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「そうそう。それでまぁ君ったら、それから十年たらずで自立しちゃって。……今はクレオシオンに所属しているんでしょう?騎士の称号も拝命したんですってね、おめでとう!」



「なんでそんなことまで知ってるんだよ……!!」



報告した覚えはない。

だが、このディーヴァという女は友人や知り合いから顔見知りまで、幅広い付き合いがあるのでおのずと知れてしまったのだろうと、マオヤは疲れたように項垂れた。



「あら、愛息子の誉れを聞くのも母の特権よん」



そう言うディーヴァの表情は、誇らしげだった。

最後にマオヤと別れた時には、背丈は同じくらいだったのに当に追い抜かれてしまった。

今では見上げないと、顔も見られない。

子供の成長は嬉しいが……どこか寂しい気がするのは、気のせいだろうか?

遠くへ行ってしまったような気がして、妙に寂しい。

昔はよく、頭を撫でてあげては振り払われてキャンキャン怒られたものだったが。

今はもう、たくましく成長しているマオヤ。

……だが、しかし――――!!



「まぁ君、悩みがあったんなら相談してくれれば良かったのに……」



「まぁ君って呼ぶな!……いや、確かに相談したいことがあってきたんだが」



「いつからそうなりたいって思ってたの?」



「?何言ってんだアンタは」



ウルウルッと、目尻に涙を浮かべたくさん溜まっていく。

それにギョッとして驚いたマオヤは、慌ててカダルを呼んだ。



「おい、カダル!!ディーヴァはなんかあったのかよ!?」



「……いえ、特に心当たりはありませんが」


「ならなんで泣くんだよ!」



「存じません」



そしてそのまま立ち上がり、お茶の用意に取りかかる。

マオヤのことは放置、無視。

ディーヴァから聞いたことがなかった養い子が突然現れて、なんとなくムッとしてしまったカダルは助け船を出さないことに決めたようだ。

ポロポロと涙を溢すディーヴァに、心が傷まない訳ではなかったが、これも意趣返しの一つだ。


南国の果実を使ったこの国特有のお茶を淹れ、フルーツの盛り合わせにドライフルーツがたっぷり入った焼菓子を用意して。

準備が整ったところで二人の方を見てみると、未だ何も出来ずにオロオロするばかりのマオヤの姿が。



「……何をなさっておられるのですか?」



「ディーヴァが泣き止まねぇ!!」



「慰めればいいでしょう」



「俺がか!?」



「他に誰がいるんです?」



「っ……お前とか、」



「残念ながら、ディーヴァの泣いている理由がわからない状態で慰めても、意味がありません。無意味です」



「〜〜〜〜っっ!!ディーヴァ!あんたはなんで泣いてんだよっ?!」



シクシクと泣き続けるディーヴァに、およそ気づかっているとは言いがたい聞き方で訊ねる。

そんなマオヤを見て、深い悲しみを語っているような濡れた瞳で、ディーヴァは答えた。



「……まぁ君、女の子になりたかったなら……どうして、どうしてあたしに相談してくれなかったの……?」



「……………………はぁ?」



「あたしなら、効き目が良くて後遺症も副作用もない魔法薬を融通出来たのに!!まさか手術したんじゃないでしょうね!?まぁ君の綺麗な肌に傷がっ……?!」



「一回絞め殺してもいいか?」



「まぁ君のお嫁さん見せてからにしてね」



ホホッ、と口許に手を当てて笑いを溢す。

からかわれていると気づくのに、時間がかかったことに対してマオヤが腹を立てると、握りこぶしを震わせた。

だがそこは、ぐっと我慢する。

今は優先させることがあるからだ。

勝手は出来ない。

今必要なものを手に入れ、やるべきことを済まさねば!



