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46〜また会う日まで




「後は、あんた次第よ。せいぜい頑張ることね」



「あぁ!……今度こそ、間違えない」



「そうね、間違えちゃダメよ」



今度は初めから、男だとわかっていて好きだとフォルスは言っているのだ。

それは決して楽な道ではなく、しかも相手はあのマオヤ。

苦笑いしか出てこないが、それでも特に反対しないのは横柄な態度は微塵も見せず、真剣な態度と言葉で筋を通してきたからだ。

国王夫妻はしばらくは黙っていたが、ハッと正気に戻ると自分たちの元に戻ってきたフォルスに、慌てて事情を詳しく聞いていた。

……すると次は、アルベルティーナがアレスに横抱きにされ、ディーヴァたちの前にやってくる。

どこか恥ずかしそうな、照れているような表情にディーヴァは嫌な予感がした。



「あ、の……ファーレス様。お聞きしたいことが、ございまして……」



「何か?」



モゴモゴした話し方を、マオヤはとても嫌う。

アルベルティーナの話し方は典型的なソレで、だが体力が戻っていないから力の無い話し方しか出来ないことはわかっていた。

だから待った。

マオヤにしては、とても長く待てた方だと思う。

アルベルティーナも気を使うタチなので、早く話そうと頑張って口を動かした。



「あなたは、ご存じ……ありませんか?赤い髪に、くせ毛で……金の瞳の、『殿方』を……ご存じありませんか……?」



赤い髪、金の瞳の男。

その特徴を聞いて、カダルだけでなくマオヤも瞬時に気がついた。

アレスもなんとなしにそれが誰のことを指しているのか、わかっているようだった。

わからないのは、事情を知らないヴォルフだけ。

性能の良すぎる耳を持っていても、話の内容がわからなければ、宝の持ち腐れでしかないのが残念だ。

……多数の思いが交差する中で、マオヤとカダルは同時に一人の『女』に視線を向ける。

二人の男から一身に強烈とも言える視線を浴びた当の本人は、さすがに冷や汗を流していた。



「その者がいかがしたのです?」



あくまでも冷静に、なおかつ怒りの感情を微塵も感じさせない微笑みを持ってアルベルティーナに質問で返した。

いろいろ問いただすのは後だ、と言わんばかりに目だけをギロッと動かす。

だが相手はどこ吹く風の如し。

そっぽを向いて無視を決め込んだ。



「命の、恩人なのです……ちゃんと、御礼を言いたい……話をしたい、ただ――――会いたい……っ、あの人に会いたいのです……!!」



また、夢の中と同じように涙を流す。

今度は太陽の光の下で涙を流しているので、キラキラと輝く珠の如く存在を主張していた。

――――つまりは、泣いている顔が前よりハッキリ見えてしまって、余計に罪悪感が募るのだ。



「……人のことを、とやかく言えた義理じゃねぇよなぁ……?」



地を這うような声音だった。

いっそ化け物や幽霊の顔を見た方がマシと言えるような、おどろおどろしい表情を見せたマオヤ。

カダルも表情こそ見えないが、周りの空気が急激に冷たくなっていく。

そんな二人が間近にいて、ディーヴァだけでなくヴォルフも背筋に悪寒をひどく感じる。

もはや笑いも出ない。

この修羅場をどう切り抜けるか、それが問題だった。



「ご安心を、王女様」



何を安心しろというのか。

急に話しかけたディーヴァに、事情を知る全員が怪訝そうな顔をする。

そしておもむろに、アルベルティーナの手を包み込むようにして軽く握ると、優しい声でこう言った。



「あなたがお捜しの者は、このファーレス殿が知っておられますよ」



「まことですか!?」



――――いや、知ってはいるがそれを暴露してもいいのか?

そう目で問いかければ、マオヤにしか見えないように口元に人差し指を持っていく。

……マオヤは不覚にも、その仕草に胸が高鳴ってしまった。



「ですが彼は多忙の身、あなたを目覚めさせた後すぐに別の国へと旅立ちました」



「……そうでしたか」



見るからにシュン、と落ち込んでしまったアルベルティーナにディーヴァは続きを話した。



「しかし、ご心配には及びません。このファーレス殿宛てに手紙を送れば、王女様がお捜しの殿方にきっと手紙が届くことでしょう」



嘘くさい笑顔で、ディーヴァはそう言いのけた。

フォルスのことで手一杯だというのに、その上アルベルティーナのことまで言われても!!……と、言葉にしたかったが、ディーヴァに片手で口を塞がれカダルに羽交い締めされてしまい、言いたくても言えない状況に追い込まれてしまった。



