第八話「城に来るな(でも来た)」
魔王城に、客が来た。
それも、大軍で。
城の斥候から報告が届いた時、カイゼル様はちょうど私の作った昼食を食べていた。
報告を聞いた彼は、スプーンを置き、ゆっくりと立ち上がった。
「また、か」
「は。隣国のルデリア王国軍、推定三千。城門の手前で陣を張っております」
「……行く」
「カイゼル様! お食事の途中では……」
「問題ない」
彼は席を立ちながら私を一瞥し、付け加えた。
「温めておけ」
それだけ言って、城を出た。
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私は窓から、遠くの城壁を眺めていた。
魔界の空が、赤みを帯びていく。
あれほどの大軍が来ているというのに、城の内側は妙に静かだった。
「大丈夫なのでしょうか」
隣のダンクル氏が腕を組んだ。
「カイゼル様は魔界最強の魔王。人間の軍が三千来ようと、問題はない」
「でも……」
「問題は、その兵士たちが踏み荒らした庭の方だ」
私はハッとした。
「庭!!」
靴を履きかえて、中庭へ飛び出した。
大軍が通った道には、ルデリア軍の先兵が踏み込んだらしく、石畳の端が崩れていた。
私は腕まくりをした。
「……お掃除します」
【 領域浄化スキルが発動しました 】
【 周囲100mの瘴気を除去。地脈の流れを整えました 】
後で聞いた話では。
城門前で布陣していたルデリア軍が、突然全員「頭がスッキリした」「体が軽い」「帰りたい気分になった」と感じ始め、将軍が「本日は引き上げ!」と号令したという。
カイゼル様が城外に出た時には、もう敵軍は撤退を始めていた。
「……今日は戦わずに終わったようだが」
「庭を直しておきました」
「……そうか」
長い沈黙。
「……今後は、外に出るな」
「え?」
「貴様が外に出ると、将軍を出す必要がなくなる。都合が悪い」
どういう意味だろうと考えていると、カイゼル様はくるりと背を向けた。
「……温めておいてくれたか」
「はい。スープが良ければすぐ出せます」
「……頼む」
彼の背中が、わずかに丸まっていた。
少し、疲れているのかもしれない。
私は厨房に戻りながら、心なしか急いで、夕食の支度をした。
第八話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
ルデリア軍の「スッキリした、帰りたい」……完全にルナちゃんの無自覚チートが国防に貢献してしまいましたね笑
カイゼル様の「外に出るな(都合が悪い)」も、実は心配しているだけなの、みんな気づいていますよね。
次回は第9話!城の人々とルナの距離がもう少し縮まります。お楽しみに!
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