~語る語る一人で語る~
雑学って、素敵。
その日の放課後、わたしは板書の終えたノートを持って考えていた。
今日会田くんが登校していたってことは、わたしのノートをコピーする必要ないのかな?でも、授業中に部屋に会田くんはいたかな?
クラスメイトのことなのだから、いるかいないかくらいはわかるだろうとか思われるかもしれないが、わたしの席は窓側の一番前で、振り返らないとクラス全体は見えない。
廊下側なら、人の出入りとかが見えたりもするんだけどね。まぁ、でも、イケメンくんが授業に出ていたなら女の子が騒ぐような気もするし、いなかったのかなぁ。
わたしが自分の机でそんなことを考えていると、担任の先生がわたしのところにきた。
「高山、ほい。頼むなー。」
印刷室の鍵を渡された。
えぇと、つまり今日もノートは必要なのですね。そして、イケメンくんは教室にはいなかった・・・のかな。
そんなわけで、今日も印刷室でコピーをしてから図書室に向かった。いつもの席に向かおうとすると、先客がいたので別の場所にしようとする。
「高山さん、ここに座るんじゃないの?」
名前を呼ばれたので、わたしのいつもの席にいた先客の顔を見ると、会田くんだった。なぜ、窓際のイケメンくんがそこに座っているのかな?
不思議に思うわたしをよそに、会田くんは自分の隣の席の椅子を引いて待っている。
そっちに行かなきゃ、ダメですか・・・?
わたしが動かずにいると、また名前を呼ばれた。・・・仕方ない。
わたしはなぜか会田くんの隣の席に座ることになった。
どうして、隣なのですかね。向かいの席でもいいんじゃないですかね。でも、椅子を引いてもらっているのに座らないとか、失礼だよねぇ。
「あー、ありがとう。……あぁ、そうだ。今日のノートを渡しておくね。ねぇ、どうして学校に来ているのに、授業にいないの?……あ、いなかった……よね?」
「あ、うん。いなかったよ…。今日は朝から学校には来たんだけど、教室にはちょっと、ね……。」
「へぇ~。」
見た感じ華奢な感じだから、昔のリーナ嬢のように体が強くないのかな。
「昔から、体が強くなくてね。あと、人に酔いやすい。」
「そうなんだ。三半規管が弱いんだね。」
「人に酔うのも、三半規管が関係してるの…?乗り物酔いの時だけかと思ってた。」
「人がいっぱいいると、乗り物に乗って動いているような感覚と似た状態になるらしいって、どこかで読んだことがあるよ。」
わたしがそう答えると、感心したように目を丸くして瞬きしていた。
「ふふっ…シーユンの話を聞いたリーナ嬢も同じような顔していたなぁ……。」
夢でみたことのあるエヴェリーナの顔を思い出して、面白くなって笑ってしまったのだが、会田くんがむっとしたのか顔をそらしてしまったので、すぐに笑うのをやめた。
シーユンの話をしても大丈夫だと思うと、つい口が滑ってしまう。そういえば、会田くんはどういう感じで夢を見ているのだろう?
