第十七話「城を出ようとした朝」
朝目が覚めた時、私は一つの決意をしていた。
——そろそろここを出よう。
理由は単純だ。
カイゼル様の「居てくれ」という言葉が、嬉しかったからこそ。
この城に依存しすぎてはいけない、と思った。
私はあくまで「賄い方」として置いてもらっている存在だ。
いつかカイゼル様に正式に番ができれば、人間の女が城に居続けるのは場違いになる。
出ていく前に环境を整えよう。
引き継ぎの手順書を書いて、せめてこの城が困らないように。
私はその日から、こっそり準備を始めた。
---
気づいたのは、ゾルク様だった。
「……ルナ嬢。なんか変なもの書いてるな」
「厨房の管理マニュアルです」
「……なんで急に……あ」
ゾルク様の顔色が変わった。
「まさか。出ていくつもりか?」
「いずれは、そうすべきかと」
「なんで。カイゼル様は——」
「ご迷惑はおかけしたくないので」
「迷惑って……お前が来てから城がどれだけ……!」
「ゾルク様」
私は振り返って、笑った。
「ここは本当に居心地が良くて。だから——もう少しいると、離れられなくなってしまうので」
ゾルク様は何かを言いかけて、黙った。
---
翌朝、城門に向かおうとした私の前に、カイゼル様が立っていた。
「……どこに行く」
声は、静かだった。
「少し外に出ようかと」
「荷物を持って?」
……バレていた。
カイゼル様の目が、私を真っ直ぐに見ている。
「……貴様を行かせるつもりはない」
「でも——」
「行くな」
その二文字が、石畳に落ちるように響いた。
「……余が、嫌いになったか」
「そんなことは——」
「では、行くな」
また、静かな繰り返し。
カイゼル様の手が、私の腕を——触れるか触れないかの距離で止まった。
「……ここが、貴様の居場所だ」
私は深呼吸をした。
「……わかりました」
その一言で、カイゼル様の肩から、何かが抜けていくのが見えた。
第十七話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
ルナちゃんなりの考えだったんですよね。迷惑をかけたくない、依存したくないという……。
でもカイゼル様の「居場所だ」という言葉!!ここは感情の第一の山場です。
次回はこの話の続きと、カイゼル様の内面が少し描かれます。お楽しみに!
ブックマーク・評価お待ちしています✨




