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「……ちょっと、燕青おじさん! 引っ張らないで、転ぶじゃない!」


おじさんは私の文句を背中で受け流しながら、驚くほど軽い足取りで、それでいて有無を言わせぬ強引さで私の手を引き、石畳を駆け抜けました。

背後で役人崩れの殺気があふれ出したかと思った瞬間、おじさんはふっと口角を上げ、短く指笛を鳴らしました。


「いいからお嬢、今は美味い麺のことだけ考えてろ。墓参りの後の空腹は、仏様への不義理だぜ」


「意味の分からない理屈を言わないでよ!」


私たちが角を曲がり、湯気の立ち上る屋台の暖簾をくぐったその刹那。

背後の暗がりに、**「影」**が三つ、四つと降り立ちました。

それは燕青おじさんが臨安の浮浪児や野良犬たちの中から拾い上げ、密かに鍛え上げた「36群星」の直弟子たち。

悲鳴も、金属音すらもしない。

ただ、夜風が一度強く吹いた後には、そこには誰もいなかったかのような静寂だけが残されていました。


琥珀色のスープと、親子の境界線

屋台の隅、端が欠けた机に並んで座ると、すぐに熱々の湯麺たんめんが二つ運ばれてきました。

おじさんは割り箸を割ると、何事もなかったかのように麺を啜り始めます。


「……片付いたの?」


「何がだ? ……ああ、あいつらなら今頃、運河の魚と月見でもしてるだろ」


おじさんは琥珀色のスープを飲み干し、ふぅ、と息を吐きました。その横顔には、さっきまで私の手を引いていた「父親」の温もりと、闇を支配する「浪子」の冷徹さが同居している。


お嬢の独り言

「……燕青おじさん。あんたのそういうところが、母様を不安にさせたのよ。

人を愛する手で、平気な顔をして人を闇に葬る。

弟子の子供たちに汚い仕事をさせて、自分は娘と麺を啜る。

でも、その汚れた手で私の手を握る時、あんたが微かに震えているのを、私は知っているわ。

あんたは英雄でも何でもない。ただの、不器用すぎる一人の男。

『おじさん、麺が伸びるわよ。……それから、さっきの銭袋、あの中に工作員の兀突さん、自分の娘への手紙の返事、一言だけ書いてほしかったみたいよ』


おじさんは箸を止め、私を見ました。

『なんて書いてほしかったんだ?』


『……“元気でな”、だって。それだけのために、あんなに命を懸けてお金を運んできたのね、あの人は』


私は自分の麺を啜り、わざと大きな音を立てました。


おじさんはしばらく黙っていましたが、やがて私の頭に大きな手を置きました。


『お嬢。……お前が代筆屋で良かったよ。文字にできない思いを、お前なら拾ってくれるからな』


『……おべっかはいいって言ってるでしょ。麺代、三人分払ってもらうわよ。あの子たちの分もね』


店の外、闇の中に潜む弟子たちに、おじさんは無造作に肉まんを放り投げました。


36群星。

南宋の華やかな光に照らされることのない、夜の星々。


「さて、お嬢。明日は柴翊の旦那のところで、お礼の酒宴だ。

あんた、あんまり飲みすぎるなよ? 母様に似て、酒癖が悪いんだから」


「誰のせいだと思ってるのよ、このおじさん!」


私たちは、夜の臨安の喧騒へと戻っていきました。

不夜城の明かりは、私たちの影を長く、どこまでも長く引き延ばしていました。

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