだからな」
俺の提案はあっさりと却下される。
「へい」
【これで齢が同じとはな】
リベラルから呆れ声と同時に嫌味を聞かされる。
《どうせ俺は未熟者ですよ》
残り少ない気力で返事をした。
「お二人とも、食事の支度が出来ましたよ」
料亭にいそうな格好で大樹が呼び掛ける。
「おう~」
俺はフラフラになりながら山小屋に向かった。
「よく今まで鎧に殺されなかったな」
「ふぁ?」
口に食べ物を含んでいたので変な声になる。
「鎧を使用したときの生命体の消費はすさまじいと聞いていたが」
「ああ。本来の力を使っていないからな」
一刀の言うとおり、本来なら通常の変身でも消費はすさまじい。
だが、リベラルが調整しているおかげで命に影響は出ていなかった。
「では、一郎どのはまだ強くなれるのですね」
大樹は嬉しそうに話している。
《どんどんサラリーマンから離れているな》
俺はふ~っと溜息をつく。
「かと言って、そんなに時間もないし」
リベラルの話ではグルス帝国が不穏な動きをしているらしい。
「では、明日の試練をやり遂げたら技を一つ教えよう」
「え、マジで?」
「ああ」
ニヤリと笑った一刀に嫌な予感はしたものの、期待に胸がワクワクした。
ザザザー、凄まじい音を響かせながら目の前を滝が流れている。
「手本を見せてやる」
一刀は滝の勢いで溢れかえる水の中に入っていった。
「せいりゃ!」
掛け声が聞こえたと思った瞬間、下から上へ向け滝が一直線に割れた。
「おおお~」
俺は思わず叫び声を上げる。
「とまあ、こんな感じだ。それと鎧は使うなよ」
水をしたたらせながら一刀がこちらへ戻ってきた。
「マジでイケメンだな」
「意味のわからんことを言わずやれ」
俺は言われるまま水に入る。
「冷てぇ~」
一刀がノーリアクションだったので、この冷たさは予想していなかった。
「早くしないと死ぬぞ」
冷静に一刀が告げる。
「やってやるよ!」
あまりの寒さにテンションがおかしくなってしまう。
「一郎様大丈夫でしょうか?」
大樹が心配して一刀に訊く。
「さすがにもう限界かのう」
二人の心配する声は、限界なんてとっくに超えていた俺に全く届いていなかった。
「は、は、は、はぁ、はぁ」
呼吸もままならない状況に返って集中力が増す。
「はあ~」
俺は深く息を吸って大きく構えた。
「とりゃ!」
無心で振り抜いた一撃で大きく滝が割れる。
「やった……」
喜びの声も束の間、気力を振り絞りきった俺は意識を失ってしまった。
「一郎様、しっかりしてください」
「うう……」
「起きたか」
意識を戻すと山小屋で俺は寝ていた。
「成功したのか?」
「ギリギリだったがな」
一刀は壁にもたれかかりながら言った。
「そうか」
それを聞いて安心して目をつぶる。
「しっかりと休んでおけ」
「ああ」
「技の修練は一つ一つが命掛けだからな」
異世界に来て何度も死にかけたので、今更何だと思う。
「もう何でも来いだよ」




