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「……なるほど。高官様が『文化の保護』という名目で、他人の家宝を召し上げようってわけね。南宋の役人が考えそうな、虫唾が走るほどありふれた筋書きだわ」
私は柴翊様が差し出した招待状を、指先でつまみ上げました。上質な紙に、これ見よがしに塗りたくられた金泥。
送り主の名は、臨安でも指折りの欲深さで知られる財務官・趙。
「鑑定と称して、屋敷に招き入れた瞬間に『これは偽物だ』と言い放ち、証拠物件として没収。
その後、その『偽物』は彼の秘密の蔵で『本物の国宝』に化ける……。使い古された手口だけど、権力者にやられると一番厄介なのよね」
私は柴翊様の、いつになく力なく伏せられた睫毛を見つめます。この人は、私に「義」と「礼」を教えてくれた。だからこそ、こんな汚い泥仕合には向いていない。
「燕青おじさん。あんた、さっきから何ニヤついてるの? 用心棒なら、その高官の喉笛でも掻っ切ってくる?」
「はは、お嬢、物騒なこと言うなよ。……だが、武力で解決すりゃ、柴家は朝廷を敵に回すことになる。翊、お前の手は汚させねぇよ」
燕青おじさんは、私の頭を乱暴に撫でました。
「お嬢、お前の出番だ。奴らが『鑑定』だと言うなら、こっちは『奇跡』を見せてやろうじゃねぇか」
お嬢の独り言
「……やれやれ。おじさんは簡単に言うけれど、相手は朝廷の財務を握る大物。
けれど、柴翊様が守ってきたこの屋敷の静寂を、あんな脂ぎった役人に踏み荒らされるのは我慢がならない。
代筆屋の仕事は、文字を書くだけじゃない。
『真実』を書き換えることだってできるのよ。
『翊兄様。その鑑定会、私も連れて行って。……柴家の遠縁の親戚、あるいは書生として。
おじさんは、せいぜい馬の世話係でもしてなさい』
『お、お嬢、俺は馬係かよ?』
『当たり前でしょう。あんたの顔は目立ちすぎるもの』
私は墨を摺りながら、頭の中で「偽造のさらに上を行く」計略を練り始めました。
皇帝直筆の『丹書鉄券』。その文字の癖、金の配合、数百年経った墨の沈み方……。
燕青おじさんから教わった「盗賊の眼」と、柴翊様から授かった「学問」が、今、最悪の形で実を結ぼうとしています。
さて、趙高官。
あんたが手にするのは、本物の国宝か。
それとも、一夜明ければ真っ黒な炭に変わる、私の『最高傑作』か。
……今夜は寝かせないわよ、燕青おじさん。
私の筆が止まるまで、あんたは墨を摺り続けること。いいわね?」
鑑定会当日
会場: 趙高官の豪華な私邸。
潜入: 燕青は馬係、お嬢の荷物持ちとして。
波乱: 鑑定が始まった瞬間、お嬢が仕掛けた「ある罠」が発動する……。
お嬢が仕掛ける「罠」。




