第十四話「魔族のお祭り」
魔界には祭りがあった。
春分の夜——正確には魔界の「精霊の還元節」というらしいが——城下の街に灯りが溢れる日がある。
「ルナ嬢、今夜は街に出てみないか?」
ゾルク様が、珍しく嬉しそうな顔で声をかけてくれた。
「祭りがあるのですか?」
「ああ。百年に一度の規模だ。魔界中の種族が集まって、好き勝手やる」
「ぜひ!」
私は即答した。
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城下は、想像以上の賑わいだった。
竜族が空に炎を吹いて、それが花火のように散る。
狼族が太鼓を打ち鳴らし、吸血鬼族がそれに合わせて踊る。
屋台には、魔界産の食材を使った料理が並んでいる。
私は目を輝かせながら、ゾルク様と歩いた。
「あれは何という食べ物ですか?」
「黒薔薇蜜のクレープ。高貴な香りがするぞ」
「これは!?」
「溶岩石の串焼き。口に入れると火が煌く」
「食べてみます!」
「人間に耐えられるか……?」
口に入れた瞬間、舌の先がじわりと温まった。辛い、というよりも、体の芯まで熱が届くような感覚だ。
「……おいしい!!」
「本当に?」
「はい! 聖女の浄化体質だと熱が中和されるのかもしれません」
ゾルク様が「もはや何でもありだな……」と遠い目をした。
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夜が深くなり、メインの灯籠流しが始まる頃、後ろから「そこにいたか」という声がした。
カイゼル様がいた。
いつもの漆黒の衣装に、今日だけは領帯に深紅の花飾りが付いている。
「……カイゼル様もいらしたんですか!」
「……視察だ」
「視察でそんな可愛い花を……」
「うるさい」
でも逃げなかった。
三人で灯籠流しを眺めた。
青い炎の灯籠が、月光を受けながら空へと昇っていく。
「……綺麗」
私は小さく呟いた。
カイゼル様も、黙ったまま同じ方向を見ていた。
その横顔が、揺れる炎に照らされて、なんだかとても穏やかに見えた。
第十四話 完
お読みいただき、ありがとうございます!
溶岩石の串焼きにも動じないルナちゃん……本当に頼もしいですね笑
カイゼル様の「視察」理由も可愛すぎます。
次回は少し感情が動く場面があります。お楽しみに!
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