第七話「水晶の浴場と魔界温泉、爆誕」
魔王城の地下には、巨大な浴場があった。
柱廊が立ち並ぶ、古代神殿のような構造。
床と壁は青みがかった石で、天井には星を模した穴が無数に開いている。
しかし——槽の中には、黒ずんだ泥が固まっていた。
「……これは、クリーニング基準で言うと最上位ランクですね」
私は腕まくりをして、溜息をついた。
ゾルク様が遠くで「人間に掃除をさせるのはさすがに申し訳……」と呟いていたが、気にしない。
魔界産の素材でできた石は、普通の洗剤では落ちない汚れが染み込んでいた。
私はあれこれ試しながら、厨房から借りた木灰と岩塩を組み合わせた洗浄剤を作った。
磨き始めると——あの光の文字が流れた。
【 深浄化スキルが発動 】
【 石材に封じられた古代瘴気を除去中 】
【 除去完了。浴槽素材の本来の効能が復元されました 】
「……本来の効能?」
疑問は一瞬だった。
磨き終えた浴槽の壁面が、内側から青白くほろびき始めたのだ。
そして底から、ぽこ、ぽこ……と泡が湧き出してきた。
「え?」
泡から、ゆらゆらと湯気が立ち上る。
温泉だ——いや、違う。含まれた魔力の量が、普通の温泉とは桁違いだ。
空気が甘い。頭の先からつま先まで、体の芯が緩んでいく感覚がある。
「……ルナちゃん」
ゾルク様が震える声で私を呼んだ。
「これ、知ってるか。千年前の伝説に記録されている、魔界の聖泉なんだが……」
「聖泉?」
「一度でも浸かれば、魔力が回復し、不治の傷も癒えると言われていた。だが千年前に瘴気が濃くなって以来、誰も見たことがなかった……」
「掃除したら出てきました」
少しの沈黙。
「……お前、本当に只者じゃないな」
「掃除が好きなだけです」
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自然発生的に、その日の夜は入浴会になった。
竜族の長老が呼ばれ、大きな体を湯舟に沈めた瞬間、白目をむいて「千年ぶりに体が軽い……!!」と泣き崩れた。
ゾルク様がほぼ溶けている。
私は女性専用の時間を設けてもらい、一人でゆっくり浸かった。
温かい。体の芯まで温まる感覚。
ふと気づくと、入り口の影に、カイゼル様が腕を組んで立っていた。
すぐに気づいて視線を逸らしたが——その口元が、ほんのほんの少しだけ、緩んでいた。
「……女性用の時間は終わりましたか?」
「……ああ」
「ではお先に失礼します。ごゆっくりどうぞ」
カイゼル様はそれ以上何も言わなかったけれど、その夜を境に、彼の巡回コースが浴場を含むようになったのを、ゾルク様から後で聞いた。
第七話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
千年ぶりの温泉、白目をむく竜族の長老……ルナちゃん、もはや伝説を復活させる存在になっていますよね笑
カイゼル様の口元のシーン、気づいてくれましたか?あの方、じわじわと柔らかくなっています。
次回は、じわじわとコメディが加速する第8話です。お楽しみに!
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