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「……よし。これで臨安中の溜息を、色鮮やかな言葉に変えてみせるわ」


私は、彩雲さんが丹精込めて調合した「紅梅色」と「露草色」が幾重にも重なる、套印(多色刷り)の便箋を手に取りました。


今回の作戦はこう。

まずは提携している書店に、この多色刷りの**『恋文手本こいぶみてほん』**を美しく並べてもらうこと。ただし、便箋そのものはバラ売りせず、書店で好きな色付きの紙を選んで買ってもらう。そして、その特別な紙を私の店に持ち込んでもらい、私がその人のためだけに「代書」を引き受ける……。


効率は悪いかもしれない。けれど、私はただ文字を並べるだけの機械にはなりたくないのです。


彩りの言の葉、心の代筆人


お嬢の独り言

「……代筆屋の看板を掲げてから、いろんな文字を書いてきた。

税の計算、薬の処方箋、堅苦しい人事異動。

けれど、本当に書きたいのは、そんな無機質な記号じゃない。

誰かを想って眠れない夜の、あの胸の疼き。

言葉にしようとすればするほど指先から逃げていく、不器用な情熱。

私は、その人の心の輪郭を、この色付きの紙の上に描き出したいの。

『師匠、表にまた一人、書店の包みを持った娘さんが来ていますよ。……今度は、武官の若様に贈る文だそうです』

文さんが、蕭譲譲りの丁寧な所作で客を案内してきました。

小大さんは、次の新作版木として「散りゆく桜」の細工を黙々と削っている。

『さあ、こちらへ。……あなたがその紙を選んだ理由、そして、伝えられずにいる言葉を、ゆっくり聞かせてちょうだい』

私は、持ち込まれた淡い浅葱色の紙に、墨を含ませた筆をそっと落としました。

依頼人の震える声が、私の耳を通じて、文字の強弱や掠れへと変換されていく。

『……おじさん。見てて。

これが、翊華印盤と代筆屋が辿り着いた、本当の“表現”よ』

燕青おじさんは、離れた席で酒を転がしながら、満足そうに目を細めていました。

『ああ。邸報で天下を揺らし、御前代筆で皇帝を動かす。だがお嬢、お前が一番いい顔をして筆を走らせるのは、やっぱりこういう、名もなき誰かの想いを綴っている時だな』

夕暮れの街角。

書店で色紙を買い、期待に胸を膨らませて私の店へと急ぐ人々の影が、石畳に長く伸びていく。

多色刷りの色彩と、私の文字、そして誰かの純粋な想い。

『さあ、次の人。

あなたの心、私が一番美しい色で、書き写してあげるわ』」


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