第4話「オワリのハジマリ」
彼女は俺のモノ・・・決して誰にも渡さない。盗ろうとするやつは許さない。
誰にも盗られないように・・・俺が彼女を影からコッソリと守ってあげるのさ。
そんな彼女に最近不審なヤツが近づいている。なんでも新しく入ったチームメンバーだそうだ。
きっと、彼女を狙っているのだろう。
無理も無い、彼女はセカイのどんな女性よりも美しいのだから。
そんな彼女を狙うヤツは・・・ユルサナイッ!
「・・・・・」
「ウーン?どうしたんだいカゲロウ」
「いや、なんかまた誰かに見られているような気がするから・・・」
「まーたカヨ。気のせいじゃないのカヨ?」
「多分、それは無いと思うんだけど・・・」
酒の騒ぎがあってから俺もだんだんこのチームに打ち解け始め、敬語を使わなくなった。グリーン達も別にいいようで特に何もいわない。
が、その日くらいから誰かに見られているような気配を感じることが時々ある。
1度や2度くらいならまだ気のせいかと思ったのだが、何回も・・・となると気のせいとは思えなくなってくる。
「ウ~ン・・・なラヨ、全員でミーのホームに泊まルカ?」
「お、いいな。全員で泊まってカゲロウのストーカーをとっちめてやろうぜ」
「いやー・・・それは嬉しいんだけど、いいのか?」
正直俺個人の問題にみんなを巻き込むのはちょっと悪い気がする・・・が
「ノープログレーム、仲間なんだかラサ、困ってるときは遠慮するルヨ」
笑って、グリーンはそう言ってくれた。珍しくまともなことを言うんだな・・・。
「そしてミーは酒が飲めなくて困ってるカラ・・・」
「全員未成年だから駄目に決まってるだろ」
やっぱりグリーンだ・・・まともなことを言ってもグリーンだ。
「・・・まぁそれは冗談だとしてダナ。モモとしぇるにも聞いてみようカ。」
冗談と言いつつもちょっと泣いていた気がするのは気のせいだろうか・・・。
いや、きっと気のせいじゃないな。グリーンだから。
「とりあえず・・・着替えは持っていくか・・・」
自宅に一旦戻って荷物をまとめにきた俺。
ただ、俺の部屋は結構散らかっているから服を探すだけでも結構時間は掛かりそうだ・・・。
読んだ本は片付けもせずに床に放置され・・・服は何故かイスの下やテーブルの上に散らばっている。
・・・洗濯だけはちゃんとやってるんだけどな。
「自分の部屋を改めて見てみると色んな物が散乱してるなー・・・ついでに片付けていくか;」
えーっと、本は適当に本棚に・・・。持って行かない服はタンスに詰め込んで・・・。
1時間後・・・
「だいぶ片付いたな。まぁこんなものか」
まだ片付いていない物もあるがあんまり時間をかけるとみんなに悪い。多分もう全員行ってるはずだしな。
片付けながらも荷物はある程度まとめたのであとはグリーンの家に行くだけだ。
アパートから出るとき、後ろを向いて入口から見える範囲を見渡してみた。
別に『家に戻れないのは寂しい』と思ったわけじゃない。グリーンのチームに入ってからはここは夜、部屋で寝るくらいしか使ってないからだ。
ただ、なんとなくここから出るのを躊躇ってしまった。何か、嫌な予感がしたから。
アパートを出ると携帯が鳴りだした。
メールが来たようだがこの近くでルイウが発生したというわけではなく、しぇるからのメールだった。
『みんなもう集まってますよ。カゲロウさんだけ遅いから心配しています。早く来てくださいね』
あいからわず敬語を使うしぇる・・・。自分には敬語は使わなくていいと言っといてコレなんだから。
まぁ礼儀正しい性格だからつい敬語を使うのかもな。とにかく、心配させてるみたいだから返信するか。
『今アパートを出たところだから今からそっちに向かうよ』
文字を打って返信しようとしたとき、後ろから何かを感じた。
ソレは・・・殺気だった。
後ろを振り向こうとしたが振り向く間もなく後ろから片手で口を押えられ、首にはヒヤリと冷たい感触。
刃物を首に押し付けられているようだ。迂闊に動かないほうがよさそうだ。
「オイ、テメェ。今だれとメールしてたよ?あぁん?」
声はとても低く、ドスのきいた声だった。
「どーせしぇるとだろ?わかってんだぜ?」
コイツ・・・何故知ってんだ?まさか、時々感じていた視線はコイツの・・・?
