表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

第2話

「実際に見なければ絶対に信じなかっただろうが……。見たからなぁ……マネキン……」

「ロリヤさんですよ」「ロリヤさんね。ハイハイ」

 次の日。学校から帰ってきた私を家の前で待っていたのは美十くんでした。よかった。まだ、見捨てられていないみたいです。

 言っていた通り、小学生時代の教科書をドカン! と持ってきて、机の上にズドン! と置きました。

 私が昨日の事を美十くんに説明し終えると、美十くんはウンウン唸って腕を組み、回転するイスで くるくる回っていました。惰性で回り終えると、美十くんはフウと息を吐きました。


「ありえねえええええええ!!」


 今度は叫びます。「思い当たる人は いないかなぁ。イギリス人かぁ」

「生まれ変わって またイギリス人とは限らないだろっ」

「あ、そっかぁ……」

「その、“感じる”というやつにしか頼れねえじゃん。俺らには、探しようがないねっ」

と、美十くんは まだしばらく興奮気味なようです。

 あぁ……。そうだね。そっかぁ。さすが秀才の美十くん。


「まったく……。ホレっ、人の事は いいから、お前の勉強っ。次のテストまでに、平均90点が目標!」

 げーーー……。

「そんな顔してねーーで、ホレっ。足し算 引き算 かけ算 割り算 ひっ算 暗算っ!」


 ペシペシ。

 ……美十くん、モノサシで私の頭を叩かないでください……。



 …………


 数日が過ぎました。もうすぐ二学期の期末テストです。すっかり秋らしく、野原が あればコオロギや鈴虫の気配を感じます。

 あれからずっと、ほぼ毎日くらい美十くんにシゴかれています。おかげで、中学生の頭に戻って来れた? ……はずです。

 今日も、これから お勉強会っ。


「楽しそうだよね、直、って。もしかしてさぁ……」「えっ?」

「ううーん。何でもない。頑張ってぇ〜〜!」

 教室からの出かけに、仲の良い友達が何やら不思議な事を言います。何なんでしょう??



 私は家への帰路を急ぎます。商店街を抜けて、道路の横の歩道を走ります。時々、自転車に ぶつかりそうになりながら……。

「あっ」


 歩道の対向側に、美十くんの姿が見えました。

 まだ、高校の制服のままです。でも…………。


「……? ……何で家と逆方向に歩いているんだろう? 家、あっちなのに……」

と、不思議に思って美十くんを目で追います。よく見ると。


 美十くんは、一人で歩いているわけではないのです。お連れさんがいました。

 髪が長いストレートヘアの、女の人です。美十くんの学校の制服を着ています。二人で、談笑して歩いています。


 美十くんが、楽しそうに笑っています……。あんな顔、初めて見ました。

 何だかショックです……まるで、美十くんが知らない人みたい……。


 私が下を向いて歩いていると、ドンと何かにぶつかりました。

 思わず、「ごめんなさ……」と言って前を見て、心臓が止まりそうな程 驚きました。


 なんと、ロリヤさんが突っ立っていたのです。青のワンピースと白い帽子を かぶって。


 私よりも何十センチも背の高いロリヤさん。もちろん、動きません。

「ど、どうしてここに……?」

 鳥肌が立ちました。変ですが、今さらロリヤさんを不気味に思えてしまったのです。

 エメラルドのロリヤさんの瞳が、何だか激しく燃えているような気がします。


 ……どうしよう……怖い……。

 助けて、美十くん……。


 私は走って家とは逆方向に逃げました。数十メートル走った後に後ろを振り返ると、ロリヤさんは静止していますが さっきの場所よりも こっちに近づいています!


 私を追いかけているんだ!!

 どうしよう!! 怖い!!


 逃げるしかありません。私は走り続けました。そして美十くんに助けを、と閃き、横断歩道を渡りかけました。

 しかし不覚です。

 私は、交差点を曲がってきたバイクに、衝突してしまったのです……。


 …………


 ……


 目が覚めると、病室でした。お母さんと美十くんが、私の顔を覗きこんでいました。

 どれくらい眠っていたのでしょう。辺りは静かすぎて、わかりません。

 そして体が動きません……。


「動くな。麻酔が まだ効いているんだろう。足と腕、骨折と打撲だし。大丈夫だよ。ここは病院だから。お前はバイクに当たって、ちょっと吹っ飛んだわけ。覚えてるか?」

と、横にいるらしい美十くんの声が教えてくれました。

「う、ん……」

 声が うまく発音できません。

「ああ良かった。まったく もう、心配かけて。信号は青でも、ちゃんと左右確認しなさいっ」

 お母さんが、泣きそうに怒っています。……ごめんなさい、お母さん。

「まさか勉強ノイローゼじゃあるまいな? 安心しろよ。しばらく勉強は お休み」


 ……いえ。ノイローゼで ないです。美十くん。


 その後、お医者さんが来て私の様子を うかがった後、入院などの手続きの説明をし終えて みんな去って行きました。ここに残ったのは、私と美十くんだけです。


「……で、聞くけど。ロリヤさんが、どうした?」

 美十くんがベッドの横に座り直して、私の顔を うかがいました。

「お前 運ばれる時に うわ言で言ってたんだってさ。ロリヤさんが来る……って。俺にしか分からない話だからな。たぶん おばさんに言っても信じてくれないだろーし。俺だって半信半疑の段階だ。お前の作り話かもしれないし」


 う……。私、嘘ついてないよぉ……。


「そんな悲しそうな顔すんな。一応、信じたいつもりの方なんだよ。例えば、お前が見せてくれたロリヤ直筆の手紙。確かに、お前の字とは筆跡が明らかに違いすぎる。美しい!」


 あうぅ……。すみません、字が汚くて。


「おかしな話だ。イギリスから来たと思っていたのだが、手紙が日本語だとは」


 え?


「どういう経緯で日本に渡ってきたのか知らないが、ロリヤは日本語も理解できるし、字も書ける、という事だ。……いや、ひょっとしたら、その おじいさんとか言っている老人……日本人だったのかもしれないな。だとしたら」

 腕組みをして、美十くんは考えを まとめます。

「その おじいさんの子孫が……日本にいるのかも。孫の所へ、って夢の話だけど、言っていたんだろう?」

 チラッと私を見ました。

 私は とても感心しきった目で美十くんを見ていました。すごいなぁ、さすが美十くん! そんな事まで分かるなんて!!


「ロリヤは必ず ここに来る」


 ぎくり。


「安心しろ。おばさんが、今日は ここに泊まるって言ってたから。側にはナースコールもあるわけで。俺も明日は学校に行く前と、授業が終わってから来るつもりだ。ちょっと調べものもしてくる」


 う、うん……。


「これを渡しておくから」

と、私の動かない手に握らせてくれたのは、赤い小さい きんちゃく袋。

「ただの お守り。気休めだけど」


 嬉しい……。ありがとう!


「あとアドバイス。もし、ロリヤに襲われそうになったら」

 ベッドから数歩、遠ざかって また私の方を振り返ります。

「とにかく、ロリヤから目を離すな。奴は……見ていると、動けないんだろう?」



《第3話へ続く》




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