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27〜マオヤ




「……この方は、いかがなされたのですか?」



「精神が消耗し過ぎておねんねしたの」



ちょうどいいので、カダルにアレスを運んでもらうことにする。

昼間、カダルがフォルスとデートした時に聞いたことなのだが、フォルスには兄がいることとその兄であるアレスは、街外れに部屋を借りているのだという。


……デート中に、兄とはいえ他の男のことを話に持ち出して怒ったのではないか?

そう思ったが、王宮の部屋での扉のやりとりを思いだしそれはないと思い直す。

カダルは肩にアレスをかつぎ上げ、借りている部屋とやらに連れて行くことにした。

さすがにお姫様抱っこは、見る方もしてあげる方も辛いものがある。もう夜も遅い。

上を見上げれば、煌めく星々が夜空にキラキラと瞬いて、耳を傾ければ音楽が遠くから聞こえる。

ほのかに冷たい風を体に受けながら、アレスの部屋までの道を辿るのだった。


――――――その頃、王宮内にて。


薄暗いアルベルティーナの室内の端っこで、ブツブツと何かを話している人物がいた。

一人で話している訳ではなく、ちゃんと会話している相手がいる。

その会話相手に、アルベルティーナのことを報告しているようだった。

鳥の紋章が刻まれた、首飾りの宝石部分に向かって人目を避けて話している。



「はい……未だ目覚める気配はありません。体調も思わしくなく、このままでは確実に死にます」



「『…………』」



「それは勿論。……えぇ、すでに実行中です。祭りの最終日に、全ての決着がつきます」



「『…………!!』」



「……あんまりグダグダ言ってんじゃねぇぞ?場所柄俺が大人しくしとかねぇといけないからってな、そのイライラする話し方をしても許されると勘違いしてんなら即刻喉をかき切れ、そして死ね!!」



「『っ……!?…………っっ?!』」



「うるさい泣くな、黙れ!……チッ、人が来た。切るぞ」



強制的に相手との話を終了し、イライラした様子を隠そうともせず室内を無意味に歩き回る。

……すると、外に通じる階段からここまで上がってくる人の足音が聞こえてきた。

先ほどまで会話していた人物は、非常に耳がいい。

仲間内ではこの人物の悪口を言うのなら、天に昇るか地に潜れと言われているのだが……実際に悪口雑言を吐いた連中は、しばらく姿を確認出来なくなり、より真実味が増したらしい。


――――段々と近づいてくる足音に、聞き覚えがあるものだったので警戒は早々に解いた。

さらには、ノックも無しにこの部屋に入ってくる人間は限られてくる。

この部屋の主である、アルベルティーナの家族だけだ。



「お待ちしておりました。国王様、王妃様」



「……アルベルティーナの様子は、どう?体調は、少しでも良くなったかしら……?」



「はい。今夜は幾分か、顔色が良くなっているように思われます。……しかしあと二日の内に、なんとかせねばなりません」



「アルベルティーナ……っ!!おのれっ、マーレ!!よくもこの子に呪いを――――」



息をしているかどうかも怪しい、眠れる塔のお姫様。

王妃はアルベルティーナの側でその体にすがり、静かに泣き出した。

代われるものなら、代わってやりたいと絞るように王妃は言う。

この呪いの苦しみは、三十年前に味わっているのでよくわかるからだ。

わかるからこそ、娘の身に起こっていることが……許せない。



「アルベルティーナ…………ごめんなさい、ごめんなさい……!救ってやりたいのに、何も出来ないわたくしを許して……っ」



王妃は何度もアルベルティーナの頬を撫で、悲しげな顔を見せる。

国王は歯を食いしばり、怒りたいのを必死に堪えながらも、側で控えていた侍女に言った。



「『ファーレス』殿!頼むっ、娘を救ってくれ!!」



「はい。『クレオシオン』より派遣された『ファーレス』の名と我が剣に賭けて、必ずや王女様を救ってみせましょう!」



クレオシオン


およそ三百年ほど前に作られた、特殊な力を使う者たちに対抗できる素質や力を持つ者たちが集う組織のことだ。

ファーレスという名は、『騎士』の意味を持つ言葉で今はアルベルティーナの側に控えているこの侍女が、六十年前に継承したクレオシオン内での騎士の称号だった。

侍女と言っても、本来は男の上に髪の色や肌の色も変えていて、敵を油断させる為に変装していたのだがそれもあまり意味を成さなかったようだ。


初めて会った時にはすでに、アルベルティーナには呪いがかけられていて日に日に衰弱していくばかり。

今までの経験上でわかったことは一つだけ。

三日間行われる祭りが終わりを告げたその瞬間、アルベルティーナが死ぬ代わりに何かが起こるということ。

呪いの出所はわからず、またかけた犯人の見当もつかない。

……情報が、圧倒的に足りなかった。

フォーレスはそう痛感し、苦い顔になってしまったのを国王夫妻に見られないように隠し、ボソッと呟く。



「『あいつ』に聞くしかないか……たいぎぃな」



心底面倒くさそうに、ため息をこぼす。

他に手立てがないので、仕方ないと言えば仕方ないのだが……あまり相手にしたくない相手と真っ向から対峙し、話を聞きださなければならない。

悲しみに伏した国王夫妻の嘆きが満ち、祭りの初日は、終わった。


――――――翌日。


陽が真上に上り、時刻は昼時を示す。

王宮の宛がわれた部屋のふかふかのベットで、よく眠れたとディーヴァは気持ちのいい目覚めを迎えた。

昨日は結局、アレスを部屋に送り届けた後、王宮に戻るのは面倒だからとアレスと一緒のベットで寝るとカダルに言ったのだ。

……やましい思いは何一つなく、ただマーレと遭遇したばかりだからアレスの身が心配なだけなんだと告げるのだが……それも、カダルの無言の圧力の前に塵と消える。


治安が悪いとは言わない、だがあまり衛生面では綺麗とは言いがたい地域にいたので、金目の物を持っておらずとも危ないからと、早々にディーヴァを連れアレスの部屋を引き払った。

