~発覚~
生徒指導室って意外ときれいにしてありますよね。
昼休みになり先生に言われた部屋である生徒指導室に向かった。
生徒指導室。わたしは一切お世話になったこともない部屋だ。目立つ行動も恰好もしないし、そんな持ち物も持っていないから・・・。
なぜ生徒指導室かといえば、わたしの担任が生徒指導の先生だから自由に使いやすいというだけだったのだと思うが、この場所はあまり生徒が来たがる場所ではないとわたしは思う。
なぜ、普通に空き教室とかにしてくれなかったんでしょうね、先生。デリカシーがありませんよ!
初めての生徒指導室・・・。気持ちを落ち着けるため、一度息を大きく吸って、吐いてから うん、と頷いてキッとドアを見つめてからドアをノックする。
トントンッ
返事があり、気の抜けるような声で「はいれ~」という担任の声が聞こえたので、わたしは部屋の中に入った。
部屋の中には返事をした担任の先生。それと、どこかで見たようなイケメンくん。
わたしは先生に向かって「しつれいします」と断ってから、イケメンくんに会釈をする。
少し考えてから思い出す。
そうか、図書室のイケメンくんだ。
わたしが部屋に入ってきたことで、先生は腕時計を気にしながらわたしたちの簡単すぎる紹介をした。
「会田、彼女が君にノートを見せてくれていた人だ。高山、彼が君のクラスメイトの一人だ。うん、ということで、先生は用事があるので二人であとは話をするといい。じゃあな~。」
生徒指導の先生は忙しいらしく、クラスのことは2の次3の次らしい。受験生である3年生になって担任があの先生だったら嫌だな・・・と考えていると、会田くんが口を開いた。
「はじめまして…ではないけど、どうも会田悠貴です。ノートとても助かりました。テスト勉強の参考にもなって、読みやすいノートを毎日届けてくれてありがとう。」
会田くんは丁寧な口調でそう告げた。わたしは嫌な予感が当たらなかったことにホッとしながら、返事をする。
「高山清凪です。いえ、気にしないでください。ただ、あの担任の先生に頼まれたことを実行していただけですし。会田くんのお母様にも何度も申し上げましたけど、帰り道に会田くんのうちがあったので、特に気にされることはないですよ。要件はそれだけですかね?わたし少し探すものがあるので、これで失礼しますね。」
これをきっかけに、イケメンくんと仲良くとか考えもしません。わたしの好みは飽くまでも地味でも、平凡な顔立ちでもいい、頼りがいがあって守ってくれそうで、側にいたら安心できるような男性なので。学校にもなかなか来られないような頼りがいのなさそうで、逆に守ってあげなきゃいけなさそうな儚げな男子に興味はないのです。だいたい、イケメンっていったらモテモテすぎて心配で安心なんて一切できないじゃないですか。
そんな考えを顔に出さないようにしながら、わたしが部屋を出て行こうとするとなぜか止められた。
「ねぇ、これ…君が描いたの?」
かいた?ノートのことならわたしが書いたものだけど、と思いながら会田くんの方を振り返ると。
「ふぇっ!?」
変な声が出た。それほど驚いてしまった。嫌な予感が当たってしまったのか・・・。あの絵のコピーは会田くんに渡したクリアファイルに入れたままだったんだ・・・。
急いで会田くんの側に行って、コピーをひったくるようにして返してもらう。
「落書きです。気にしないで下さい。気にしたら負けです!」
あまりにも驚いて自分でもよくわからないことを言って、とりあえず探し物は見つかったと思いながら生徒指導室から逃げようとする。三十六計逃げるに如かずなのです。
相手は学校にもなかなか来られないような病弱男子、きっと逃げ切れる!
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「…って、思ったのに。」
わたしは自分の右腕を見ないように左手に持った仲睦まじく微笑み合っている恋人同士の絵を見る。
「どう思ったのか知らないけどさ?」
会田くんは少し困ったような顔をしながらも、左腕でわたしの右腕をつかまえていた。
「それで?この絵について、何を暴きたいんですか?」
漫研部にも美術部にも入るわけでもなく、一人でニマニマと図書室で絵を描いている変な女子生徒、というのを誰に知らせるの。
変な噂が流れて目立ちたくなんてない。少し涙目になっている気がする。
「それって、シーユンとエヴェリーナ…?」
会田くんが涙目になったわたしに怯みつつも、そんな言葉をわたしにぶつけてきた。
「そう、シーユンと、リーナ嬢の……え?」
今、会田くんからなんか衝撃的な言葉が出てこなかった?
シーユンとエヴェリーナ・・・?
「え?シーユンとエヴェリーナ…って?」
わたしにとっては日常的に夢の中で聞く名詞ではあるけども、会田くんから聞こえてくるにはとても違和感がある名詞である。
わたしが訝しむようにそう言ったので、会田くんは言いづらそうに顔をそむけたが、それでも言葉をつづけた。
「あー、し、知っている人?で、だけど、会ったことは無くて……。でも、その二人のことはものすごくよく知っていて、あーでも、2人は僕のことは知らないわけで…うー…。」
言葉にすると、まさに「しどろもどろ」ってこういうことなんだろうなぁと思った。わたしも、夢で知っている二人のことをそんなバカげた空想と一笑に付されるに違いないとわかっていることを伝えるとこうなるんだろうなと。
言葉のキャッチボールって、難しいよね。と思いつつ、わたしは会田くんに暴投を投げつけた。
「つまり、夢でシーユンとリーナ嬢のことをみているから、よく知っている。でも、自分が見ている夢の中のことなのに、その二人に見える絵を描いている人がいてもしかするとこの人も夢見ているんじゃないのか?と思っているわけですね?あ、そうそう。エヴェリーナさんのこと、つい愛称のほうで呼んじゃうのですけど、気にしないでくださいね。」
わたしが笑顔も浮かべず、真面目な顔でそう言うと会田くんの顔も真面目な顔になっていた。
「そ、れ……は、えぇと、高山…さん…も、見ているの?」
「……も、か。会田くんは見ているのか。あぁ、ごめんなさい。誤解を生む言い方でした。わたしは二人の夢を見ていますよ。」
同じように夢で二人のことを知っている人がいるなんて思いもしなかった。
わたしにとっては、幼少期からずっと二人を夢で見ていたので他人のような気はしないけど、家族や友だちに言うと「夢見がちな子だね」と言われていた。小学校に入るころには人には絶対に言わずに、夢日記という名の二人のラブラブ記録を毎朝の日課としていた。
思春期の女の子同士の会話にありがちな『好きな男子のタイプ』や『好きな仕草』を語る時には、シーユンのことを持ち出してはいた。わたしが好みのタイプを詳細に語るので、友だちはわたしには好きな人がいると思っているらしい。
「えっと、じゃあ、もしかして……」
キーンコーンカーンコーン
午後の授業の予鈴だ。
「え、嘘。……ご飯食べてないのに……。」
ご飯も食べずに教室を出てきてしまったので、ずっと話をしていた昼休みになってしまった。午後の授業なんて受けたら、お腹の虫が大変なことになる。
「じゃあ、会田くん。わたしは急いでご飯を食べないといけないから、これでしつれいします。」
わたしは右手に持ったままだった紙を折りたたんでポケットに入れると、早歩きで教室に帰ってお弁当を食べた。残念ながら、全部をお腹に収めることはできなかった・・・。
・・・お腹が鳴りませんように・・・!
不安に苛まれていた清凪さんは、昼ごはんものどを通らず、心臓バクバクで生徒指導室です。
地味に過ごす(一見)真面目女子の清凪さんは生徒指導室なんて、来るところじゃないのです。