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「……よし、今月の『邸報』の骨子はこれで決まりね。文さん、小大さん、追い込みをかけるわよ!」
燕青おじさんが不在の間、店を支えてくれる弟子たちの情報網は、まさに「宝の山」でした。かつておじい様の代から続く宮中御用達の商いに関わっていた者たちが、今や内宮の奥深くで扱われる**「宋錦」**の最新の織り柄や、高官たちが密かに集めている骨董の趣味まで、生きた情報を次々と運び込んでくるのです。
錦の調べと、邸報の「甘い罠」
お嬢の独り言
「……ふふ、今回の邸報は、これまで以上に『蜜』の香りが強いわよ。
表紙を飾るのは、光沢鮮やかな宋錦の特集。
宮中の貴人たちがどのような色を好み、どのような文様を身に纏っているか。これを読めば、臨安中の富商たちがこぞって真似をしたがるはず。
それだけじゃないわ。
人事情報の裏には、新しく昇進した官吏たちが好む“趣味”の欄を設けた。
『あの方は釣りを好む』『あの方はこの産地の茶を愛でる』……。
これを読んだ下役たちは、こぞってその品を買い求めるでしょうね。
『お嬢様、素晴らしい。この記事一つで、臨安の絹の相場が動きますぞ』
おじい様の代からの付き合いだという古参の弟子が、満足そうに頷きました。
彼らが運んできた『産物の収穫情報』も正確そのもの。
今年の秋、どこの村で最高の茶が獲れ、どこの果実が甘いか。
それを知ることは、そのまま情報の覇権を握ることになるの。
『文さん、この宋錦の紹介文は、読んだだけで布の擦れる音が聞こえてくるような、贅沢な表現を使いなさい。小大さん、人事情報の枠には、さりげなくその官吏の出身地の特産品をあしらった装飾を彫って。……相手の自尊心をくすぐるのよ』
『師匠……もはやこれは情報の提供ではなく、人の欲望の“操縦”ですね。蕭譲のじい様も、ここまではやらなかったはずだ……』
文さんは呆れながらも、官僚たちが「自分のことが特別に扱われている」と錯覚するような、至高の敬語を並べ立てた記事を組み上げていきます。
お嬢の独り言
『いいのよ、文さん。
私たちは今、政府御用達の看板を盤石にしている最中。
こうして連中のご機嫌を完璧に取っておけば、裏でこっそり刷っている“陸游様の詩集”に、誰も疑いの目を向けなくなる。
光が強ければ強いほど、影は深く、見えなくなるものだから』
燕青おじさんの弟子たちが、手際よく仕上がった版木を運び出し、印刷の準備に取り掛かります。
彼らの動きは迅速で、それでいて私への礼節を欠かさない。
『おじさん、見てなさい。
あんたがいない間に、翊華印盤は臨安の経済と流行を司る“中枢”になったわよ。
帰ってきたら、この邸報の広告料だけで、おじさんに新しい船を三隻くらい買ってあげられるかもしれないわね』
工房に満ちる、新しい墨の匂いと、高価な織物の話題。
私たちの戦いは、刃を使わず、筆と色彩でこの都を飲み込んでいこうとしていました。
今月の『邸報』掲載
【巻頭特集】 禁裏を彩る「宋錦」の世界 —— 皇帝陛下が愛でる文様とは
【人事速報】 昇進高官の横顔 —— 趣味、嗜好、そして故郷の味
【実利情報】 地方収穫予報 —— 今秋、最も価値の上がる産物はこれだ
【文化欄】 貴族たちの間で流行する「多色刷り」の楽しみ。