そして王宮に戻り次第、体が濡れて冷えているのだからと、急いでお風呂を用意してもらいそこへ直行。

磨きあげた肌をカダル以外の男に披露することも出来ず、また適当な男もおらず。

食事は外で食べた物で充分だったので、今さら食べはせず。

部屋のベットで即就寝。


健全過ぎる。

カダルなど、ディーヴァが眠ったのを見届けてから風呂や諸々の用事などを済ませ、それから就寝。

日の出と共に起床し、朝食も済ませディーヴァがいつ起きてきてもいいように、食事や身の回りの準備は万端に整っていた。

出来すぎた男である。



「……好きに過ごしてていいのに。なんでこうも完璧に用意出来ちゃっているのよ……もっと自由にしていなさい、自由に!」



「私は、私の思い考える通りに行動しております。ディーヴァはお気になさらないでください」



「気にするっての。……そういえばカダル、今日の王子様とのデートはよかったの〜?」



ニヤニヤと、からかう風に聞いてくるディーヴァにカダルは顔を強張らせた。

ギギギ、と錆び付いたロボットのように振り向いてくる。



「……なんでも、妹姫の容態が思わしくないのでデートどころではないそうです。――――なぜ、急にそのようなことになったのでしょうね……?」



ジトーッとディーヴァを見るが、どこ吹く風の如しだ。

アルベルティーナのことは、全て呪いが原因であってディーヴァに非はない。

後ろめたいことは何一つしていないと、それはハッキリ言えるので、カダルには知らぬ存ぜぬを通した。



「え〜?知らなーい。姫の部屋の中に冷たい風が吹いたんじゃなーい?ほら、この国って窓がないし〜……」



「そんな馬鹿げた屁理屈が通用するとほんとに思ってんのか……っ!?ふざけんなよディーヴァ!!」



部屋の扉を乱暴に開けて部屋に入ってきたのは、昨夜会った黒毛和ぎゅ…………もとい。

アルベルティーナ付きの侍女であり、エキゾチック美女!その人であった。

ディーヴァは今でこそ女の姿に戻ってはいたが、一応キスした間柄である彼女を前に思わず頬が赤く染まる。



「(――――――いや、待て。彼女は今なんと言った?)あのー……もしかして、昔どこかで会ったことがある?」



「その目は飾りか?俺の正体にも気づけないで、よくも母親面が出来たもんだよなぁ?」



この懐かしい乱暴な口調、そして綺麗なアルトの声。

姿形は変わっても、忘れるはずがない。



「あっらー?……もしかして、まぁ君?やっだまぁ君じゃない!!なんでそんなあたし好みの女の子になっちゃってくれてんのっ!?あたしの為に?!嬉しーーーっっ!!!」



「抱きつくな!!離れろっ、やめろーーーっ!!!」



美女二人。自分忘れて、イチャつくな。

季語なし。

一方的にディーヴァが『まぁ君』

と呼んだ侍女に抱きついて離れず、イチャコラしている様を見せられていたカダルはどのタイミングで声をかけるか悩んでいた。


すると、侍女の方が強引にディーヴァを引き剥がし、視線が合ったカダルの方へツカツカと歩いてくる。

まさかこちらにやって来るとは思っていなかったので、多少なりとも驚きを隠せずに侍女を待ち受けた。



「お前がカダルか?」



「左様ですが……」



「チッ、性懲りもなく『また』拾ったのかよ!」



「そうよ、綺麗な子でしょう?」



「俺で最後にするとかほざいたのは、どこの誰だ?」



「人間って生き物は、日々状況が変化していくものなのよ〜!ちょうど目の前に、綺麗な瞳で見つめてくる赤ちゃんがいて『ママー、僕を拾ってー?』って言っている気がしたんだもの!無視するなんて出来るわけないでしょう!?」



「赤ん坊がんなこと言うか!!」



なんだろう、これは。

二人はやけに親しげで、自分のこともよく知っていてディーヴァのことも知っている。

この人は、誰だ?


そんなカダルの疑問に気づいたディーヴァが、ニンマリ笑いながら二人を手招きし、椅子に座らせようとする。

藤の椅子に座り、カダルと侍女が同じく椅子に座ったのを見届けると、たんたんと、侍女との関係を語り始めた。



「この子は『マオヤ』と言って、カダルと同じあたしの養い子よ。確か……八十年前に拾ったんだったわよね?」



「俺は当時八歳だったが、きちんと覚えている。ディーヴァに拾われたのは、確かに八十年前だった」








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