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「……いい、燕青おじさん。段取りを間違えないでよ。

あのおデブな趙高官がニヤニヤしながら鉄券を撫で回し始めたら、それが合図。

あんたの役目は、外で控えている『あの男』に狼煙を上げること。……全く、あんな派手好きで食いしん坊な人を呼ぶなんて、代筆料よりも高くつきそうだわ」


私は柴翊様から預かった丹書鉄券を、特製の絹布で包み直しました。

もちろん、その裏には私が一晩かけて施した「ある仕掛け」が隠してあります。


鑑定会の乱、あるいは星の煌めき

趙高官の私邸は、腐敗した金で買い叩かれた贅沢品の博覧会場のようでした。

脂ぎった顔を上気させた趙高官が、私の手元にある鉄券を、飢えた獣のような目で見つめています。


「ほほう、これが柴家に伝わる免罪符……。どれ、国宝の真贋をこの私が見極めて進ぜよう」


鑑定士たちが虫眼鏡を手に、あーだこーだと御託を並べ始めました。

柴翊様は横で静かに立っていますが、その拳は微かに震えている。


「……燕青おじさん、今よ」

私は荷物持ちとして控えていたおじさんに目配せを送りました。

おじさんはニヤリと笑うと、懐から取り出した小さな笛を、音も立てずに吹き鳴らしました。

その直後です。


「ひかえおろう! 皇帝陛下のご名代であるぞ!」

屋敷の門を蹴破るような勢いで乱入してきたのは、きらびやかな官服をこれでもかと着崩し、手には「皇帝の勅令」を掲げた巨漢。

その威圧感と、腹の底から響くような大声に、趙高官は椅子から転げ落ちました。


お嬢の独り言

「……出たわね。

36群星の一員、『小旋風』柴進の親戚にして、元はと言えば梁山泊の『宴会部長』。

……いえ、失礼。**『撲天雕』李応りおう**おじ様。

燕青おじさんが呼べるツテの中で、一番『成金貴族の使い』に見えて、一番声が大きくて、一番押しが強い人。

あの官服、どうせ李応おじ様が自分の商売で使ってる舞台衣装でしょうに。


『趙財務官! 陛下は柴家の家宝が狙われているとの噂を耳にされ、ひどくお怒りである! この鉄券は、これより私が預かり、宮中にて改めて鑑定を行う!』


李応おじ様は、趙高官が反論する隙も与えず、机の上の鉄券をひったくるように抱え込みました。


趙高官は顔を青くしたり赤くしたりして、パクパクと口を動かしています。


『そ、そんな! 陛下がなぜ……!?』


『文句があるなら、明日の朝一番に参内されるがよい! ……行くぞ!』


颯爽と(というか、逃げるように)立ち去る李応おじ様。


燕青おじさんは、混乱する警備兵を鮮やかな足さばきで「いなし」ながら、私を抱え上げて窓から飛び降りました。


『お嬢、作戦成功だな! 李応の旦那、相変わらずいい声してやがる』


『……おじさん、揺らさないで! 気持ち悪くなるでしょ!』


夜の臨安を駆ける風の中で、私は柴翊様の方を振り返りました。


闇に紛れて屋敷を脱出する彼の顔に、ようやく安堵の笑みが浮かんだのを見て、私は自分の懐に隠した「本物」の鉄券を、ぎゅっと抱きしめました。


そう、李応おじ様が持ち去ったのは、私が一晩で作り上げた『時間が経つと墨が消える』ニセモノ。

明日、宮中に乗り込もうとした趙高官の手元には、ただの真っ黒な鉄屑しか残らないってわけ。


……さて、柴翊様。

助けたお礼は、燕青おじさんのツケの肩代わりじゃ足りませんからね。


最高級の茶葉と、しばらくの間の『静かな休日』を、私に用意してくださいな」



李応りおう: 大富豪で、今は臨安で手広く商売をしている。

演技力と貫禄は組織随一。

お嬢の偽造: 代筆屋の技術を悪用(?)した、完璧なレプリカ。

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