ギャグRPG小説【弓の勇者、地味に世界を救う】
勇者といえば剣もしくは大剣だ。
巨大な剣を振り回し、魔物を一刀両断。
血しぶきの中で決めポーズ。
民衆は歓声を上げ、姫はうっとりする。
それが“普通”だ。
だが。
「……なんで俺、草むらに伏せてんの?」
俺は勇者なのに、迷彩服を着ていた。
顔には泥。
体は匍匐前進。
完全にスナイパーである。
俺は弓の勇者として転生させられたので
なんと!弓以外は装備できない。
「こんな地味な勇者がいるかァ!!」
思わず小声で叫ぶ。
※バレたら終わるので大声は出せない。
遠くに見えるは魔王城。
そして玉座に座る魔王。
威圧感、オーラ、カリスマ。
どこからどう見ても“ラスボス”だ。
対して俺。
草。石。虫。
完全に背景。
「……よし」
弓を構える。
ヒュッ――
弓による遠距離攻撃 2ダメージ
魔王「……ん?」
魔王「どこから攻撃している?!」
「…………」
(※完全無視)
ヒュッ――
弓による遠距離攻撃 3ダメージ
魔王「姿を見せよォ!!」
「…………」
(※草と同化中)
魔王「ふん、その程度……!」
ドンッ!
魔王の魔の回復 100回復
魔王「ほら元通りだ!」
「…………」
ヒュッ――
弓による遠距離攻撃 1ダメージ
魔王「やめろや!!」
その日から。
地味な戦いが始まった。
朝。
ヒュッ――
2ダメージ
昼。
ヒュッ――
3ダメージ
夜。
ヒュッ――
1ダメージ
寝る間もなく、チクチク。
魔王「どこだあああああ!!」
俺「ここ」 (凄い遠い場所)
魔王は怒り、叫び、暴れ、回復し続けた。
俺は撃ち、隠れ、移動し、また撃った。
英雄譚?知らん。
これはただの持久戦だ。
そして――
50年後
魔王「まだやるか貴様ァァァ!!」
完全にやつれている。
目の下にクマ。
玉座もボロボロ。
俺はというと。
「……腰が痛い」
老けた。めっちゃ老けた。髭も髪の毛もボーボーだ。
でも撃つ。
ヒュッ――
弓による遠距離攻撃 3ダメージ
魔王「夜も寝ずにチクチクとぉぉぉ!!」
ヒュッ――
2ダメージ
ヒュッ――
3ダメージ
魔王「見上げた根性だぁぁぁぁ……」
バタン。
ついに、魔王は倒れた。
静寂。
風の音だけが響く。
俺は遠くの岩陰から、ゆっくり立ち上がった。
「……勝った」
誰も見ていない。
歓声もない。
姫も寿命で死んだ。
ただ、地味に勝った。
「これぞ……」
弓を肩に担ぐ。
「雨垂れ石を穿つ、ってやつだな」
意味(石に雨のしずく何十年もかけて穴をあける攻撃)
遠距離から、誰もいない魔王城に向かって叫ぶ。
「俺が勇者だあああああ!!」
……声は、むなしく山にこだました。
ナレーション(後日談)
この戦いは歴史にこう記された。
「魔王、原因不明のストレスと慢性的なダメージにより死亡」
弓の勇者の名は記録されなかった。
なぜなら。
姫もいなく、姿を誰も見ていないからである。
こうして世界は弓チクチク攻撃により、救われた。
とても地味に。
【弓の勇者、地味に世界を救う】 END