「俺様が親切にも言っておくがなぁ、しぇるは俺のモンだぞ?あんまり近づきすぎんじゃ・・・ねぇぞ?」
ヒヒヒヒヒ と薄気味悪い笑い声を残してソイツは去って行った。
後ろを振り返ったがソイツの既に姿は無く、傾き始めた日の光が道を照らすばかりだった。
しばらく呆然としていると再び携帯が鳴り始めた。今度はしぇるから電話がかかってきたようだ。
そのまま出ようかと思ったがまたさっきのやつが襲ってくるかもしれないと思ったので一応隠れることにした。
「もしも・・・」
『カゲロウさん?メール返ってこないから心配しましたよ?』
「あぁ、わるぃ・・・。ちょっと色々あってさ」
『何かあったんですか?』
「ちょっと誰かに襲われ・・・」
ドス!
言葉の途中で脇腹に何かが刺さった。触って確かめると・・・ナイフのようだった。
こんなモノを投げてくるヤツなんて・・・さっきのヤツ以外居ないだろう。どうやら近くに居るようだ。
『カゲロウさん?どうかしたんですか?』
「あ、いやなんでもないよ。今からそっちに行くから。じゃぁな」
襲われたことを言えばまたナイフか何かが飛んでくるかもしれないと思ったので咄嗟に嘘をつき、背中の翼で羽ばたいて空へ逃げた。
とりあえず・・・このことを話すのはグリーンの家で、だ。
「ゼハ・・・ゼハ・・・なんとか着いたな」
既に結構な量の血が体から出た気がする。飛んでいる時も途中から頭がフラフラするような感覚があった。
玄関のドアを開け、リビングへとなだれ込むようにして入る。
「うぉ!?なんじゃこりゃ?!こりゃ何があったんだカゲロウ!?」
グレイブが混乱気味に聞いてきた。いや、グレイブだけじゃない。みんな少なからず混乱しているようだ。まぁそりゃそうだよな。
やっと最後のメンバーが来たと思ったら脇腹から血を出しながら来たんだからな。
「ちょっと・・・色々あって誰かに襲われてな・・・」
「と・・・とりあえず治癒弾で少しでも出血を止めないと!」
モモが腰からデザートイーグルを抜き、傷口に向かって撃った。
弾が傷口に当たると少し痛みが和らいだ気がする。出血も少し治まっているようだ。
「ごめん・・・私の治癒能力はそこまで高くないからあんまり治せないかもだけど・・・」
「いや、それでも少し痛みが和らいだ気がするよ。ありがとう」
モモは更に数発治癒弾を撃ち込み、手際よく包帯を巻いていく。とりあえず出血は治まったようだ。
「さて、ユーに一体何があったんダヨ?」
口調こそふざけている様だがグリーンがいつになく真剣に聞いてくる。こんなに真剣なグリーンは初めて見るな。
俺は全て話した。
アパートから出てしぇるのメールを返信しようとしたらいきなり脅されたこと。
ソイツが去ったあとしぇるから電話がかかってきたので出て少しするといきなりナイフが飛んできたこと。
ソイツがどんな格好をしていたか全く見ていないこと。そして、ソイツの声からして男だろうということ。
全て話終えたとき、みんな暗い顔をしていた。
まるで・・・何かを知っているような顔だった。
「みんな、俺を襲ったヤツに心あたりでもあるのか?」
「・・・心あたりというかね」
「だなぁ・・・途中から大体予想はついてはいたけどなぁ・・・」
なんだ?もしかしてみんなの知り合いだったりするのか?
「ぁの、カゲロウさん・・・。言いにくいんだけど・・・その人、私の元チームメイト・・・なの」
そういえばヤツはしぇるがどうとか言ってたが・・・そうかチームメイトだったの・・・
「ってちょっと待て。なんで元チームメイトがこんなことするんだ!?」
元恋人ならまだわからなくもないが元チームメイトがこんなことをするのは理解できない。一体どういうことだろうか?
