SecretEpisode 指先
※『魔王はハンバーガーがお好き』の隠しエピソードです。書籍発売記念の隠し小説なので、ネタはそちらに準拠します。本編のネタバレは特にありませんが、隠し元のエピソードとは別の時間のお話なので、本編読了後の観覧をオススメします。
洗い物をしていると、ふと師匠の視線が気になった。
客がいないのを良いことに、師匠は先ほどから私の横で余ったポテトを食べているのだが、何故か彼女の視線が私の手に注がれているのである。
「もしかして、洗い方がなっていないか?」
尋ねると、師匠は首を横に振り「ごめん」と謝る。
「いや、魔王の手って綺麗だなって思ってさ」
「手?」
「特に指が綺麗だなって思ったの。それでついつい見ちゃって」
「私に言わせれば、師匠の手の方が美しいと思うが」
濡れた手をエプロンで拭いてから、私は自分の手のひらを師匠の手のひらに重ねてみる。
「私より指も細いし」
「太かったら問題でしょう」
と言いつつ、重なる手のひらを見つめる師匠は、何故か顔を赤らめる。
「こうしてみると手が大きいのね」
「師匠のは小さくて可愛いな」
「そう?」
「ああ、それに指も細くて美しい」
眺めていると、ふいに美しい細工のキャンディーを思い出して、私はそれをなめたくなった。
というか、気がつけば体が無意識に動き、師匠の人差し指をなめていた。
「甘いかと思ったが、しょっぱいな」
そういえばさっきまでポテトを食べていたなと思った瞬間、私の天地がひっくり返った。
「ひっ人の指、勝手になめないでよ!」
見れば、師匠がひどく怒りながら握り拳を振りまわしている。どうやら私は、彼女に殴り飛ばされ、地面にひっくり返ったらしい。
「前々から思っていたが、とても綺麗で細い手と腕なのに、師匠の一撃は強烈だな」
もしやその腕には悪魔でも宿っているのかと尋ねると、師匠は拗ねた子供のような顔で私から顔を背ける。
「小さい頃から店の手伝いで食材とか運んでたから、腕の筋肉が無駄についちゃったの」
「無駄ではないだろう。軽々と食材を運ぶ師匠は、たくましくて素敵だと思う」
「でも、たくましいって女の子の褒め言葉として微妙じゃない?」
「そんなことはない。美しさや愛らしさだけでなく、力強さも兼ね備えた女性はとても素敵だと私は思う」
師匠に殴り飛ばされた体を起こしながらそう言えば、彼女は真っ赤になってうつむいてしまう。
「まあ、そう言われるなら無駄じゃないかもね」
照れたようないい方がまた愛らしくて、私は師匠の手をもう一度取る。
「今度はなめないから、少しだけ触れていても良いか?」
「触るだけなら、別に良いけど」
師匠が許してくれたので、私は先ほどのように手のひらを重ねる。
「でも、あかぎれとかもあるし触り心地微妙じゃない?」
「このちょっとツンツンしたところも含めて好きなんだ」
それに師匠の手のひらはとても温かい。
触れていると本当に心地よくて、私はこうしてずっと手を重ねていたいと思った。