「ファーレス殿も、是非そうすればいいと申しております。王女様の憂いが晴れて、喜ばしいことですわ」



本当に嬉しそうに、アルベルティーナは笑う。

体力も気力も衰え、これからまた元気になる為には生きがいが必要だ。

無理をしない程度に、好きな人に手紙を書いて送る行為は……きっと、アルベルティーナに力を与える。



「健やかに、お過ごしください。……あなたが会いたいと望んだあの者も、そう望んでいることでしょう」



手に取ったままのアルベルティーナの手の甲に、親愛の口付けを落とした。

そして次に、アルベルティーナの腕の中にピンクの薔薇の花束が落とされる。

それも大きな花束で、アルベルティーナが受け取った衝撃で花びらがこぼれ落ちたが、ヒラヒラと落ちる花びらが足元に降り注ぎ……ピンクの絨毯のように花びらが広がった。

それでも、まだまだ花はたくさん残っている。

かすかに香る薔薇の薫りに、思わず酔いしれていると……



「ディーンから、あなたに。目覚めたお祝いよ、受け取ってあげて」



「ディーン様っ……」



愛らしく頬を染め、花束に顔を埋めるアルベルティーナ。

そんな様子に、ディーヴァが満足そうに微笑んでいると……背後から痛いほどの鋭い視線が、また感じ取られた。

相手は女の子なのだから、勘弁してほしいと言いたい。

だが、どんなに言っても“ズルイ”だの“贔屓”だの言ってごねるに決まっていた。

そんな時は無視するに限る。

そして、アルベルティーナをフォルスに預けて腕の中が空になったアレスに、ディーヴァはある物を投げつけた。



「アレス」



「なん……っ?!」



それは、永遠に解放など赦されない……無限地獄への招待状。

大輪の、深紅の薔薇の花束。

アレスは花びらまみれになりながらも、しっかり花束を受け取った。



「あたしが言ったこと、覚えている?」



それは、海辺で逢瀬を重ねていた時のことだ。



『あたしを好きになっちゃったら…………可哀想、お気の毒……って、花束贈って祝ってあげる。あたしを忘れない限り、この世の地獄と一生付き合っていくことになるんだから。――――引き返すなら、今のうちよ』



逃げることを拒否したのは、他ならぬアレス自身だ。

ディーヴァを好きになってしまって、向き合うと決めた。



「ああは言ったけれど……逃げてもいいわ、いつでもね」



「逃げない」



もう、己の全てから逃げないと他ならぬ自分自身と、ディーヴァに誓ったのだ。



「髪飾り、大切にするわ。だからアレスもそのバックル、大切に扱いなさいよ?」



「あぁ。……お前が一目置くような、立派な国王になる。その時になったら、また来てくれ」



「おじいさんになるまであたしが来なかったら、どうする?」



「どんな手を使っても捜しだして、会ってやるさ。お前と少ない間だが共に過ごしたおかげで、かなり強気になれたからな」



「ふふっ、そのようね。……いい心がけよ」



待機させていたロアーの元にまで歩いて行き、全員が騎乗したのを確認するとロアーの体が浮上し始める。

大きな風が起こり、足で踏ん張りながらディーヴァたちを見送った。



「必ず!また近い内にこの国に来てくれ!!きっとだぞ!?」



「えぇ!来てあげるわよ、必ずね!」



「マオヤーーーっ!!」



フォルスが下からマオヤの名前を叫び、それを聞いた途端に嫌そうに眉をしかめたが、仕方なく遥か下にいるフォルスを見た。



「体に気をつけて、息災に過ごせ!また会おう!!」



……らしくなく、マトモなことを言うフォルスに驚き……これが現実か確かめたかったが、フォルスの姿はどんどん小さくなっていく。

完全に見えなくなる前に、マオヤは大声で叫んだ。



「そちらも!お元気で!!」



「またねー!!」



空高く飛び上がり、フィトラッカ国から遠く離れて行く。

遠く、遠くへ。

風を切って、前へと進む。

楽しかった思い出も、まどろんだ思い出も……哀しい思い出も味わった、フィトラッカ国をディーヴァたちは後にした。

もう一度、再会することを約束して。

肌を焼く暑さが支配する国から、新たに涼やかな風を感じた。












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