だが、しぇるは首を横に振った。わからない・・・ということらしい。
「元々、変な人だとは思ってたんだけど・・・前のチームでも同じような事があって、怖くなって・・・逃げたの」
「そこでミー達がスカウトしたんだが・・・当然その場では断られてナ。だが、後日しぇるのほうからチームに入りたいと言ってきてナ。理由は今もワカラナイが・・・」
チラっとグリーンはしぇるの方を向く。まるで『理由を話してくれないか』と語りかけているように見える。
それに対してしぇるは頷き、口を開き始めた。
「誘われた時もあの人から逃げてたんだけど、断って少しした後に捕まっちゃって・・・あの人にチームに入るように言われたの。何であの人がそう言ったかはわからないけど・・・」
結局ヤツが何をしたいかはサッパリだな。どういう目的があってストーカー行為とかをするんだか・・・。
「とりあえず、警察に連絡しよう。あんな危険人物早く捕まえないと何をするかわからない」
「そうだナ。立派な傷害罪だからオリの中に入ってもらうとしようゼw」
警察に連絡を入れると向こうは驚いた様子であわただしくも対応してくれ、すぐに動いてくれるようだった。
ただ問題は簡単に捕まってくれるかどうか・・・だよな。
とりあえず俺はグリーンの家の1室で休ませてもらい、他の皆は交代で見張りについてくれるそうだ。
ヤツも家の中まで侵入して殺りにきたりはしないんじゃないかと思ったが万が一のため・・・だそうだ。
「いっつつつ・・・しかしここまでするなんて随分ヤツのことを警戒するもんだな;」
「あ、寝てないとダメですよ、カゲロウさん。出血は止まったと言っても応急処置みたいなものなんですから、無理に動いたらまた傷が開きますよ」
「いや、わかっちゃいるけど全然眠くないからさ;ちょっとくらい起きてても・・・」
「ダメです。傷は結構深かったんですから、ちゃんと休んで早く直さないといけませんよ?」
ほらほら、と言われて手で目を覆われる。いや、それで眠れるってわけでもないと思うんだけど・・・。
そう思っていたがだんだん眠くなり、そのうち熟睡してしまった。
目が、覚めた。時刻は朝の4時。起きるのは早すぎる時間だ・・・。
そのまま二度寝しようと思ったが、ふと周りに違和感を感じ、辺りを見回してみた。
寝起きで頭がよく動いていないのに違和感の正体はすぐに分かった。
誰も・・・居ない?
見張りが居るはずなのに今は誰も居なかった。
最初はもう見張る必要は無いと思われてみんな寝たのだと思った。
だが、何故か嫌な予感がした。何か取り返しのつかないことが起きる気がしたのだ。
置いてある長刀を掴んで急いでリビングに行く。
リビングに行くと、一枚の紙が置かれていた。
『あの人と話をつけてきます。
もう、仲間の人が傷つけられるのは嫌ですから・・・
もし、戻ってこれなかったらごめんなさい。しぇる』
「あいつ・・・死ぬ気か!?」
ヤツは何をしてもおかしくないのだ。例えば、しぇるを殺すとかもな。
急いでリビングを出ようとしたとき、後に誰か居る気がした。
(まさか・・・ヤツか?)
警戒しつつ、後ろを向くと・・・居たのはグリーンだった。
「何処に行くんダヨ?」
「・・・しぇるを探しに行くんだ」
「オイオイ、ユ―の傷はまだ完治してないんダゼ?それにしぇるが何処にいるのか分かるのカヨ?」
・・・グリ―ンの言っていることは正しかった。
俺の傷は治りきっていない。多分激しく動いたら傷口が開いてしまうだろう。それにしぇるが何処に居るかなんて全然分からないしアテも無い。
それでも、俺は・・・
「ここで何もしないで後悔するよりマシだ!大切な仲間を失ってたまるかよ!」
そう言い放ってリビングを飛び出し、家を出たところで翼を広げて飛び立つ。ただ彷徨うだけだろうと分かっていても・・・。
その時、携帯が震えた。
「・・・行っちゃったね」
「そうだね。止めなくてよかったの?」
「HAHAHAwストップと言って立ち止まるヤツじゃないダロ?カゲロウはw」
こんな状況なのにいつもと変わらないおちゃらけた口調のグリーン。
しかし、2人はグリーンが真剣に答えているのだろうと分かっていた。
「あー・・・ところでグレイブは何処に居るんダイ?さっきから姿が見えないんダガ・・・」
「大きなイビキをかきながら爆睡してるよ。全く、こんなときにねー」
グイレイブらしいと笑うグリーン。ユウリとモモもつられて笑ってしまう。
笑いながら、グリーンは手に持った携帯を閉じて仕舞うのだった。
これはちょっと別の世界での話。