「……あんたは、わかってんだろ?この姿は変装だ、敵を油断させる為のな。もっとも、敵は姿すら現さねぇけど」



「あら、だったら只今任務中ってこと?……そうよね、まぁ君が休暇中だったらもう少し静かな場所とかを選びそうだし〜!お仕事、御苦労様!」



「回りくどい言い方は好きじゃねぇ」



「あたしもよ、気が合うわね。やっぱり血の繋がりが無くても、親子ってことなのかしら?」



マオヤの意思を汲み取らず、話をかわしてばかりのディーヴァに今度は苛立つ様子を見せず、真剣な表情で話しかけた。



「――――俺は、アンタの大切な存在の一人だよな?慈しみ、育んできた大事で大切な存在の一人だ。……違うか?」



回りくどい言い方は好きじゃないと言ったくせに、早速回りくどく人情に訴えかけている。

……ディーヴァにとっては好きじゃないが、嫌いでもない作戦だ。

相手がマオヤだから、あえて乗っかってやろうという気にもなってくる。

ディーヴァはマオヤを、まっすぐと見据えて問うた。



「何を知りたいの?」



「王女を呪っている奴の正体と、呪いの解呪の方法だ」



「クレオシオンの連中は、専門の奴らを派遣してこなかったの?」



「他の事件にかかりきりで……正直、手が足りないんだ。呪いの力が強すぎて、解呪の為に必要な時間が足りない。今から来させても間に合わねぇ」



「あら、泣き言?クレオシオンに六十年も勤めてきたんでしょう?奥の手とか隠された力とか、何かないの?後一日半で、王女様は死ぬのよ?」



残酷な事実を突きつける。

たった一日半しか、もう時間は残されていない。

それなのに今現在、何も出来ない事実がわかっただけだった。

マオヤほどの実力者なら、大抵のことは解決出来る力を持っているはずだった。

クレオシオンは実力者揃い、生半可な力では務まらない。

ただ今回は、相手が悪すぎた。

女が己の力と人生と……愛と憎悪をねっとりと注ぎ込んだ呪いを、解ける者は数少ない。

いくらファーレスを受け継いだマオヤでも、荷が重すぎる話である。



「厄介な相手よ?マオヤだけじゃ厳しいと思うけど……それでも知りたい?」



「これは、俺が引き受けた仕事だ。最後まで全うする。――――だから、教えてくれ」



意志がこもった、強い眼差し。

光が射し込み、輝きを宿したその瞳は……昔と変わらない。

頑固で、簡単には考えを変えないところも変わらない。

姿形、背丈や雰囲気は変わっても、根本的なところはそうそう変わるものではないと、思わずにはいられない瞬間だった。



「いいわ、教えてあげる」



「本当かっ!?」



「ただし、条件があるわ。それを叶えてくれなければ、教えてあげない」



「……金銀財宝や、宝石が眠る洞窟をたくさん所有してるんだから、金が欲しいわけじゃねぇんだろ?」



「そんなものはいらない」



他にも、男からの貢ぎ物や今回のような事件を解決して手にいれた正当な報酬などで、生きることにも生活することにも不自由はしていない。

それなら、あえて欲するモノといえば何か?

マオヤに要求するモノとは……?



「絵を描かせてほしいの〜!」



「――――――――――なんだと?」



お願い!はぁと。

そう言って首を傾げながら、手を合わせてマオヤにお願いする。

当のお願いされた本人は、何をお願いされたのかすぐには理解出来ずにいた。

ポカン、とした顔はなかなか可愛い。

ツンツンと、頬をつつかれようやく覚醒し、ディーヴァに思いきり吼えた。



「何を考えてんだよアンタは!!!今は王女が死ぬか生きるかの瀬戸際なんだぞ?!そんな悠長に絵なんて描かせられるかっ!!」



「今すぐじゃないわよ、この事件が無事に解決した時に、時間を取ってくれたらいいから!ちなみに女装した時と通常時の時で衣装を変えて、ポーズも決めてね?大丈夫!知り合いの仕立て屋に大至急注文して、まぁ君のサイズで仕立ててもらうから!!」



「っ……ウザイ……ッ!!」



「母親ってのは、息子にウザがられるのはよくわかってる。理解してるわ!だからこそ、まぁ君の美女姿を描かずして死ねない!!お願いまぁ君!お願いお願いっ!描かせてくれたら、まぁ君の仕事のお手伝いしてあげるから〜」



「(今堪えずして、いつ堪える?)」



マオヤは深く考えさせられた。

任務の為とはいえ、女装して仕事に励みその甲斐もなく、最後の日は迫りつつある。

任務を遂行させる為には、この目の前の人でな……悪ま…………ディーヴァに、条件と引き換えに頼むことしか他に道はなかった。

ディーヴァに魂を売り渡し、恥を晒して受け入れるしかないのか……?

……人の命がかかっている。

選択の余地は、ない。



「――――――わかった、その条件を呑む」



「さっすがまぁ君!男前〜!!」



「ただし、こっちはさっきも言った通り人手不足で忙しい。時間が空くのはいつになるかわかんねーからな!!」



「それはこちらも承知の上よ。さぁ、話の続きはお茶をいただきながらにしましょう。カダル、準備していてくれてありがとう」



「いえ、当然のことです」



ニッコリ微笑み、温かいお茶をカップに注ぐ。

唐草の模様が描かれていて、カップの取っ手が無いので手に持つと少しだけ熱かった。

湯気が立ちこめる中、フルーツの香りを楽しみながら美味しそうに一口飲む。

朝ごはんもまだ食べていなかったディーヴァにしてみれば、温かいお茶を飲んでようやく人心地がつけた。



「さすがはカダルね〜相変わらず美味しいわ」



「ぶほぉっ!?」



いきなりマオヤが、お茶を一口飲んだだけで噴き出した。

顔は真っ赤になり、ゲホゲホと呼吸困難に陥っている。

何事かと、視線をカダルに向け訝しげに見つめた。



「おや?お口に合いませんでしたか……?」



「なっ、何を入れやがった〜っ?!」



「ただのスパイスティーです。この国の特産品の一つなので、用意させていただいたのですが……」



「おれ、もっ!飲んだ、ことは、あるっが……っ!こ、こんなのじゃ……っ!!」



「あぁ……より刺激的になるかと思いまして、辛味成分が大量に含まれた野菜の汁を入れました。いかがでしょう?」



外道である。

お茶を一口飲んだだけで、呼吸をするのも苦しそうだ。

喉をピリピリと刺激して、汗が吹き出し、意識が遠のきそうになる。

すごい効き目だった。










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