「笑ってごめんね?わたしはシーユンの体に入り込んだみたいに、エヴェリーナさんの姿をいつも見ているの。
ほら、シーユンってばエヴェリーナさん大好きでしょ?エヴェリーナさんと一緒にいるときは、彼女の姿ばかり目で追っているの。もう、そのおかげで彼女の姿がわたしの目にも焼き付いていけないわ。ねぇ、会田くんはどういう風に夢を見ているの?」
「僕も、そうだね。彼女の……目線だね。」
「そっかぁ。わたし、彼女の美貌のせいで美人を見慣れてしまってさ。芸能人とか見てもあぁエヴェリーナさんの方が断然美人だなぁって思っちゃうのよね。」
彼女はとても美人だから、もしこちらにいたらかなりモテるんだろうなぁ。そして、アイドルにスカウトとかされていそう・・・。
そう思った後に、ちらり会田くんを見て思う。
「そうか…、会田くんみたいな感じなのか。」
小さい声だったけど、聞こえたようで会田くんが首をかしげてこちらを見ていたので、思ったことを伝える。
「えぇと。エヴェリーナさんがこの学校にいたら、モテモテなんだろうなぁって思ったんだ。それでさ、会田くんもかっこいいでしょ。きっと会田くんみたいな感じになるのかなぁと。男版エヴェリーナさん、みたいな。
あぁ、でもエヴェリーナさんのように決まった人はいないのならば、更にモッテモテだね!」
わたしが笑いを含んでそういうと、なぜか神妙な顔つきになっていた。
「高山さんは、エヴェリーナは好き?」
「好きですよ。努力家なところが。」
会田くんは不思議そうな顔をしている。エヴェリーナさんが努力家っていう認識はなかったみたいだ。
「エヴェリーナさんは小さい頃は病気がちだったでしょう?でも、意外と行動派なシーユンの側にいるために、体を強くするよう努力していた。そんなところが好感を持てます。
あと、美人さんでいろんな人から好意を寄せられるけど、シーユン一筋なところとか。一途で、健気で、守ってあげたい感じ。
わたしが男だったら、やっぱりそんなところを好きになっちゃう気がします。」
わたしがリーナ嬢の良さを大いに語っているのを、会田くんは真剣な表情で聞いていた。そんな真面目な顔で聞くような話だろうか・・・?
それにしても、わたしばかりが語っている気がする。まぁ、わたしが二人について語りたかったのもあるけど。会田くんは聞き上手なのだね。
「…えぇと、あーそうだ。会田くん。人に酔うって言っていたけど、もしかして乗り物酔いとかも酷い方だったりするんじゃない?」
わたしばかりが語るのもおかしいので、少し会田くんの話を引き出してみようとするが、言葉少なく うん と答えるだけだった。
何のためにいつも窓際に座っていたのに、わたしがいつも座っているところに座っていて、隣を勧めてきてきたのだろう?用事があったわけではないのかなぁ・・・。
「乗り物酔いは三半規管や内臓が弱い人がなりやすいとも聞きます。
三半規管を強くするには、日ごろから前回りみたいなマット運動を毎日行う。内臓については、腹筋や背筋を鍛えるのが良いとか…。
あー、腹筋と背筋はどちらかが強すぎても、肩凝りとかになっちゃうらしいのでバランスよくするのがいいかもしれませんね。
あとは、乗り物に短い距離から慣らしていくものいいかも。酔いそうになったら自分に痛みを与えることで、不快が和らいだりするみたい。」
会田くんはうんうんと頷いて聞くばかりで、話し出そうとはしない。
なんだろう、なんでわたしは知り合って間もない相手に対して、こんなに語らなければならないんだろう?うーん、そうだ。もうノートのコピーも渡したことだし、帰ろう。今日は家に寄る必要もないし、癒しを求めて川側を走って帰ろう。
「……あ、そうだ。今日はそろそろ帰らないと……。」
わたしがそう言うと、会田くんは自分の腕時計を見て怪訝そうな顔つきをする。
いつもより早い時間にわたしが席を立とうとしていることを不思議に思っているとか・・・!?
いや、わたしがいつも何時に図書室を出るかなんて知っているはずないよね・・・。今さら、お母さんに買い物を頼まれているとか嘘つくのもわざとらしいし・・・。
そんな思いにふけっていると、会田くんが席を立っていた。
「送るよ。」
うまいこと文章(物語)を切れなかったので、微妙な位置で終わってしまった・・・。
清凪のエヴェリーナに対しての呼び名。
一人で考えたりするときには、夢の中でシーユンが使う愛称を使っています。でも、呼び捨てにする気にならないので、『嬢』をつけてます。
でも、他の人に話すときはフルネームを言うようにしています。
エヴェリーナの愛称はリーナ。
普段は「シーユン♡」「リーナ♡」って、呼びあってるんですね…。