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「……ちょっと、燕青おじさん。今、なんて言ったの?」


私が筆を止めて顔を上げると、おじさんは手にした一通の書状を、複雑な表情で見つめていました。そこには、南宋の龍の紋章ではなく、さらに南の海を越えた異国の王室の印章が、重々しく押されていたのです。


扶桑の波濤、李俊からの招喚


差出人は、かつて梁山泊で「混江龍こんこうりゅう」と恐れられ、今は海の向こうで一国の王となった**李俊りしゅん**様のご子息。


お嬢が仕上げたあの「星の羅針盤」と、小大さんの精密な細工の噂が、波濤を越えて王宮にまで届いたというのです。


「数百個の羅針盤の注文、そして……『燕青に直接来てもらいたい』、か」


おじさんは低く呟きました。

単なる商売の域を超えている。これは、かつての群星たちが結んだ、血よりも濃い絆が呼び寄せた宿命。


お嬢の独り言

「……李俊様といえば、おじい様たちと一緒に戦い、最後は海へ消えた伝説の英雄。

その息子さんが、わざわざ燕青おじさんを指名してくるなんて。

数百の羅針盤があれば、巨大な船団が海を埋め尽くすことになるわ。それは、新しい時代の幕開けか、あるいは……。


『おじさん、行くんでしょ。……断る理由なんて、あんたにはないものね』


『ああ。李俊の旦那の息子が困ってるなら、放っておけねぇ。それに、この羅針盤があれば、南宋の腐った役人たちの手の届かない、本当の自由な海へ道が繋がる』


おじさんは、私の頭を乱暴に撫でました。

その手は少し震えていたけれど、瞳にはかつての『浪子』の輝きが戻っていました。


『文、小大。お嬢を頼むぞ。……お嬢、俺がいなくても、翊華印盤の火を絶やすなよ』


『……当たり前じゃない。あんたが帰ってきた時に、度肝を抜くような多色刷りの新聞で臨安を埋め尽くしてあげるわよ』


私は、李俊の子息へ宛てた『承諾の返信』を、最高級の墨と、王室にふさわしい気品あふれる書体で書き上げました。


そして、その文字の隅に、密かに祈りを込めた小さな麒麟の紋を添えて。


『さあ、おじさん。これを持って行きなさい。

李俊様の息子さんに伝えなさいな。……“羅針盤の針は、常に信頼できる友の方を向いている”ってね』」


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