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「……ちょっと、あなたたち。そんなに畏まらなくていいってば」
燕青おじさんが海へ向かった後、店に現れたのは、おじさんが密かに育てていた「裏のネットワーク」の男たちでした。
驚いたのは、その顔ぶれです。
かつて北の地で、おじい様……**盧俊義**様の屋敷に出入りしていた大店の奉公人の息子や、おじい様の商売を陰で支えていた職人たちの末裔が混じっていたのです。
彼らは、私を一目見るなり、まるで本物の姫君に対するように深々と頭を下げました。
大名府の遺産と、冷徹な守護者たち
「お嬢様、燕青の旦那よりお預かりしたこの命、盧家の末端に連なる者として、粉骨砕身果たさせていただきます」
お嬢の独り言
「……その態度の丁寧なこと!
私が筆を持てばお茶を差し出し、一歩歩けば道を開ける。
正直、代筆屋の仕事がしづらくて仕方ないわ。
けれど、彼らの目は本物。
燕青おじさんがただの荒くれ者を育てていたわけじゃないことが、その無駄のない動きでよく分かるわ。
ところが、その丁寧さが一転、小大さんや文さんには雷のように厳しいのが困りもの。
『おい、そこの彫刻師! 版木の削りカスが散っているぞ。お嬢様の衣に付いたらどうする!』
『書生! その墨の摺り方では、お嬢様の繊細な運筆を妨げる。もっと魂を込めて摺らんか!』
小大さんは顔を真っ赤にして彫刻刀を握り直し、文さんはビクビクしながら墨を摺っている。
……ふふ、ちょっとだけ面白い光景ね」
隠密出版の「鉄壁」
けれど、彼らが加わったことで、陸游様の詩集の隠密出版は、もはや「完璧」と言える次元に達しました。
鉄の仕入れ: かつて盧家の商いを支えた目利きたちが、書店の名前を使って最高級の紙と墨を、一切の足をつけずに運び込む。
闇の運搬: 臨安の地理を知り尽くした彼らが、深夜の運河や裏路地を使い、刷り上がった本を音もなく都中に散布する。
情報の盾: 役人が嗅ぎ回ろうものなら、彼らが先回りして別の噂を流し、注意を逸らしてしまう。
『おじさん、見てなさい。
あなたの弟子たちは、想像以上に“盧家の誇り”を忘れていなかったわよ』
私は、彼らが用意してくれた最高級の静寂の中で、再び筆を執りました。
外では役人の巡回する足音が聞こえるけれど、この印刷所の裏手は、今や臨安で最も安全な、聖域と化している。
『小大さん、文さん。彼らの小言は“期待”だと思って我慢なさい。……さあ、次の版に取り掛かるわよ。今夜中に、あと三百冊!』
『……へい、師匠(お嬢様)!』
二人の返事まで、なんだかいつもより気合が入っているみたい。
燕青おじさんが繋いでくれた、時を越えた絆。
それが、今の私の筆に、かつてない強さを与えてくれています」




