彼女、山田さん
「では、我々はそろそろお暇しようか。」
加茂先輩は、寝屋氏の肩をぽんっと叩くと食器を流し台へと運び、寝屋氏とともに部屋を後にした。
私と彼女は食器類やたこ焼き機などを片付けると、一息ついた。
「山田さん、今日は泊まっていくんだろ?」
「こんな時間ですからね、それにしこたま飲んでいますので。」
山田さんは「たこ焼き研究」なるもののレポートを、試食会後に必ず原稿用紙にびっしりと書き記していた。
味、食感、適切な焼き時間や、かかるコスト、調味料との相性、第三者の評価から得られる改善点などなど、内容物別にこれでもかと書かれていた。その量は原稿用紙にして約500枚分はあった。
山田さんの家の本棚にはレポートがまとめられたファイルが所狭しと並んでおり、もはやそこは、モテない男子大学生達が一度は足を踏み入れてみたい、夢の女子大生の部屋、などではなく、たこ焼き研究所として機能していた。
あれだけのアルコールを体の隅々まで吸収したにもかかわらず、脅威の集中力でたこ焼きレポートを仕上げていく山田さんを尻目に、私は少しぬるくなったビールをすすった。
窓からはいい塩梅に丸くなった月が見え、部屋の電気でも消してしまえば、月明かりが照らす部屋に恋仲の男女が二人きりなんて、中々ロマンチックではないか、と、柄にもなく考えはしたものの、つがいの様をみるに、その妄想を実行するにはいたらなかった。
暇を持て余した私は、普段やりもしない明日の準備をしたり、申し訳程度についている弱弱しい筋肉たちを鍛えてみたりした、そのうちやる事もなくなったので、風呂を洗い湯を入れた。
「山田さん、俺は風呂に入ろうと思う。」
「あぁ、もうこんな時間か。じゃあ私も入ろうかな。」
「今日も一緒に入るのかい?」
「風呂とは大切なコミュニケーションの場です。二人のコミュニケーションを阻む、携帯やテレビやゲームにパソコンも水に濡れれば壊れてしまいますからね。恋人同士、風呂に入らばやることは、対話か中睦まじい洗いっこか、セックスのみです。つまり風呂とは究極のコミュニケーション環境、まさに裸と裸の付き合いです。」
山田さんは、得意げに独自理論を語り終えると、身に付けているものを次々と洗濯機へと放り込み、足早に風呂場へと消えていたった。
私も早々に服を脱ぎ、山田さんと中睦まじい洗いっこをこなした後、お互い向かい合って湯船へと浸かった。
「ほら見なさい、脇の毛がこんなにも。」
山田さんは腕を上げると、程よく蓄えられた腋の毛を見せ付けてきた。
「いい塩梅に生えてきたね、どれ下は…」
「もともと毛深いからね、心配せずとも特に手入れはしておりません。あなた好みです。」
「俺は変態かね」
「あなたは変態でしょう。」
「お互い様だと思うけどね。」
「あれはそこそこ恥ずかしいんからね、その分、私の要望も聞いてもらわなきゃ割りに合いません。」
山田さんは大きな乳をぶるんと揺らしながら、湯船から立ち上がると、「じゃあ準備してるから」と言い、先に風呂場を後にした。