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SecretEpisode 指先

作者: 28号

※『魔王はハンバーガーがお好き』の隠しエピソードです。書籍発売記念の隠し小説なので、ネタはそちらに準拠します。本編のネタバレは特にありませんが、隠し元のエピソードとは別の時間のお話なので、本編読了後の観覧をオススメします。

 洗い物をしていると、ふと師匠の視線が気になった。

 客がいないのを良いことに、師匠は先ほどから私の横で余ったポテトを食べているのだが、何故か彼女の視線が私の手に注がれているのである。

「もしかして、洗い方がなっていないか?」

 尋ねると、師匠は首を横に振り「ごめん」と謝る。

「いや、魔王の手って綺麗だなって思ってさ」

「手?」

「特に指が綺麗だなって思ったの。それでついつい見ちゃって」

「私に言わせれば、師匠の手の方が美しいと思うが」

 濡れた手をエプロンで拭いてから、私は自分の手のひらを師匠の手のひらに重ねてみる。

「私より指も細いし」

「太かったら問題でしょう」

 と言いつつ、重なる手のひらを見つめる師匠は、何故か顔を赤らめる。

「こうしてみると手が大きいのね」

「師匠のは小さくて可愛いな」

「そう?」

「ああ、それに指も細くて美しい」

 眺めていると、ふいに美しい細工のキャンディーを思い出して、私はそれをなめたくなった。

 というか、気がつけば体が無意識に動き、師匠の人差し指をなめていた。

「甘いかと思ったが、しょっぱいな」

 そういえばさっきまでポテトを食べていたなと思った瞬間、私の天地がひっくり返った。

「ひっ人の指、勝手になめないでよ!」

 見れば、師匠がひどく怒りながら握り拳を振りまわしている。どうやら私は、彼女に殴り飛ばされ、地面にひっくり返ったらしい。

「前々から思っていたが、とても綺麗で細い手と腕なのに、師匠の一撃は強烈だな」

 もしやその腕には悪魔でも宿っているのかと尋ねると、師匠は拗ねた子供のような顔で私から顔を背ける。

「小さい頃から店の手伝いで食材とか運んでたから、腕の筋肉が無駄についちゃったの」

「無駄ではないだろう。軽々と食材を運ぶ師匠は、たくましくて素敵だと思う」

「でも、たくましいって女の子の褒め言葉として微妙じゃない?」

「そんなことはない。美しさや愛らしさだけでなく、力強さも兼ね備えた女性はとても素敵だと私は思う」

 師匠に殴り飛ばされた体を起こしながらそう言えば、彼女は真っ赤になってうつむいてしまう。

「まあ、そう言われるなら無駄じゃないかもね」

 照れたようないい方がまた愛らしくて、私は師匠の手をもう一度取る。

「今度はなめないから、少しだけ触れていても良いか?」

「触るだけなら、別に良いけど」

 師匠が許してくれたので、私は先ほどのように手のひらを重ねる。

「でも、あかぎれとかもあるし触り心地微妙じゃない?」

「このちょっとツンツンしたところも含めて好きなんだ」

 それに師匠の手のひらはとても温かい。

 触れていると本当に心地よくて、私はこうしてずっと手を重ねていたいと思った。

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