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「燕青おじさん」。……ふん、本人の前でそう呼ぶと、あのアホみたいに若作りな色男は「おじさんはよせ、せめて兄貴か燕兄と呼べ」なんて、眉を寄せて宣う。
でも、私にとっては物心ついた時から、この得体の知れない「浪子」はおじさん以外の何者でもありません。
「ちょっと、燕青おじさん。その薄汚れた外套を脱いだらどう?
私の店は代筆屋であって、物乞いの休憩所じゃないんです。
あんたが連れてきたその『お客様』……ただの商人じゃないわね。
左の手首、筆を持つタコじゃない。あれは暗器を仕込み続けた跡。……金国の特務機関、あるいはその手の類でしょう?」
燕青おじさんは、困ったように鼻の頭を掻きながら、いつもの、女を蕩かすような締まりのない笑みを浮かべました。
「相変わらず目が鋭いねぇ、洞察力だけで天下の商売を牛耳れただろうに」
「おべっかはいいから。……で、この男に何を書かせたいの?
遺言? それとも、北への寝返りの密告書?」
娘は墨を摺りながら、冷めた目で二人を見据えます。
南宋の夜風が、運河の湿り気と共に、きな臭い事件の香りを運んできました。
【燕青おじさん、実は、父、物心付いた折から家には居らず、たまに顔を見せたのでおじさん】
娘は、「燕青おじさん」。燕青は彼女を「お嬢」と呼ぶ。
燕青は彼女の鋭すぎる毒舌にタジタジだが、その実力を誰よりも信頼している。
お嬢のスタンス: ただ、この平和ボケした臨安で、燕青が持ってくる厄介ごとを片付けながら、飄々と生きていくのが信条。
この金国の工作員(らしき男)、実は「ある意外なもの」の代筆を頼みに来た?




