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ここは、都市文化と生活: 都の臨安(杭州)。
南宋、不夜城の喧騒
時は、南宋。
かつて北の広大な大地を失い、悲劇の中で産声を上げたはずのこの王朝は、今や皮肉にも人類史上もっとも華やかな「黄金の斜陽」を謳歌していた。
都・臨安。
運河には真珠や香料を積んだ異国の船がひしめき、街には昼夜を問わず演劇や角力の嬌声が響き渡る。
羅針盤が海を制し、火薬が夜空を焦がし、紙幣が乱れ飛ぶ。
だが、この眩暈がするほどの繁栄は、脆い薄氷の上に立っている。
北には虎視眈々と南下を狙う金国の影。
内には私欲に溺れ、平和を金で買う腐敗した役人たち。
そんな「腐りかけた極楽」の片隅。
運河のほとりの古びた店で、筆を執る一人の娘がいる。
彼女が代筆するのは、恋文か、あるいは亡国への遺言か。
その背後に立つのは、かつて天をも揺るがした豪傑の末裔と、不敵に笑う伝説の「浪子」。
歴史の教科書には決して記されない、「北斗星 36群星」。
彼らの、愉快で、毒に満ちた暗躍が今、ここから始まる。
「……さて。前置きはこのくらいでいいかしら。
表の通りじゃ、お気楽な連中が龍の舞を踊っているけれど、私の机に置かれたのは、そんな景気のいい話じゃない。
燕青おじさん。
突っ立ってないで、その薄汚れた外套を脱いだらどう?
あんたが連れてきたその『お客様』……ただの商人じゃないわね。
首筋に隠したその刺青、金国の特務機関のものでしょう?」
――彼女の鋭い視線が、燕青と、彼が連れてきた怪しげな男を射抜きます。




