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「なら会いに行ってあげて……誉めてあげないとね。あたし、アレスに会いに行ってくるわ。一人で」



「「絶対にダメ(だ)です!!!」」



声を揃えて止められてしまった。

意外に仲が良いのではないだろうか?

そう指摘すると、それはないとまた声を揃えて返してきた。

やはり息が合っている。



「なんでディーヴァだけで行くんだよ!どこにも必要性が感じられねぇ!!」



「複数人で会いに行ったら目立っちゃって仕方がないでしょう?あたし一人なら、そんなに目立たないと思うし」



「そんな見た目で目立たないつもりなのかっ!?」



現地の人間となんら変わらない外見の特徴をしているディーヴァだが、それでも元々の美貌まで変わっているわけではない。

人目を惹き、視線を集め、注目されるような姿形すがたかたちをしているのだ。

王宮内を歩けば、必ずしも注目を浴びる。

そして、どこに向かって歩いているのかすぐに知られてしまう。

それはとても、非常に、かなりまずかった。



「アレスの体に呪いの副作用が作用しているかもしれないから、様子を見てくるだけよ。まぁ君はアルベルティーナについていた方がいいだろうし、カダルはこのリストのお土産を今日の夕方までに買ってきてもらわないといけないし?お互いにやるべきことをやればいいと思うのよ」



