夏休み
7月の後半。またユウウツな夏休みが始まる季節。
俺は教室の一番うしろの校庭側の席でいつもと変わらぬ窓の外の景色をボーッと眺めていた。
いつもとなにも変わらない風景。
だけどこれから約1ヶ月見ないのかと思うと少し寂しかったりする。
教壇では担任が細々と夏休みの注意事項を話しているようだ。
・・・が、ほとんどの生徒はこれから始まる夏休みの話題で持ちきりで
誰も担任のだるい話なんて聞いていない。
誰も聞いてねぇよ。
俺は心の中で担任に警告する。
・・・だいたい何回目の夏休みだと思ってんだよ。
今年で11回目だぜ?
俺は笑いそうになるのをこらえながら
制服のポケットの中でかすかに震えている携帯を取り出した。
・・・もちろん校則違反だが、それをとがめるヤツなんていない。
ピカピカと光る携帯を開くと
『新着メール1件あり』の文字があった。
フォルダを開くと俺が運営しているブログサイトからの
コメント通知のメールだった。
『翼さんにコメントが1件届いています。
はじめまして、MAOといいます。
翼さんのブログを見ました。
私もその小説読みましたよ!
おもしろかったですよね。
他にもオススメがあれば
ぜひ教えてください。
from MAO』
俺のブログは基本的に好きな小説を紹介しているだけで
自分の近情なんてものは一切ない。
だから読者は読書好きな人ばかりだ。
『Re:MAOさんへ
コメントありがとうございます。
あの小説いいですよね。
他に好きなのは※田中和樹の「道しるべ」です。
おもしろいですよ!
ぜひどうぞ
from 翼』
俺がMAOさんに返信を送信したちょうどそのとき、
まだ話続けていた担任の話を打ち切るようにして
今学期最後のチャイムが鳴った。
「じ、じゃあさっき言ったことを守って有意義な夏休みを過ごすんだぞ」
もう教室から出かけている生徒に担任が慌てて付け足した。
俺もみんなの波にまぎれて教室から出る。
廊下には生徒があふれていて思うように進めない。
やっとのことで下駄箱にたどり着いたときには汗だくになっていた・・・。
*つづく*
※田中和樹・・・この物語に出てくる登場人物であり、実在しない。