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第1話


 マヌカンともマネキンともいいます。

 ここでは過去と現代を分けたいために、両方を用いています。マヌカンの方が過去っぽいです(ただの作者的イメージ)。

 それでは、どうぞ。



 私は、おじいさんに作られたマヌカン。本当は、どこかから注文があって作られたのだけれど。結局それは、必要なくなってしまった。

 おじいさんと私は、この くたびれた店『シャルローズ』で細々と暮らしている。

 おじいさんは骨董品などを引き取ったり売ったりしながら、好きな人形や洋服を作ったりしている。

 私は そんな おじいさんを毎日 見守っているの。名前はロリヤ。

 ああ今日も良い お天気ね おじいさん。


 決して声は出ないし心も通じないけど、私は好きよ おじいさんの事が。

 今日という日も一緒に ずっと過ごしましょう。


「ロリヤ。よく お聞き。重要な事だからね」


 え? ……どうしたの急に……おじいさん。


 おじいさんは私の前に ただ立って、私のエメラルドの瞳を見つめる。とても、憂いを帯びた懐かしいような、温かな瞳。私は あなたの瞳が大好きよ。

「私は孫の家に行く。……店を、たたむつもりだ。しかし、ここの骨董品たちが残る。引き取ってくれる相手が見つかったから、そちらに全て引き取ってもらうつもりだ」

 おじいさんが真剣な顔で淡々と説明してくれた。それが、とっても悲しかった。


「お前は」


 そして残酷な一言を。


「火にかけて、処分する」


 私に言った。


「許してくれ」


 許さない。


 許さないわ。くやしいわ。涙も出ないのね。


「ちゃんと お祓いをして焼いてもらう。ロリヤ、分かってくれ。危険で、とても怖いんだ。人形が、魂を持つだなんて……」


 さようなら、おじいさん。



 おじいさん。おじいさん。おじいさん……。

 おじいさーーーーーーーーーーーーん!!


「お前はハ○ジか? ここはアルプスじゃないぞ」


 パコッ。

 缶ペンケースで、頭を叩かれました。


 浅木(あさぎ) (なお)。中学二年生で、ゲーム大好き人間です。髪はショートでバトミントン部。おてんば娘だと、母親は いつも言っています。

「さて。勉強勉強。今度 居眠りしたら、スクワット百回な」

 机で居眠りしていた私を起こしたのは、隣の家の高校生、鎌井寺(かまいでら) 美十(みと)。男です。物知りで、頭の中に辞書が入っています。時々アホみたいにチョコを食べますが、鼻血を出したのを見た事は今まで三回くらいしか無いです。トランプの方の『ブラックジャック』部に所属しているようです。

「人の事は いいから、先へ進め」


 わかりました。ええと……。

 私、浅木 直は先日、なんと学校のテストで0点を とってしまいました。名前の書き忘れとか、解答欄に書いた解答が一段ずつズレていたとか、そんな可愛いもんでないです。全力投球で、全てホームランを打たれてしまったようなものです。

「なんで15割る3が30で増えるんだ。ダメだ。お前のレベルに ついていけない」

 さっそく、美十くんにサジを投げられてしまいました。

「底抜けのアホ」

 そして、そのサジは私に刺さりました。ぐさっ。


 美十くんは昨日から、私に夕方以降こうして勉強を見てくれています。母親が本当に美十くんに すがって お願いしたようです。どうかウチの娘を お救いください、アーメン、と。

「仕方ない……小学生に戻ろう。小学生の教科書って、捨てずに とってあるか? 今すぐ出せるか?」

と、美十くんがヤレヤレとタメ息交じりに聞きました。

「あるよ。押入れに……たぶん」

 私は押入れを勢いよく開けます。すると。


「ぎゃあああああああああああああッッッ!! ☆▲◎↑→□▼!?」


 ……醜い声を上げたのは、驚いた美十くんです。

 あれ?

 私はキョトンと、押入れの中のソレを見つめました。


 真っ裸のマネキンが一体。しかも上段で こちらを向いて正座しています。


 足が曲がるんだ? このマネキン……。

「何でマネキンが ここにいるんだろう……?」

と、私は首を傾げました。振り返ると、美十くんが いません。


 あ、いた……。ドアの向こうに避難して隙間から、私たちを見ています。

「何でいるんだよっ、そんなもんがっ」

 叫んでいます。非常に怯えています。困ったな。このままじゃ、教科書が探せない……。

「ちょっと どいてくれませんか? 探したいものがあって……」

 とりあえず、マネキンに頼んでみました。でもやっぱり無反応。当たり前か……。


「どうしよう。美十くん。重そうだから、一人じゃどかせられないよ。手伝って」

「もういい! 明日、俺の教科書 持ってくるから! 俺を からかうのもいい加減にしろ! 今日は もう帰る!!」

と、とっとと荷物を まとめて美十くんは帰ってしまいました。


 ……別に からかってなんかいないのに……。


 私がシュンとしていると、ガタッと音が思いもよらぬ方向でしました。私の机。「あれ?」


 私の机に向かって、何かを まるで「書いている」ポーズで静止しています。一体いつの間に押入れからの移動を? ……


 私が机の上を覗き込むと、字が書いてありました。


『私はロリヤ。意志を持っています』


と、一文。私はパチクリ? として、「……はあ? そうなんですか……」と、(くう)を見上げます。

 あれ? ロリヤって、さっき夢の中で……。

 そして再び視線を紙の上に戻すと。続きが書き足されていました。でも体はピタッと停止しています。


『おじいさんを探しているのです』


 おじいさん……。さっきの夢の あなたを燃やすと言っていた、その おじいさん?


 試しに、後ろを向いて ある程度の時間を置いた後、再度 紙の上に視線を向けると。

 やっぱり続きが どんどこ書き足されていっていました。間違いない。まるで「だるまさんが転んだ」です。私の見ていない所で、このロリヤさんは「動いて」いるのです。


 結局、ロリヤさんは以下のように書いていきました。


『私を火あぶりにして燃やした、あんのクソジジイを恨んでいます。といっても、昔の事で、しかもイギリス。もう生きていないでしょう……。ならば……。生まれ変わった おじいさんを見つけ出し、同じ目に合わせてやるわ。


 火 を つ け て 、 燃 や し て や る っ ! ! … … 』


 ……最後だけは、殴り書きでした。すごい執念です。うわぁ……。


「でも どうやって? 手がかりは、あるんですか??」

と、私はロリヤさんに聞きました。 シーーーン……。


 あ、そうね。見てたら動けないんでしたね。

 私はポリポリと頭を かきながら、そっと部屋を出ました。「トイレ、行ってくる」

 そして戻ってきてみると、ロリヤさんの姿は消えていました。もちろん、押入れの中も。家の中のどこにも。探してみたけど、見当たりませんでした。


 一体、どこに消えてしまったのでしょう……。


 残ったのは、一通の置き手紙だけ。また、机の上に置いてあったのですが……。


『ここの周辺に魂の気配を感じる。探してみせるわ』


 ……ここの周辺に。逃げてください、おじいさん。



《第2話へ続く》




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