ピラピラと見せる紙切れには、先程言っていたフィトラッカの特産品のお土産リストがずらっと書かれていた。

それこそ今は優先させるべきではない事柄であって、やはりディーヴァの側から離れるわけにはいかない。

そう進言するのだが、どこ吹く風の如く。



「あたしが信じられない?」



「そういう訳では……」



「信じられねぇ」



マオヤは一刀両断の元に切り捨てる。

その切れ味が鋭すぎて、ディーヴァはわざとらしく嘆いてみせた。



「まぁ君ひどい!そんなにハッキリ言わなくても……」



ディーヴァの目尻に涙が浮かぶ。

女の涙には弱いのだが、今回ばかりは引き下がるわけにはいかない。

王族とのスキャンダル。

それを引き起こすことだけは、断じて避けなければならなかった。



「アンタ、第一王子と何かあっただろ?」



「え〜?そんな〜……特別なことは何も」



「白々しいんだよ……っ!手を出したのか?そうなんだなっ!?」



肩を強引に掴み、強く揺さぶるがそれでもディーヴァは楽しげな顔を崩さない。

マオヤをからかうのが楽しいのだろう。

上手くはぐらかし、嘘を言わなければ真実ほんとうも言わない。

実にいい性格をしている。



「あたしからは何もしていないわよ」



「アンタの手口は分かってる、だからこれ以上の弁明はいらねぇ!!」



「そんな!ちゃんと平等に被告側にも発言の権利を与えないと、裁判として成り立たないじゃない〜!!」



「罪を犯してる意識があるのかよ?!アンタ……本当に救いようがねぇな!?」



「お誉めに預かり光栄の至り」



「誉めてねぇっ……!!」



ガックリとその場にくずおれ、項垂れるマオヤ。

ディーヴァの相手をして疲れたのだろう、呼吸も荒く疲れが顔ににじみ出ていた。

そんなマオヤに、あくまでも冷静に声をかけ会いに行く理由の捕捉を話始める。



「本当に様子を見るだけだし、調子が悪そうだったら正常に整えてあげるだけ!きっと今頃、起きられないほど辛くなってるだろうし……」



可哀想ー、とか。

なんとかしてあげたいなー、とか……あからさまに口に出して、非難の目を二人に向ける。



「まぁ君がどうにか出来る?それならあたしはわざわざ行かなくてすむけれど……」



「……俺にはそういった特殊な力はないんだ、知ってるだろ?」



「あたしから巣立った後にでも、一生懸命頑張ってたんじゃないかなーって思って」



ニヤリと笑いながら、嫌味を言う。

解呪や回復・癒し系は不得手なことを知っているくせに、ネチネチネチネチ心理面で攻めてくるところは昔と変わらず、意地が悪い。

そんなマオヤを放っておいて、カダルにしなだれかかりながら告げた。



「……じゃあ、まぁ君どころかカダルもアレスに何も出来ないんだから、あたしが行っても問題ないわね?お互い、やるべきことをやる方向で」



何も出来ないと、ディーヴァの口からハッキリ言われ多少心に傷を作る。

二人は揃って暗くなるが、それもすぐに終了する。

全く何も出来ないわけではないということに気づいたので、意外と回復は早かった。



「仕方がありませんので、ここはディーヴァの言う通りにいたしましょう」



「仕方がない、が!何も騒動や問題を起こすなよ……!?」



「大丈夫、まぁ君が胃を痛くするようなことなんて何もしないわよ〜!……夕方には一度この部屋に集まって、お互いに報告し合いましょう。では全員、行動開始!!」



半ば部屋から追い出すように二人と別れ、ひどく楽しげな様子でアレスの存在を感知しながら、ディーヴァも部屋を出ていった。


 ――――大理石の床を軽快に歩きながら、それとは裏腹に無表情でアレスの部屋を目指す。

王宮の最奥の辺り、静かな場所にアレスの部屋はあった。

なるべく音を立たせずに扉を開き、ベットで眠っているアレスの姿を遠目から確認した。

足音を消して、ベットまで忍び寄る。

……顔を覗きこめば、呼吸をしているのも怪しいほど寝息は静かだ。

天蓋のせいで影ができ、そのせいで余計に顔色が悪く見える。

髪をかき分けながら、額や頬を優しく撫でた。

すると、アレスはゆっくりと目を開けた。



「ディー……ヴァ、か?」



「辛そうね、大丈夫?」



「あまり……」



「そうでしょうね、今のあなたは呪いの通り道に利用されているから……副作用が働いて、肉体が負けちゃっているのよ」



「……よく、わからないが……俺は、どうなるんだ?」



「このままじゃ、力を受けきれずに肉体が死んじゃうわね。でも大丈夫、今なんとか肉体を維持出来るようにしているから……」



手を握られ、温かさが体全体を包む。

石のように固く冷たくなった体に、体温が戻ってくる。

そうすればようやく、まともに呼吸が出来た。



「少しは楽になった?」



「あぁ……助かった、感謝する」



気だるげではあるが起き上がり、笑顔でディーヴァに返答出来るだけ幾分か元気になったようだ。

そのことに安堵し、そのまま部屋から出て行こうとした。

――――――だが、



「っつ!?」



いきなり腕を捕まれ、ベットに引き戻されてしまった。

勢いあまって、ベットの上に寝そべってしまう。

ディーヴァの上に覆い被さるようにして、アレスが顔を覗きこんできた。



「いきなり何よ」



「行くな!」



「なんで?……って、どきなさいよ!」



アレスが、至近距離に迫ってくる。

近づくにつれ、分け与えた温もりがじんわりと伝わってきた。

……人の体温が心地いい……。

鼻腔にたくさんアレスの匂いが入りこんできた。

男の汗の匂い。

アレスの体臭。

……そのことを深く考えているという事実が、ディーヴァの恥ずかしさを募らせた。



「離れてよ……」



――――心が、解放されているのかもしれない。

ずっと昔、いらないモノとしてしまいこんだ恋をしたいという気持ち。

異性を、愛したいという心。

……誰か一人に心を渡してしまったら、またそれを許してしまったら。

余計な混乱を招くという理由で、ちょっと好きかなー?っと思った男も、なんとなく踏み込めずにいつの間にか時が過ぎていた。


この異世界にやって来て、意志の疎通が叶う生き物が生まれた頃とかならともかく。

何千年も経った今、この時に!

一体、何が起こったというんだ!!

ディーヴァはアレスに心の内を悟られないよう、必死に動揺を隠そうとする。


 ――――――好き、じゃない。

この男のことは、好きなんかじゃない。

違う、チガウ。

ワタシが男を、スキになるはずがない。

カダルの時もそうだったが、マーレを前にして気分が高揚しているだけだろうと思い直す。

ときめいていない、これは恋じゃない。

絶対に、違う。

まだ何も起こっていないのだから、恐れることはない。


アレスの首に自身の腕を絡め、とろけるような微笑を浮かべ顔を近づけた。

体を引き寄せ、わざと胸を押し当てるところはまさに小悪魔。

これにはアレスも驚いた。



「(……これでいい、主導権を握られたらおしまいだ)」



手のひらで踊らされてはいけない、自分の力を忘れるな。

……悲劇が起こる源を、自らが作ってはいけない。



「具合が悪いんじゃなかったの?女をベットの上に引きずり込んで……ナニする気?」



「っ……そういう訳じゃ、」



腕を伸ばし、手の甲で頬を優しく撫でる。

アレスの髭が当たってくすぐったいが、指を使い肌をなぞり感触を楽しむ。

泣きそうな顔を見せるアレスが、ディーヴァの手に自分の手を重ねてきた。

額の髪の毛をかき分け、キスを贈る。

頬にも、……触れる程度のキスをした。

ありったけの思いを込めて、親愛のキスをする。



「まだ体調がすぐれないのに、無理はダメよ?……今日はもう帰るわね」



「まだ話は……っ!!」



「あたしからは何もないわ、今はそれで充分でしょう?体調が悪い時に、何を話そうっていうの?」



――――出会った時から、アレスの顔色が優れないのは妹が床に伏せっているのを知ったからだと思っていた。

だが、明らかにたった一日でアレスにまとわりつく闇が増えたのは、マーレの呪いによるものだとハッキリわかった。

アレスを通じて膨大な力が国全体に送られ、行き巡らせられている。

その負荷が大きく、マーレの力の受け皿としては未熟かつ相性が悪いなどの理由で体調が優れないのだ。


残すところ、後一日。

ディーヴァの力を持ってすれば、一日を使わずとも呪いの解呪は行えるだろう。

しかしそれは、自らが定めた理から外れる行為になってしまう。

なんでもかんでも力を使い、救っていたのではこの世界の者たちがディーヴァばかりを頼って何もしなくなってしまう。

やがて争いの火種になるかもしれない。

そこまでには至らなかったものの、そうなりかけたことは今までにもあったことだ。

今回だけは違うとは言い切れない。

すがるように見つめるアレスを、振り返ることもなく――――静かに部屋から出ていった。











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